米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)はインフレの今後の展開と、このタイミングで推奨される投資先を顧客向けに情報提供している。
REUTERS/Brendan McDermid
米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)によれば、現在の調整局面のように米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派姿勢にけん引されて株価下落が進むケースでは、通常、ある条件が満たされない限り株価の底打ちはやって来ないという。
条件は至って単純で、景気の動向にかかわらず、兎にも角にもFRBがハト派姿勢に戻る必要があるということだ。
ゴールドマン・サックスのグローバルマーケットストラテジスト、ビッキー・チャンは最近(6月14日)の顧客向けレポートで次のように分析している。
「金融政策を主因とする株式市場の調整局面は、ほとんどの場合、景気の底打ちとは無関係に、FRBが政策スタンスを緩和方向に転換したときに底打ちすることが(過去のデータ分析から)分かっています。
実際、FRBのハト派転換で株式市場が底打ちした数カ月後、景気の底が遅れてやってくるケースがほとんどです。
金融引き締めが株価調整の主因となっている場合、緩和方向へのシフトにより、市場は低迷した経済活動がそのうち回復に向かうと予見できるので、それが株式にとってはすぐさま安心材料として作用するわけです」
そうした政策スタンスの転換が具体的にどのような形で可視化されるかは、そのときの経済状況によって異なる。
前出のチャンによれば、景気後退入りした後なら、ハト派転換はより明確なメッセージとして発信される可能性が高い。一方、景気低迷の程度が軽微なら、FRBは金融引き締めペースの減速に動く可能性を示唆するだけで十分かもしれない。
いずれにしても、FRBがハト派転換するには、まずこの記録的なインフレに鈍化の兆しが見えることが必須の前提だろう。
ゴールドマン・サックスのシニアポートフォリオストラテジスト、シャロン・ベルによれば、1950年代以降でインフレ率のピークが3%を超えたケースは13回あり、そのほとんどではピーク直後に株価が回復している。
過去最も力強い回復が見られたのは、金利の低下中、バリュエーションが記録的に低い状況下、あるいは経済成長率の上昇中、のいずれかだったという。
【図表1】1950年以降の米消費者物価指数(CPI)伸び率の推移。ピークが3%超に達したのは13回(赤丸)ある。
Haver Analytics, Goldman Sachs GIR
ゴールドマン・サックスのエコノミストたちは、2022年晩秋にはインフレ率の低下が始まると予想しており(直近では、5月に40年5カ月ぶりの高水準となる8.6%を記録)、そのシナリオ通りに進んだ場合、欧米の株式市場ではいくつかの分野が株価回復のけん引役になるとベルは分析する。
インフレのピーク時に選ぶべき銘柄
株価回復のけん引役となる分野のひとつは「シクリカル(景気敏感)株」だ。経済活動の回復時に高いパフォーマンスを発揮する傾向がある。
ベルによれば、「銀行」セクターや「一般消費財」セクターの銘柄はシクリカルな性質を持つものが多く、アウトパフォームする可能性が高いという。
「過去10年間、物価上昇はシクリカル株やバリュー(割安)株のアウトパフォームを伴うと言われてきましたが、ごく最近について言えば、その法則は当てはまらなくなっています(コモディティを除く)。
それは、近ごろのインフレが従来のような需要ドリブンではなく、供給ドリブンで発生するようになってきているからです。供給制約を主因とするインフレは成長のリミッターとして働く上に、成長鈍化時に中央銀行が(景気刺激策として)金融緩和に動く妨げにもなります。
したがって、インフレのピーク時(つまりこれからインフレ率が低下していくタイミング)は、シクリカル株に加え、インフレとの関係が最近急激に逆相関に転じた銀行株や一般消費財株も恩恵を受ける可能性が高いのです」
上記の分野へのエクスポージャー(=資産を特定のリスクにさらす割合)を取りたい投資家は、「一般消費財セレクト・セクターSPDRファンド」や「SPDR S&P バンクETF」などの上場投資信託が選択肢となる。
また、インフレがピークを打った後の12カ月間は「欧州株」が全体として米国株をアウトパフォームする傾向があると、ベルは指摘する。
こちらは欧州株への幅広いエクスポージャーを提供する「iシェアーズMSCIユーロゾーンETF」が選択肢となる。
とは言え、インフレは晩秋まで高い水準で推移するとともに不安定な状況が続く、というのがゴールドマン・サックスの読みだ。
そのため、当面は同社が「安定成長株」と位置づける銘柄を推奨としている。同銘柄は2021年後半以降、S&P500種株価指数のパフォーマンスを上回り続けているという。一方、欧州では「安定的な高い利益率」の銘柄を推奨する。
「インフレの先行きには不確実性がある上、今後数カ月の間に主要経済圏でインフレがピークを打ったとしても当面は高い水準で推移する可能性が高いことから、近々株価が急上昇する展開はあまり考えられません。当社が3カ月決算型ファンドの資産配分について株式の投資判断をニュートラル(中立)としているのはそれが理由です。
欧米の投資家の方々には、弱含みの地味な成長が想定されるなかで、いまより不安定で高い水準のインフレが続いても耐え切れる銘柄にしぼり込んで資金配分するよう推奨しています」
(翻訳・編集:川村力)