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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
この先、何度か転職することを想定し、「どうすれば自分の実績を証明できるか」について悩んでいらっしゃいます。
Aさん
これまでに2回転職を経験し、今は3社目で働いています。自分はどんどん新しいスキルを身につけたり、いろいろな業種・商材を経験したりして、キャリアの幅を広げていきたいと思っています。だから、この先も何度か転職することになるでしょうが、不安に感じている点があります。
1回目の転職は、元上司や同僚がいる会社から誘われて移ったので、スムーズでした。しかし2回目の転職では、自分の経験や実績をうまく伝えられず……。実績を評価するというより「ポテンシャルに期待する」ということで採用はしてもらえましたが、年収は下がりました。
入社後も、ゼロから実績を積み重ねていかなければならず、やりたい仕事を任せてもらえるまで時間がかかりそうです。
そこでふと思ったのが“キャリア信用スコア”のようなものがあればいいのに、ということです。自分の実績を客観的な指標で可視化する仕組みがあれば、転職市場で正当に評価され、見合う年収やポジションを得られるのに、と。
しかし、社会にそういう仕組みがない以上、自分で“キャリア信用スコア”を高めていく必要があると思います。そのためにはどのような方法があるでしょうか。
(30代前半/男性/ウェブマーケティング職)
成果だけでなく「プロセス」を語れるように
2回目の転職活動の際、もしかするとAさんは「こんなツールを使って、こんなプロジェクトを担当してきました」程度のことしか伝えなかったのではないでしょうか。あるいは、「こんな成果を挙げました」までは伝えたかもしれませんね。
こういう方は多いのですが、これでは評価は得られません。成果さえ伝えれば評価されると思うかもしれませんが、採用担当者は「本当にこの人の力なのか? チームリーダーや他のメンバーが優秀だったおかげではないか?」と考えるものです。
そして、面接の場で「あなたはどのような役割を担い、どのように考えて行動したか」などを突っ込んで尋ねます。その時、受け答えの準備ができていないと、しどろもどろになってしまう。本当にちゃんと実績を挙げてきたのに企業側に伝わらず、評価されない——そんなケースが数多くあります。
何より大事なことは、環境や前提が変わっても同様に成果を出せるか。いわゆる「再現性」を感じてもらえるかどうかです。
ですから、今後の転職活動に備えてやっておくべきことは、自身の仕事の「プロセス」を記録しておくことです。担当する案件について、次のようなポイントをしっかり意識し、記録に残しましょう。
- 課題をどう分析したか
- 課題の解決法をどう導き出したか
- 具体的にどんな戦略を立てたか
- 戦略実行にあたってどんな工夫をしたか
- 社内外の人々をどのように巻き込んだか
- どんな壁にぶつかり、どう乗り越えたか
このように、実績を挙げるまでのプロセスを面接で具体的に語ることができれば、採用担当者はその人自身の発想・思考・行動などを評価し、「自社でも再現できる」と判断しやすくなります。
仮に、課題を発見したり戦略アイデアを出したりしたのが上司だったとしても、それを「自分で語れる」ということは、自身の中で腹落ちしてノウハウ化できているということ。つまり「再現可能」とアピールして差し支えないでしょう。
採用担当者は「前職でここまでできていたのなら、ここから先は任せて大丈夫だろう」と判断し、入社時点から実力に見合ったアサインがなされるはずです。
いざ転職活動を始めてから過去のプロジェクトの経緯を思い出そうとしても、リアルに言語化できないかもしれません。ですから、日頃から、自身がどう考え行動したかを振り返り、記録を続けることをお勧めします。
日々振り返ることで新たな気づきも生まれ、現職でも成果につなげやすくなるでしょう。
SNS発信で会社の枠を超えたセルフブランディングを
世間から客観的評価を得られるセルフブランディングを目指すなら、今の時代、やはり「SNSでの発信」が効果的だと思います。
SNSでの発信を見た人が「この人は知識・経験がある」「この人は成果を挙げている」「この人は信頼できる」「この人に共感できる」と思えるような内容を選んで投稿することをお勧めします。
