(左から)Business Insider Japan ブランドディレクター 高阪のぞみ、PR Table 取締役/Founder 大堀航氏
企業がサステナブルな社会づくりに貢献するために。キーワードはオープンとエクイティ
2022年5月18日(水)・19日(木)の2日間にわたって開催された『Better Workplace, Better Culture - SUMMIT #1』(※以降BWBC-#1)。働く人のストーリーを発信するなど広報支援サービスを提供するtalentbookと、Business Insider Japan の共同プロジェクトによる特設サイト「Better Workplace, Better Culture」を背景とするオンラインビジネスサミットだ。
第一回となる「BWBC-#1」のコンセプトは“Relations”。企業とステークホルダーの関係性が多様化し、コミュニケーションや利害関係のあり方も変化するなかで新しい“Relations”を積極的に模索し実践しているビジネスパーソン達が登壇しトークセッションを展開した。その中でも象徴的だったシーンを一部紹介しよう。
Day1-Session1:-メディアから見る企業とステークホルダーとのあるべき“関係性”-
初日のセッション1では、talentbookを運営するPR Table取締役/Founderの大堀航氏とBusiness Insider Japanでブランドディレクターを務める高阪のぞみが登壇し、情報発信におけるトレンドやメディアに求められる役割の変化などを語った。
高阪がここ1年でのBusiness Insider Japanの情報発信におけるトレンドを振り返り、SDGs、テクノロジー、ミレニアル・Z世代、働き方という4つの軸に収れんされると紹介した。しかもその4つが関連し合っていると述べたのに対し、大堀氏も同意。
「talentbookもサステナビリティ、SDGs、DE&I、企業カルチャーに関連する『働く人』のストーリーを多数掲載し、ミレニアル世代、Z世代に支持されています。
talentbookのサービスは、特にデジタル人材を採用したい企業に導入いただいていますが、企業には従来の採用施策だけでは採用候補者に届けたい情報が届いていなかったり、知名度の高い大企業であっても採用候補者が企業に抱くイメージと実態の間に乖離があったりという課題がある。
そうしたケースでは何年もかけて採用戦略を練るよりも、社内の声を発信し、外の声に耳を傾けるといった、リーンな情報発信をやるべきだと思います」(大堀氏)
それぞれが考えるこれからのメディアの役割については、
「コンテンツを提供するだけではなく、『つなぐ』『世の中に問い、そして広げる』ことが大切。そのために人と人、企業と人、企業と企業がつながってムーブメントを起こしていくことが求められていくでしょう」(高阪)
「talentbookは日本企業の『人的資本』を一人ずつ可視化する取り組みです。それは企業にとっては採用コンテンツかもしれないですが、読者にとっては自身のキャリアや仕事への気付き、学びがあるというところに価値があります。それがひいては”株式会社日本”として見たときの人的資本を最大化していくことにつながると信じて走っています」(大堀氏)
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Day1-Session2:採用活動でカルチャーを武器にするには?
