スタートアップにとっては欠かせない存在と言えるベンチャーキャピタル。だがそのリターン成績は秘中の秘だ。
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ベンチャーファンドがテック系スタートアップへの投資でどのくらい儲けているのか知りたいなら、せいぜい幸運を祈る。ほとんどのベンチャーキャピタル(VC)は、投資先のリターンをまるで国家機密であるかのように注意深く秘匿している。他の金融機関とは違って、VCは帳簿を公開することを義務づけられていない。
「VCがなぜ非機密の業績情報をもっと公開してこなかったのか。その理由は、ほとんどが業界慣習だと思います。歴史的にベンチャー業界はかなり不透明でしたからね」
サファイア・パートナーズ(Sapphire Partners)でベンチャー戦略を指揮し、OpenLPというウェブサイトの制作者でもあるビーザー・クラークソン(Beezer Clarkson)はそう語る。
しかし、フィンテック分野に特化したロサンゼルス拠点のVC、Group 11の創業パートナーであるドヴィ・フランシス(Dovi Frances)は、VCはもっと手の内を見せるべきだと考えている。
「VC業界には3000人近いプレイヤーがいますが、透明性のあるプレイヤーはほとんどいません」とフランシスは指摘する。
Group 11の創業パートナーを務めるドヴィ・フランシス。
提供:Group 11
透明性があるのはいいことだという考えのフランシスは、「我々はまだセコイア(Sequoia)やアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreesen Horowitz)のようにはなっていない」と、この業界で何十年も投資を続けている由緒あるVCの名を挙げ、透明性を高めることが競合他社より目立つ方法になるとの思いを明かす。
集団での意思決定を嫌い、直感を信じるフランシスは、金融業界でのキャリアを経て2012年にGroup 11を創業。現在も唯一のゼネラルパートナーだ。出身はイスラエルで、年に6週間ほどを現地で過ごす。彼のポートフォリオの70%は、創業者がイスラエル人か、イスラエルで何らかのプレゼンスを持っている企業だ。
フランシスはInsiderの取材に対し、自社のリターンを公開した。5つのファンドから多額のリターンを挙げており、未実現利益は10億ドル(約1350億円、1ドル=135円換算)を超えている。
これがリターン成績の一覧だ。
(注)図中、「SPV」は投資ビークル、「AUA」はアドバイザリー資産を指す。
Group 11
例えば、サンビット(Sunbit)、エクイティ・ビー(EquityBee)、パパイヤ・グローバル(Papaya Global)、ティパルティ(Tipalti)といったスタートアップに初期から投資してきたおかげで、2019年のファンドIVは123%の総内部収益率(IRR:投資金額に対する年間の収益率)を実現している。
ケンブリッジ・アソシエイツ(Cambridge Associates)によれば、これは上位4分の1に入る成績であり、46%のリターンという中央値を大きく上回っている(IRRはファンドの初期に高く、時間の経過とともに伸び悩む傾向がある)。
ファンドIVの投資倍率(TVPI:出資金額に対してファンドが投資家にどれだけのものをもたらしたかを示す指標)は2.479で、これも上位4分の1の成績となり、2019年の中央値を大きく上回っている。
フランシスは、起業家に会うとまず自分の過去の実績を見せる。それが将来のベンチャー企業の成功の指標になると考えているからだ。
また、フランシスは他のVCの透明性の欠如だけでなく、彼らの投資選択にも批判的だ。彼は仮想通貨を一過性の流行として否定しており、「金融工学」という言葉だけで多くの企業のバリュエーションが過熱していると言う。評価額10億ドル(約1350億円)以上のユニコーン1346社のうち、半分は偽物だと手厳しい。
「本物は巨大な企業になるでしょうが、偽物は非業の死を遂げるでしょうね」
当然ながら、フランシスは彼のポートフォリオのユニコーン7社を第一のカテゴリーに分類している。7社とは、ホームライト(HomeLight)(Group 11が最初の出資者)、サンビット(同じくGroup 11が最初の出資者で、シードラウンドと直近のシリーズDラウンドを主導)、ティパルティ(シリーズA資金調達ラウンドを主導)、トリップアクションズ(TripActions)、パパイヤ・グローバル、ネクスト・インシュアランス(Next Insurance)、アデパー(Addepar)だ。
フランシスは、多くのVCに痛みをもたらすと思われる市場の低迷が、彼のポートフォリオを救っていると断言する。
「資本力があって市場機会にも恵まれている企業は、たとえ株式市場が不調を来しても動じないものです。でも中には、もし上場していれば間違いなくかなりの値崩れを起こしていたところもあるでしょうね。その点、プライベートマーケット投資なら心配ありません」
OpenLPのクラークソンは、フランシスのオープンな姿勢を評価しつつも、ベンチャー企業の真のパフォーマンスは、エグジットしたり、株式公開したりすることで10年ほど経ってようやく実現することもあるため、見込み利益を重視しすぎないようにと注意を促す。
「ベンチャーファンドのリターンは、見込み利益から、実際の資本分配になるまでに何年もかかるんです。暫定値に注目しすぎると、良くも悪くも読み誤る恐れがある。投資家が成績を公開したがらないのは、そういう理由もあるのでしょう」とクラークソンは言う。
フランシスは、2022年2月に6番目のファンドの資金集めを開始し、目標の1億5000万ドルの約半分まできたという。
「楽しい環境での資金集めとは行きませんが、そんな中でも資金を集められるマネジャーがいるとすれば、それは一流ということです」
(編集・常盤亜由子)