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「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?

国立天文のクラウドファンディングでは、3000万を超える資金が集まった。

国立天文のクラウドファンディングでは、3000万を超える資金が集まった。

撮影:三ツ村崇志

2019年、国際プロジェクトEvent Horizon Telescope(EHT)によって捉えられた「ブラックホール」の姿に、世界が大きく湧いた。2022年5月12日には、2例目として天の川銀河の中心にあるブラックホールの画像も公開されたばかりだ

そんな世界最先端の研究の一翼を担っている日本の観測拠点の1つ、国立天文台VLBI水沢観測所が、資金難を理由にクラウドファンディングを実施している。

クラウドファンディング最終日である6月17日までに、目標としていた1000万円を大きく上回る3000万円超の資金が集まり、プロジェクトは「大成功」したと言える。

しかし、注目の研究に携わる研究機関でさえ「資金不足」に陥る現状に、科学技術立国を目指す日本の雲行きの怪しさを感じてしまう。

なぜ、クラウドファンディングを実施することになったのか。

科学の裾野を広げる基礎研究領域に対する研究資金の不足が問題視されて久しい日本において、クラウドファンディングは研究現場を救う一助になるのだろうか。

資金難で削られる「若手研究員」のポスト

国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹教授。

取材に応じる国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹教授。

取材時の画面をキャプチャ

クラウドファンディングを実施した国立天文台・水沢VLBI観測所の所長を務める本間希樹教授は

「これでポスドク(博士研究員)を1人雇うことができます。2年前からゼロ人だったところから、1人になるということは大きい」

と、Business Insider Japanの取材に対して語った。

国立天文台、水沢VLBI観測所の資金難は今に始まったことではない。

人類史上初めてブラックホールの姿を捉えたことを発表した翌年にあたる2020年には、国立天文台で水沢VLBI観測所の予算を半減する方針が決まりかけた。当時はその後、追加予算が配分されることになり、ことなきを得た。

本間教授は、予算が不足しがちな状況について

「単に(国からの予算である)運営費交付金が減ったとか、そういう話だけではないんです」

と話す。

天文学をはじめ、研究現場ではプロジェクトの大型化が進んでいる。「研究者の要求も高くなり、1つの研究に大金がかかることが増えている」と本間教授も指摘する。

国立天文台でも、ハワイで建設中の次世代超大型天体望遠鏡「TMT」や、チリ・アタカマ砂漠にある大型電波望遠鏡ALMAの運営をはじめ、複数の大型プロジェクトを抱えている。

予算に限りがある以上、観測所間で配分される予算には差を付けざるを得ない。

「その中で水沢のような少し古い施設には、なかなか予算が回ってこないんです」(本間教授)

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ALMA望遠鏡の一部を構成する「モリタアレイ」と呼ばれるアンテナ群。ALMA望遠鏡は、複数のアンテナを組み合わせて1つの巨大な望遠鏡としての機能を果たしている。

Credit: X-CAM / ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

予算が不足すると何が起きるのか。

国立天文台の観測所は、研究設備などのリソースを全国の大学・研究所に提供する大学共同利用研究所としての役割を担っている。そのため、「プライオリティが高いのは、各大学が観測所を使用したいときに利用できる形に落とし込んでおくこと」だと本間教授は話す。

観測所としての機能は維持しなければならない。しかし、資金はあまりない――。

そのしわ寄せがいくのが人件費。観測所の将来を担うはずの若手の研究者、いわゆる「ポスドク」の雇用を減らさざるを得ない状況になってしまったわけだ。

「外部資金(科研費など)で採用したポスドクは三鷹(国立天文台の本部)にはいますが、水沢には2年前からポスドクがゼロでした。このままでは、研究分野が衰退してしまいます。だから何かしようと、クラウドファンディングなどの取り組みを進めました」(本間教授)

全国100以上の大学・研究所で広がる学術クラファン

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READYFOの町野明徳CTO。自身ももともと物理学を専攻して研究者を志していた。

提供:READYFOR

「研究領域は、資本主義の仕組みではなかなか資金が流れない主要な領域だと思っています」

そう話すのは、水沢VLBI観測所のクラウドファンディングを支援しているクラウドファンディングREADYFORでCTOを務める町野明徳氏だ。

READYFORは2011年に創業して以来、国内最大級のクラウドファンディングプラットフォームとして成長。これまで支援してきたプロジェクトの数は2万件を超える。累計調達額も200億円以上だ。

「READYFORは、ビジネスではなく社会課題を解決しようとしている団体の資金調達の支援をメインの事業領域として行っています。ソーシャル領域(NPO支援など)、ローカル領域(地方創生支援)、研究領域だと基礎研究のようなものです」(町野CTO)

READYFORがこれまでに支援してきた大学・研究所関連(以下、学術系)のクラウドファンディングのプロジェクトは約200件。合計支援金額は約14億円にものぼる。過去最高支援額は約5000万円だ(平均支援額は約650万円)。

READYFORが初めて大学とのクラウドファンディングを実施したのは2017年。筑波大学との事例だった。「研究室と大学の外部資金室との窓口を作っていただくようにしました。支援者(お金を出す側)に対して、寄付控除をできる道も作りました」(READYFOR・広報)と、大学でクラウドファンディングを実施する「型」を構築した。

その後、同じ仕組みを他大学や研究機関に広げており、2022年6月の段階で提携先の大学・研究所の数は40を超えた。トライアルで実施する大学などを含めると、100以上の大学・研究所と連携している。

READYFORを介して実施される学術系クラウドファンディングの数も、年々増加を続けている。

研究者の資金源に選択肢を

READYFORでは、大学などとの連携を積極的に進めている。

READYFORでは、大学などとの連携を積極的に進めている。

撮影:三ツ村崇志

基礎科学の研究費の調達から、老朽化した大学の設備の改修工事費、学生活動で必要となる資金としてなど、学術系のクラウドファンディングで資金を調達する目的は幅広い。

その中でも、町野氏は基礎研究への支援に並々ならぬ想いを語る。

「社会をより良くしていく中で、基礎研究は一番の根っこです。そこに十分な資金がないということは国力を削ぐことになる。そういう課題意識を持っています」(町野CTO)

国立天文台・水沢VLBI観測所の事例では、SNS上で「国の研究機関なのだから国が支援すべきではないか」という声も多く聞かれていた。ただ、町野氏は次のように語る。

「国から運営費交付金も増えた方が良いとは思いますが、『それ以外』の資金調達の手法も、それはそれで増やすべきなんだと思います」

クラファンの資金のポイントは、その自由度の高さだ。

国からの研究費(いわゆる科研費)は、資金の使途が限られることも多く「使いにくい予算」と言われることも多い。クラファンで得た資金は、いわば「かゆいところに手が届く資金」として活用できる。

「研究資金の絶対量は不足しているように思えます。その中でも、日本は国の財源に頼っている部分が多いんです。欧米では、民間からや大学の卒業生からの寄付などの外部資金が多様です。

日本ももっと多様であるべきだと思います。その1つとして、クラウドファンディングをうまく組み合わせてもらうことが良いのではないかと思っています」(町野CTO)

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