(左から)ゆめみ 代表取締役 片岡俊行氏、Almoha LLC 共同創業者COO / デジタル庁 人事・組織開発 唐澤俊輔氏
京大発ベンチャーとして創業したゆめみは、クライアントのアプリケーション開発などを手掛けるIT企業。同社は「メンバー全員CEO制度」や「有給取り放題」など、ユニークな制度を持つ。ゆめみの片岡俊行代表と、『カルチャーモデル』の著者・唐澤俊輔氏が、採用活動でカルチャーを武器にするための方法について語り合った。
唐澤氏は、マクドナルド、メルカリ、SHOWROOMを経て、Almoha LLCを共同創業し組織開発支援を進める一方で、デジタル庁で人事・組織開発を担当。セッションの冒頭では著書のタイトルでもある『カルチャーモデル』というフレームワークについて紹介した。
「事業にビジネスモデルがあるように、組織にも『カルチャーモデル』があるべきです。カルチャーは目に見えない空気のような存在と言われるけれど、カルチャーを意図的に設計し、組織に浸透させることで、従業員の満足度を高めて競争力を高めたり、カルチャーフィットが高くなることで離職を抑えたりできます。では、カルチャーはどう生み出されるのか。
カルチャーは、ミッション・ビジョン・バリューといったインプットを元に従業員が日々の行動・言動をすることで培われるものなのです」(唐澤氏)
採用活動にカルチャーがなぜ重要なのかというテーマについては、片岡氏が、ゆめみの代表的なカルチャーであり、採用にも大きく関与するものとして「ドキュメントカルチャー」を紹介した。
「最初はドキュメントを書いて残すというところから始まったが、今では徹底的な透明性の実現というところまで意図して推進しています。採用においては不採用基準や、ゆめみの問題点や課題についての進捗を共有する『リアリスティック・ジョブ・プレビュー』まで、全てオープンにしています」(片岡氏)
これに対して、唐澤氏は「不採用基準を言語化して公開することによって、それに当てはまる人が受けないので、受ける方の採用確率が上がり、ひいては無駄な採用プロセスが減るので、双方にとっていい」と高く評価。対話は大いに盛り上がり、議題はゆめみのユニークな面接方法や、唐澤氏が関わるデジタル庁の組織開発にも及んだ。
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Day1-Session3:全社員を「当事者」にする、DE&Iカルチャーのつくりかた
社員のDE&Iに対する認知・理解を促し、「当事者」として実際の行動変容へと結びつけていくためには、どのような活動を行うべきなのか。社会課題を解決する事業を展開するゼネラルパートナーズの佐藤こと氏とサノフィの名川隆志氏の取り組みからヒントを探るセッション。
ゼネラルパートナーズ 広報室室長 佐藤こと氏
ゼネラルパートナーズは、代表の進藤均氏の妹に障がいがあり、障がい者への差別・偏見は「知らない」に起因するのではと考えたことが創業のきっかけ。特に雇用における機会不平等・偏見をなくすために民間初の障がい者専門人材サービス事業を展開している。佐藤こと氏は広報室室長を担当。
サノフィ 皮膚領域戦略部 部長/D&Iアウェアネスリーダー 名川隆志氏
一方サノフィはフランスに本社がある製薬企業で、世界90カ国に展開。名川隆志氏は、皮膚領域のマーケティング・プロモーションを担当しながら、DE&Iのアウェアネスを上げるプロジェクトのリーダーも務めている。
PR Table PR室/Manager 久保圭太氏
1日目のすべてのセッションでモデレーターを務めたPR Tableの久保圭太氏は、前職で障がい者雇用の子会社の立ち上げを経験するなど、DE&Iにかねてから関心を寄せていたという。その久保氏から投げかけられた「なぜ会社にDE&IやLGBTQIA+などの取り組みが必要なのか」という問いに対して両社の答えは——
「サノフィには日本で約2200名の社員がいる。ミッション『人々の暮らしをより良くするために、科学のもたらす奇跡を追求する』を実現するためにはイノベーションが必要で、そのためにはダイバーシティが欠かせない。そして、多様な人材を受け入れる以上、アンコンシャス・バイアスのないカルチャーを作ろうと活動をしており、徐々に根付いてきたところです」(名川氏)
「本来地域には多様な人がいて、障がい者もLGBTQIA+もいるはずなのですが、学校や会社には少ないという状況が、日本でインクルーシブな社会づくりの遅れにつながっているのでは。それが差別や偏見が起きる原因になっているという課題を弊社では社員全員が共通で認識しています」(佐藤氏)
では、「DE&Iの推進方法はトップダウンとボトムアップどちらがよいか」。
