中国の不動産市場の低迷が続き、規制緩和の動きが活発化している。
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中国の不動産市場の低迷が長期化している。2021秋の恒大集団巨額債務ショックで調整局面に入り、ゼロコロナ政策による行動制限が追い打ちをかけた。
財政や地方経済への影響を懸念した政府が春から規制を緩和し、少子化対策と景気対策の一石二鳥を狙い、2人以上の子を持つ家庭への優遇策を導入する都市も相次いでいる。中国は不動産バブルと不況を繰り返しているが、年内の復調は見込めるのだろうか。
恒大債務危機にゼロコロナ追い打ち
国家統計局が6月15日に発表した5月の新築住宅価格は、70都市中43都市で前月から値下がりした。 北京、上海、広州、深センの1級都市は0.4ポイント上昇したが、それ以外は下がった。前年同月比で見ると、新築は46都市、中古は57都市で価格が下落した。
今年1~5月は不動産開発投資、着工面積、販売面積・販売金額、そして不動産企業の資金調達とあらゆる不動産指標がマイナス圏に突入した。販売面積は同23.6%減、販売額は同31.5%減と、下落幅も小さくない。
中国の不動産市場は2020年まで数年にわたって住宅バブルが続き、資産を持つ人が転売目的で不動産を取得する一方で、多くの国民には手が届かない価格になっていた。建てれば売れる状況に、デベロッパーも借金を膨らませるだけ膨らませて規模を拡大した。政府は2020年以降、バブルの沈静化に向けて業界の規制を強化したが、その結果、業界最大手で総額33兆円の債務を抱える中国恒大集団の債務危機が2021年9月に表面化した。
恒大は今なお綱渡りの経営が続くが、「同危機は一社の問題ではない」と言われていた通り、業界全体に信用不安が広がり、先行き不透明なまま年を越した。そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスの拡大とゼロコロナ政策による行動制限だ。
特に3月末から2カ月以上続いた上海のロックダウンでは、同市内で新車が一台も売れず、(窓口が閉まっているため)結婚・離婚件数がゼロになるなど、経済活動が全停止した。
中国不動産サービスの克而瑞によると、コロナ禍の影響で20以上の都市で販売活動が停止した。1~4月の不動産上位100社の販売総額は前年同期比52.8%減の1兆4814億元( 約29兆6000億円 )。4月単月だと同63%減の3475億元(約7兆円)に落ち込んだ。
地方都市で規制緩和急増
不動産市場は地方経済への影響が大きく、救済を模索する地方都市も少なくない。
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5月には不動産販売で3位の融創中国が、2023年10月に満期を迎える社債の金利2947万ドル(約39億円)を支払えず、債務不履行(デフォルト)に陥ったと発表した。恒大危機が表面化した際に、「次の恒大」と真っ先に名前が挙がった同社は、コロナ禍の影響で3、4月の販売金額が同65%減少した。
単価が大きく、開発や資金回収にも時間がかかる不動産の不況は地方経済に与える影響が大きい。それなりの代償覚悟で不動産バブル退治に取り組んできた政府も、ゼロコロナによる景気の下振れを受け、規制緩和に踏み切った。
克而瑞によると、1~4月に購入規制緩和や頭金比率の低下など住宅市場の規制を緩めた都市は83に上る。5月に入るとその動きは加速し、不動産企業の資金調達を支援したり、国営企業が民営企業に出資する動きも活発化した。
恒大と業界首位を争う碧桂園控股は5月、社債発行で最大5億元(約100億円)を調達すると発表。その直後に同業の龍湖集団も同額の社債発行を決めた。
中国人民銀行(中央銀行)と中国銀行保険監督管理委員会は5月15日、住宅ローン金利の下限の引き下げを発表した。中国不動産市場は数年ごとにバブルと厳しい締め付けによる冬の時代を繰り返してきたが、コロナをきっかけに早くも転換点を迎えた。
2人以上の子を持つ世帯向け優遇策
少子化対策と不動産購入促進策を組み合わせる自治体も相次ぐ。
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とは言え、習近平政権の政策の方向性は格差縮小を実現する「共同富裕」であり、投資目的の不動産購入はできるだけ抑え込みたい。そこで増えているのが、少子化対策を兼ねた規制緩和だ。
大都市を含む多くの地方が、2人もしくは3人以上の子どもを持つ世帯を対象に住宅購入制限を緩和した。東莞(広東省)、南京(江蘇省)両市は2軒目の購入を容認し、南京市は住宅ローンの金利も優遇する。杭州市(浙江省)は、3人の子を持つ家庭の購入規制を緩和したほか、取得の際の抽選でも優遇することを決めた。
子どもが2人以上いる家庭が住宅を購入する際に、融資枠を最大20%拡大する舟山市(浙江省)のように融資で優遇する都市も多い。また陶器の街として日本でも有名な景徳鎮市(江西省)は、2人以上の子どもがいる家庭が住宅を購入する際に、1平方メートルあたり200~300元(約4000~6000円)の補助金を支給すると決めた。
中国は結婚と前後して住宅を取得するのが普通で、子どもが増えれば買い替え需要が期待できる。住宅取得で優遇することは、子育て世帯の負担軽減にもつながる。
不動産市況が低迷しているとはいえ、資産としての不動産への信頼は相変わらず高く、政策が許せば2軒目の住宅を購入したいと考える人は少なくない(実際、筆者が中国で働いていたとき、同僚の多くが近隣地域に住宅を2軒保有していた)。
東莞や杭州などの大都市では、これら支援策の発表翌日に、住宅ショールームの来訪者が激増するなど、効果はてき面だという。
政策支援、大都市と大企業のみ恩恵か
中央政府と地方政府の規制緩和は、景気回復と業界の健全発展につながるのだろうか。
国家統計局国民経済総合統計司の付凌暉司長は今月の会見で、不動産業界は景気の底を脱し、今年後半に規制緩和の効果が表れるとの考えを示した。
特に1級都市は実需が底堅く、上海は2カ月の封鎖でも取得意欲がそれほど落ちなかった。これといった規制緩和が導入されていない深セン市(広東省)も、中古住宅の取引価格が上昇に転じた。
一方で、地方の3、4級都市は、規制緩和の効果が限られているとの見方が多い。そもそもバブルによって実需以上の住宅が市場に供給されており、多少の支援策では焼け石に水だからだ。
不動産企業も同様で、政府の支援を受けられているのは、財務基盤が比較的健全な大手に限られ、中堅企業以下はゼロコロナによる消費の冷え込みで一層危機が深刻化している。大手は規制緩和で一息つけるかもしれないが、デフォルトや経営破たんはむしろこれからが本番となる可能性が高い。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。