これによって得られた評価は、会社が変わっても持ち運びができます。
もちろん、仕事に関する発信をする際には、守秘義務は厳守しなくてはなりません。顧客やパートナーなど、関わった企業・人の名前を無断で出すのもNGです。
そうした基本ルールやマナーは守ったうえで、自身の取り組みや仕事への姿勢、日々の学びをどんどん発信していってはいかがでしょうか。
担当プロジェクトや業務の内容には具体的に触れなくても、「日頃こんなことを考えている」「こんな世界を実現したい」「自身はこうありたい」という考え(思考)や想い(思想)を発信してみてください。
それに対する「共感」によってネットワークが広がれば、いずれあなたの価値を認めた人からお誘いの声がかかり、よい転職の実現につながる可能性もあります。
TwitterやFacebookを使用している人が多いかと思いますが、ビジネス向けSNSである「LinkedIn」の活用もお勧めします。
私たち転職エージェントの多くは「LinkedIn」の登録者から、スカウトする相手をサーチしています。転職エージェントから経験・スキル・志向に合う求人の情報を入手しやすくするという点でも、利用価値があると思います。
「リファレンスチェック」を活用する企業が増加中
Aさんは「転職市場で、実績を客観的な指標で可視化する仕組みがない」とおっしゃいますが、実は新たな仕組みが登場しています。
それは、応募者に対する「リファレンスチェック」の新しいモデルです。
リファレンスチェックとは、採用を行う企業が応募者の現在・過去の勤務先に問い合わせ、勤務の実態や人物面などを確認する調査を指します。職務経歴書や面接での談話に虚偽がないかを探る目的で、主に外資系企業で行われてきました。
しかし、最近のリファレンスチェックは目的・やり方が変わっています。
目的については「虚偽のチェック」というより、その人の「仕事ぶりを知る」ことが主目的になっています。
リファレンスチェックサービスを提供する専門企業が、企業の人事担当者に代わって実施します。
従来型のリファレンスチェックは応募者に内緒で実施されるのに対し、最近の手法では、応募者本人に対し「あなたの現職(前職)での仕事ぶりを話してくれる(元)上司、(元)同僚を○人紹介してください」と依頼。応募者からリファレンスチェック対象者に協力を依頼し、承諾を得たら質問項目を送付してウェブ画面などで回答してもらう、という流れです。
なお、回答内容は応募者本人には伝えられません。
リファレンスチェックサービスの代表格としては、ROXX社が提供する「back check(バックチェック)」があります。
私がお付き合いしている企業でも、「back check」を導入するケースが増えています。
「面接のわずかな時間では、その人の強み・弱みは判断できない。実際に一緒に働いた人からの評価を聞き、採用のミスマッチを防ぎたい」というニーズが見てとれます。特にコロナ禍でオンライン面接が増えている中、“人となり”がつかみにくいといった背景もあるようです。
ちなみに「応募者自身が選んだ人に回答を依頼したなら、その人に有利になる良いことしか言わないのでは?」と思った方がいるかもしれませんね。しかし実際には、よく知る立場だからこそその人の欠点や弱い部分も正直に記載する人が多いそうです。
中には、仕事のスキルやリーダーシップを高評価すると同時に「熱心が過ぎて厳しめの発言も多い」という回答もあります。
応募者と信頼関係を築いている人だからこそ、「本当にマッチする企業に出合えるように」「入社後にギャップを起こさないように」と願い、率直に回答してくれるようです。
上司のタイプによる成果のギャップなども見えるので、入社後のオンボーディングやアサインなどを適切に行えるメリットもあるとのことです。
アメリカなどでは、応募先に履歴情報と一緒にリファレンスともいえる“推薦状”が添えられることが一般化していますが、私はゆくゆくはこのシステムは中途採用市場のインフラになっていくのではないかと思っています。
ですからAさんも、もしリファレンスチェックを依頼する場面が訪れた時、Aさんの活躍を心から願って正当に評価・証言してくれるような関係の人を、最低3人くらいは持っておくことを意識してみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第81回は、7月11日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。