リビアン(Rivian)の電動ピックアップトラック『R1T』2022年モデル。レガシー自動車メーカーの後発モデルと厳しい競争にさらされている。
Rivian
かつてウォール街の寵児だったリビアン(Rivian)は、アメリカの自動車産業で最も儲かるセグメントとされるピックアップトラックに特化した戦略をとる最初の電気自動車(EV)スタートアップとして名声を得た。
2019年、リビアンがアマゾン(Amazon)とフォード(Ford)から資金を調達して開発体制を強化したとき、他の自動車メーカーはまだそれぞれの人気ピックアップトラックモデルの電動化計画を発表していなかった。
のちに相次いで明らかにされた各社の数十億ドル規模におよぶ巨額投資は、まだほんの初期段階にとどまっていた。
そうしたいわゆる「ブルーオーシャン」の構図が見てとれたからこそ、リビアンはEV開発競争、特にピックアップトラックという最重要セグメントで支配的なシェアを獲得できる可能性が高いと、投資家たちは確信したのだろう。
実際のところ、ピックアップトラックは今日においても(中古を含めた)取引価格が上昇を続けていて、顧客ロイヤルティ(=サービスやプロダクトへの信頼や愛着)も高く、フォードやゼネラル・モーターズ(GM)に代表されるアメリカの自動車産業にとって不可欠の利益ドライバーとなっている。
S&Pグローバル・モビリティのプリンシパルアナリスト、デヴィン・リンゼイは電動ピックアップトラック市場はこれからさらに企業が密集する「レッドオーシャン」化が進むと指摘する。
「もしあなたがピックアップトラックメーカーの経営者だとしたら、いますぐ既存のラインナップを電動化してあらゆる注目をそれに引きつけるつもりで取り組んだほうがいいでしょう。早い段階で顧客を囲い込むに越したことはありません」
ただ、ほぼ敵なしの状態だったリビアンのリードは、この1年で劇的に縮まった。
自動車産業に新規参入を企てた多くのスタートアップが経験してきたのと同様に、リビアンも製造プロセスにおける幾多の課題に苦しめられた。
その間にフォード、GM、独フォルクスワーゲン(VW)などレガシー自動車メーカーが電動化ピックアップトラック(あるいはその開発計画)を発表。その一部はリビアンを上回るペースで市場投入が進んでいる。
自動車産業の専門家やアナリストは、フォードの『F-150 ライトニング(Lightning)』がリビアンにとって最も差し迫った脅威と指摘する。
また、GMブランドのGMC『ハマー(Hammer)EV』、同シボレーの『シルバラード(Silverado)EV』、電動車としての復活が発表されたばかりのVWブランド『スカウト(Scout)』も、リビアンのピックアップトラックセグメントにおけるシェア拡大計画を挫(くじ)く可能性がある。
もちろん、テスラ(Tesla)が開発を進める話題性十分の『サイバートラック(Cybertruck)』も、発売されれば必ずや台風の目になると期待する向きは相変わらず多い。
こうした厳しさを増す市場の競争環境に加え、リビアンの株価は2021年11月10日の新規株式公開(IPO)後につけた最高値(179.47ドル)から85%程度下落しており(6月17日時点)、業界の専門家や投資家にとっての懸念材料となっている。
リビアンのR・J・スカーリンジ最高経営責任者(CEO)は上場後最初の四半期決算発表で、同社の経営チームが上場以来、市場の変化と投資家の要求に対応するために「途方もない時間」を費やしてきたことを強調した。
同社は現在、『R2』プラットフォームを含めた新規プロダクトの開発と、発表済みのピックアップトラック『R1T』、多目的スポーツ車(SUV)『R1S』、およびアマゾン向け配送用バン『EDV 700』という3モデルの生産を並行して進めている。
スカーリンジは「既存拠点の生産能力を引き上げ、それに伴う収益を最大化することにまずは全力をあげて取り組んでいます」と語る。
消費者はもう待ちきれない
フォード、GM、VWをはじめ、ピックアップトラックの開発を進めるレガシー自動車メーカーは、リビアンのようなスタートアップに対して本質的な強みを有する。
