アメリカ抵当銀行協会によると、変動金利型住宅ローン(ARM)の申込件数は2008年以来14年ぶりの高水準に達し、今後も増え続けると予想されている。
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- 変動金利型住宅ローンは人気が急上昇しているが、これは2008年には住宅ローン危機の一因となったものだ。
- しかしその後、融資基準が厳しくなったため、破綻の心配をする必要はなくなった。
- 専門家によると、現在の住宅ローン業界は借り手と貸し手の双方にとってより安全な環境にあるという。
2008年の「サブプライム住宅ローン危機」の引き金となった変動金利型住宅ローン(ARM)が、再び人気を集めている。
ARMとは、市場金利の変動に応じて金利が調整される住宅ローンだ。金利が変動するため、固定金利型よりも支払額が予測しづらく、最初に組んでいた予算よりも多く支払うことになるかもしれないというリスクがある。
「変動金利型住宅ローンは本来悪いものではないが、前回の危機の際にはこうしたローンの借り手が多かったことが問題を引き起こした」と、建築不動産テクノロジー企業Zondaのチーフエコノミスト、アリ・ウルフ(Ali Wolf)がInsiderに語っている。
「2000年代半ばの住宅ブームの際には、住宅ローンのおよそ35%が変動金利型だった。そのため、金利が変わったときに新たな返済額を支払えなくなる人が続出した」
コロナ禍の住宅市場では、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が利上げをしたことで住宅ローンの金利に上昇圧力がかかり、ARMが再び勢いを取り戻している。アメリカ抵当銀行協会(MBA)によると、ARMの申込件数は2022年5月に14年ぶりの高水準に達し、今後も増え続けると予想されている。
MBAの経済・産業予測担当バイス・プレジデントであるジョエル・カン(Joel Kan)は「金利上昇を乗り切るためにARMを利用する借り手が増え続けている」と声明で述べている。
ARMは2008年の住宅ローン危機の一因となったことから、利用者の伸びを心配する声もある。当時の金融業者は、ARMの借入初期の金利が低いことをアピールして借り手を引きつけていた。しかし、金利が高騰し始めると、ローンを返済できず、差し押さえに追い込まれる人が増えた。その事態の再来を恐れる人もいるが、2022年にはその心配はない。融資基準が厳しくなり、借り手が金融の地雷原を歩くことはなくなっている。
連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)の一戸建てリスク管理担当バイス・プレジデントであるジュード・ランディス(Jude Landis)は「2008年以降、住宅ローン市場は劇的に変化した」と声明で述べている。
「査定、テクノロジー、品質管理などの改善(目に見えるものもあれば、そうでないものもある)が進み、2008年の危機以前よりも健全な住宅ローン制度になっている」
2008年以降、融資基準が厳格化
新しいARMは、借り手を差し押さえに陥りにくくするまったく新しい引受ガイドラインを備えている。これはドッド・フランク法のおかげだ。
この法律は、2008年の金融危機を受けて制定された。金融業界、クレジット業界など、経済的混乱の原因となった金融システム部門への対処に最大の重点を置いている。
住宅ローン危機では、サブプライムローンの貸し手が相当の打撃を受けたため、議会は、借り手の経済的利益を支える消費者金融保護局のような新たな保護システムを構築することで、この業界を規制することを目指した。
さらに、返済能力/適格住宅ローン(ATR/QM)などの規制により、金融機関はより厳しいガイドラインに従わなければならなくなった。
ドッド・フランク法の一部は撤回されたものの、今日の金融セクターは、2008年当時の無法地帯のような状態に比べれば、はるかに健全になっている。つまり、かつて住宅市場を苦境に陥れた略奪的な融資慣行から、借り手が保護されるようになったということだ。
「金融業者は引受や担保評価などの融資プロセスを強固なものにしてきた」とランディスは言う。
「さらに、ATR/QMなどの適切な規制が、10年前には存在しなかった住宅ローンの融資基準を形作っている」
ランディスによると、住宅ローン業界は借り手と貸し手の双方にとって根本的に健全な環境へと進化しており、ARMの人気が再び高まっていても、心配する必要はないという。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)