ゼネラルパートナーズは2017年の第二創業を機に、社員の働きやすさを大事にするようになった。その結果、多様な人材が加入し、新たな人材からの指摘でさらに社内改革が進んだという。
「いろんな意見を聞きたいというトップからのメッセージが大切です。そして上がってきた意見には必ずフィードバックをすること。社員が意見を言うのには勇気がいるし、発言をしても何も変わらなければ次から言わなくなります」(佐藤氏)
名川氏もボトムアップの必要性を以下のように強調した。
「サノフィでは障がいやLGBTQIA+などの当事者がグループをつくって課題について学ぶ機会を設けるようにしています。ただ、誰もが最初から当事者意識を持てるわけではないので、まずは評論家になることが大切。我々が活動することでまずは考えてもらいたいですね」(名川氏)
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Day2-Session1:DE&Iで目指す世界観と企業の情報発信
(左から)MASHING UP 編集長遠藤祐子氏、デル・テクノロジーズ Japan CDO Office Social Impact Japan Lead 松本笑美氏
MASHING UP 編集長の遠藤祐子氏と、デル・テクノロジーズ(以下、デル)でグローバルと日本国内両方のDE&Iに関する取り組みに携わる松本笑美氏が、DE&Iの本質を探るセッション。
まず遠藤氏が問題提起したのが、Equality(平等)とEquity(公平性)の違い。
「平等であるのはある意味当たり前で、Equity(公平)がよりフォーカスされるべきだが、日本ではまだ認知が低い」(遠藤)
「多国籍企業であるデルでは、自分たちが何者で、何を信じて、何を目的としているかを自覚する必要があるのですが、無意識の偏見に気付くためのアンコンシャス・バイアス・トレーニングを実施するなかで、EqualityとEquityについても研修を行っています」(松本氏)
デルの取り組みの中でも特に進んでいるのがESG目標だ。デルのESG目標には、サステナビリティの促進、インクルージョン文化の醸成、ライフスタイル変革への貢献、倫理とプライバシーの順守という4つの柱がある。
「PCメーカーとして二酸化炭素の削減に取り組むのはもちろん、ITを通じた健康・医療への貢献や、NPOやNGOと一緒に社会貢献をしています」(松本氏)
2010年代に一度立てたESG目標は2019年に刷新し、すでに2周目の取り組みとなっている。
セッションの後半では、「炎上しない発信とこれからのコミュニケーション」というテーマを展開。遠藤氏が「情報発信においても一人ひとりが持っているアンコンシャス・バイアスを自覚することが必須」と提言すると、松本氏は「一人ひとり違うことを自覚するにはEqualityではなくて、よりEquityが必要だと思う」と議論を結んだ。
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Day2-Session2:サステナブルな社会を実現する企業経営とは
(左から)ナレッジワーク CEO 麻野耕司氏、アドウェイズ 代表取締役社長 山田翔氏、シニフィアン 共同代表 村上誠典氏
持続可能な社会を実現するためのこれからの企業の在り方を、経営者視点で徹底討論するセッション。ナレッジワークCEOの麻野耕司氏のモデレートで、「人儲け」という経営理念を元に人と機械の共生を目指し成長を続けているアドウェイズ社長の山田翔氏、『サステナブル資本主義』著者で、新興企業の経営支援を提供するシニフィアン共同代表の村上誠典氏が登壇した。
Salesforce創業者のマーク・ベニオフが起業家としての憧れという麻野氏は、株価の1%、製品の1%、従業員の就業時間の1%を活用して地域社会に貢献するという、Salesforceの「1-1-1モデル」が事業推進の一助になっている、というエピソードを披露し、議論の口火を切った。
スタートアップや新興企業の成長戦略を支える村上氏は、「いまの経営のキーワードはファイナンス、ガバナンスに並び、サステナブルが重要。多くの日本の企業は『失われた30年』と言いながら長期的な視点を忘れている」と指摘した。
山田氏からは、インターネット広告の会社というとバリバリ働いて業績が右肩上がりというイメージがある一方で「取締役に就任した2016年以降、なぜ働くのかをより深く考えるようになった」という。
「どうせやるなら広告が世の中のためになっていると社員が実感できるようにしたいと思ったんです。世の中を良くしている実感につながりにくい事業をやめるなどして、事業の中身を作り変えました」(山田氏)