既存のリソース、人材、生産拠点を活用することで、一定規模の台数をよりスピード感をもって生産できる能力に加え、(フォード)『Fシリーズ』や(シボレー)『シルバラード』のように何十年にもわたって愛される名車が誇るブランドロイヤルティを継承できることが、そうした強みにあたる。
フォードが『F-150 ライトニング』を発表したのは2021年5月で、リビアンの『R1T』発表(2018年11月)から実に3年後。
ところが、フォードは発表からわずか1年弱で生産開始(2022年4月26日)にたどり着き、それから間もなくの5月上旬時点で生産台数は2800台に達した。
同社バイスプレジデント(グローバルEV計画担当)のダレン・パーマーが専門メディア「インサイド(Inside)EVs」(5月9日付)の取材に応じ、上記の実績を明らかにしている。
フォードは2023年には『F-150 ライトニング』の年間生産能力を15万台とする計画を発表。対するリビアンは、2022年第1四半期(1〜3月)に2553台を生産、同1227台を納車。2022年の合計納品台数は2万5000台を予定している。
リビアン『R1T』ローンチエディション納品時の動画。電気自動車専門動画チャンネル「キロワット(The Kilowatts)」より。
The Kilowatts YouTube Channel
EV向け車載電池寿命可視化ソリューションを手がける米リカレントによる最新(6月11日付)の予約台数調査によれば、足もとで電動ピックアップトラックに需要が集中しており、購入希望者のなかには複数のモデルに予約注文を入れて最初に納品可能になったものを購入する構えの人もいるという。
専門家はこうした状況もリビアンにとって不利に働くおそれがあると指摘する。米市場調査会社オートパシフィック(AutoPacific)のアナリスト、ロビー・デグラフはこう説明する。
「リビアンには越えねばならないハードルがこの先いくつも待っています。
例えば、消費者はもう待ちきれなくてウズウズしている状態です。リビアンの『R1T』より半年早く『F-150 ライトニング』が手に入るのならもう思い切ってそうしてしまおうか、そんなふうに考える人もいるかもしれません」
市場にはまだ参入余地あり
ただし、ピックアップトラック市場に参入する余地はまだあるとみる専門家もいる。とりわけ、ニッチなニーズに特化した取り組みには勝機もありそうだ。
『R1T』の荷台脇からキャンプ用キッチンを引き出して利用中。日本のアウトドアメーカー「スノーピーク(Snow Peak)」とのコラボモデルも登場。
Rivian
米経営コンサル会社アリックスパートナーズ(AlixPartners)自動車・産業機械プラクティス(研究)部門のグローバル共同責任者、マーク・ウェイクフィールドによれば、ピックアップトラック市場の競争参入はスタートアップにとって「解決すべき課題を伴う」ものの、需要は旺盛なので新たなイノベーションの余地も大きいという。
「より小さなセグメント、サブセグメントを狙って、大企業がやらないことに特化すれば、大企業を差し置いて優位に立てる可能性もあります」
リビアンにとって有利に働くのは、すでに市場投入済みのモデル、これから投入されるモデルを問わず、市場の大きいピックアップトラックにはそれぞれに異なる購買層が存在するという事実だ。
リビアンはデビューモデル『R1T』を含むラインナップを「アドベンチャー・ビークルズ」と位置づけ、荷台脇から引き出して使うビルトイン型のキャンプ用キッチンや荷台上部に据えつけるテントなど、奇抜なアドオン(拡張オプション)を装備している。
同社は現在、米イリノイ州ノーマルに年間生産能力15万台の工場(2015年に閉鎖した北米三菱自動車の生産拠点を17年に取得)を有し、2024年稼働開始を目指してジョージア州アトランタに最大生産能力40万台の工場建設を計画している。
また、スカーリンジCEOはイリノイ工場の年間生産能力を20万台まで拡張する計画も明らかにしている。
「リビアンが自ずから競合を警戒すべきなのか、私には何とも言えません。それは、『R1T』の購入者が『F-150 ライトニング』あるいは『ハマーEV』の購入者と同じタイプとは思えないからです。
いま言えるのは、ピックアップトラック市場ではこれからさらにプレーヤーが増え、競合が激化していくということです」(デグラフ)
(翻訳・編集:川村力)