コロナ以降、学び直しやリスキリングが特に注目されているが、その実態は……。
撮影:今村拓馬
学び直しやリスキリングの必要性が叫ばれるなか、それでも「勉強しない日本人」が改めて浮き彫りになった。
リクルートワークス研究所は2022年6月21日、約5万6000人を対象にしたアンケート調査「全国終業実態パネル調査(2021年)」の結果をまとめた。
その結果、コロナ直後に急激に悪化していた「学習・訓練」に関する項目は、2021年もほぼ変わらない水準で、なかでも自ら勉強する「自己啓発」については、前年よりもさらに悪化していた。
この調査は「学習・訓練」のほか、労働時間や有休取得率などワークライフバランスなど主に働き方に関する内容を調査。同一の人物を2016年から毎年追跡調査しており、同一個人を追跡するパネル調査としては国内最大規模という。
仕事を通じた学びも、コロナ前には届かず
「学習」に関する調査では、コロナ前を下回る状況が続いている。
出典:リクルートワークス研究所『Works Index 2021』
「学習・訓練」については、2020年時点の調査からコロナの影響で状況が悪化していた。リモートワークが増えたことなどで、OJT(仕事を通じての教育)が減ったことに加え、特に対面での講習会などOff-JT(通常の業務から離れての教育)の機会も減少していた。
コロナ禍から1年が経過した2021年はどうなったのか?
Off-JTは前年よりも0.7ポイント増えたものの、OJTについては0.1ポイント低下。いずれもコロナ前の2019年に比べて低い状況のままだった。
さらに、自ら学習する「自己啓発」についても前年比0.2ポイント低下。コロナ禍でさらに自主的な学びからは遠ざかっている結果となった。
この調査結果について、リクルートワークス研究所の孫亜文(そん・あもん)研究員は、
「依然として教育機会(Off-JT)がないと回答するケースも多かった。企業側からの学びの場を提示することが、自主的に学ぶことにつながるという調査結果もあり、オンラインでの研修も含めて教育機会を増やす必要がある」
とした。
また自主的に学びを進めるために、個人や企業に求められる役割については次のように指摘した。
「個人としては、自分がどういった学びが必要なのか、そのためにどういったツールや方法があるのかをまず知ることが重要だ。それを個人が見つけられる環境を作るために政府も取り組んでおり、民間とも円滑に連携していく必要があると考えている」
日本では低調「人への投資」
日本では「人的投資」が欧米に比べて低く、しかも減少傾向にある。
出典:内閣官房資料
学び直しやリスキリングへの関心は、これまで以上に高まっている。
背景には生産性の低さがある。日本の労働生産性はOECD加盟37カ国中26位(2019年、就業者1人あたり)と低迷している。生産性を上げるため、アメリカやフランスでは、企業が「人への投資」を強化しているが日本ではいまだに低調で、しかも減少傾向にある。
政府が6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)では「人への投資」をうたい、「 社会全体で学び直し(リカレント教育)を促進するための環境を整備する」と明記。今後3年間で4000億円規模の施策に取り組むとしている。
グーグルなどがリスキリングプラットフォーム
グーグル合同会社日本法人の奥山真司代表。
撮影:横山耕太郎
学びコンテンツを提供するリスキリングパートナーには、外資系IT企業などが名を連ねた。
撮影:横山耕太郎
また民間企業の動きも活発だ。
6月16日にはグーグル日本法人など49団体が、学び直しのためのプラットフォーム「日本リスキリングコンソーシアム」を設置した。
学びのコンテンツを提供するのは、グーグルに加えてアドビ、セールスフォース・ジャパン、日本マイクロソフトなど計16社。
クラウド、マーケティング、教育、クリエイティブ、AIなど200以上のプログラムがそろう。うち186のプログラムは無料で受講でき、有料プログラムも40ある。
日本リスキリングコンソーシアムには、Indeed Japanやパーソルキャリア、ビズリーチなど8社がジョブマッチングパートナーとして参加し、プログラムの受講者に就職支援も行うのが特徴だ。
日本リスキリングコンソーシアム設立発表会で、主幹事を務めるグーグル日本法人代表の奥山真司氏はこう話した。
「日本は世界デジタル競争力ランキングでも68カ国中28位で、デジタルスキルの不足が指摘されています。ただ裏をかえせば、一人ひとりがスキルを高め、新しいスキルを身に着けることに成功すれば日本にはまだまだ成長余地があるということです」
今回のリクルートワークス研究所の調査では、「リスキリング」という言葉が広まっただけでは変わらない実態が明らかになった。
企業として、個人として学びに対してどう向き合っていくのか。その本気度が問われている。
(文・横山耕太郎)