「自分たちだけが儲かるようなビジネスをすると、自分の知らないところに悪影響が出る。だから、社会に目を向けて事業をしなければならない」と語る山田氏に呼応するように、村上氏も「まだ解決されていない社会課題は、複雑性が高くステークホルダーが多い」と議論を展開。
EVを例に、「優れたバッテリー技術だけがあってもEVは普及しない。チャージャーを置く小売店舗に対するメリットや、社用車をEVに変えるインセンティブを企業に設定しなければ切り替えは進まない。細かく見ればステークホルダーは山のようにいる」と解説した。
山田氏は「儲かっている人がかっこいいという時代があったが、若者は社会がどうすれば良くなるかを考えている。自分はその間の世代なので、勇気を持ってあるべき姿に向かう会社にしていこうと思うし、そう思う人が増えてほしい」と語った。
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Day2-Session3:“変化する”就活生と大手企業の関係性
ワンキャリア Evangelist 寺口浩大氏、トヨタ自動車株式会社 人事部 人材育成室 室長 笹山義之氏、本田技研工業株式会社 人事部 採用グループリーダー 三厨敬祐氏
日本で最も大きな産業である自動車業界で新卒採用に携わる、トヨタ自動車(以下、トヨタ)の笹山義之氏、本田技研工業(以下、ホンダ)の三厨敬祐氏に、50万件ほどの就活生の口コミを分析しているワンキャリアの寺口浩大氏が話を聞くセッション。就活生と大手企業の関係性はどのように変わっているのか。新卒採用で一番注力すべきことについての両社の見解を聞いた。
「採用のゴールは入社ではなく、生き生きと輝いて働くこと。そのためには正しい判断ができる情報が必要です。だから、ありのままの正しい情報を伝えることに注力しています。他社が勝っていることも隠さず伝えるようにしています」(三厨氏)
「とても共感します。入った後にやりたい仕事ができるかどうかはとても重要。そのためにはいいことも悪いことも伝えますし、社員がどういう気持ちで働いているか、取り組みの背景、込めた思いなど、会話しないと伝えづらいことを伝えようと心がけています」(笹山氏)
これに対し寺口氏からは、就活生の口コミでも「本音や実態を知りたい。会社が主語ではなく、率直に語ってほしい」という声が強いと、いまの時流に乗っていることを評価した。
セッションの後半では、「これからの新卒採用はどうなるのか」について議論。三厨氏は「新卒採用と中途採用という区分がなくなると思う。AIや技術が進歩する中で、人がやらなくてもいい仕事が増えていく。個人のスキルや専門性、思い、志といった『個』に焦点が当たる時代になるだろう」と述べた。
笹山氏も「情熱を持って、世の中に貢献したいという思いが重要。すでにエンジニアの採用で学校推薦をやめて、学歴・年齢関係なく思いを重視するようにしている」と話した。
セッションではそのほか、現場社員への協力の仰ぎ方や、起業やフリーランスといった新卒採用以外の選択肢に対する考えについても語られた。
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2日間の議論を聞いてオーバーラップしたもの
2日間にわたって、企業と個の関係性について思いを馳せてきたBWBC-#1。その中では異なるセッションをまたいで、いくつかのワードがオーバーラップしたかに思えたシーンがあった。
例えば、Day1-Session2では唐澤氏が「企業が本来行きたい姿やありたい像があって、そこにたどり着いていないというギャップが課題だとすると、それはあらゆる会社にある。その課題を解決するから企業は価値を上げられる。そこに人を採用する意味がある」という言葉は、Day2-Session3での寺口氏の「採用候補者は、企業の顧客ではなく従業員として企業に入るのであれば、現状に満足するのではなく、理想の状態と現状の間にある余白を楽しむべき。そして、採用担当者は、そのためにも正しい現状を伝えることが大切」という発言で回収された。
ゆめみの片岡氏が再三語った「オープン」の重要性もまた、ホンダ三厨氏が最後に語った人事担当者へのアドバイス「相談相手の幅を広げること。私はトヨタの笹山さんとも普段から情報交換をしている」に通じるところがある。
そのほかにも、アンコンシャス・バイアスの払拭について、ゼネラルパートナーズ佐藤氏、サノフィ名川氏、デルの松本氏がその重要性を語り、インセンティブ設計が社員やステークホルダーを動かす源泉となることもまた、デル松本氏とシニフィアン村上氏が教えてくれた。
ぜひそれぞれのセッションのリンクから全編を聞いてみてほしい。きっと新たな気づきがあるはずだ。