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6月23日、四国電力とAIベンチャーのグリッドは、「火力・水力発電機の運転計画をはじめとする電力需給計画の最適化」を目的としたシステム「ReNom Power」の運用を7月から開始することを発表した。
グリッドは、仮想空間上に現実世界の企業活動を再現する「デジタルツイン」技術とAIを組み合わせることによって、「計画業務」などを最適化するシステムの開発を得意とするAIベンチャーだ。
特にインフラ業界を強みとしており、過去には石油製品の販売で知られる出光興産との間で、国内における石油の海上輸送計画を最適化することにも取り組んだ実績がある。
電力会社の属人化した業務を効率化
従来の計画業務の簡単なイメージ。
提供:四国電力
今回、グリッドが開発したReNom Powerでは、過去の電力需要の実績や市場価格、気象データ、太陽光の出力カーブなど、さまざまなデータを学習させたAIを活用することで、将来の電力需要を複数のシナリオとして生成する。このシナリオをもとに、電力会社のシステムを仮想的に再現した「デジタルツイン」を使って、火力発電や水力発電などの発電システムにとって最も効率的な運用計画が提示される。
電力会社は、ここで提示された運用計画を踏まえて、実際の発電計画を決めるというわけだ。
グリッドの梅田龍介エンジニアリング部長は、
「今回のシステムでは、『予測は外れることが当たり前』というスタンスです。市場価格が上振れするパターン・下振れするパターンなど、さまざまなシナリオが発生しても収益が確立できる、『ロバストな計画』を立てることができます」
と自信を語る。
電力会社では、例えば火力発電の場合、燃料となる石油や天然ガスなどを調達し、それを使って発電して得られた電力を供給している。この中で「計画業務」と呼ばれるものは大きく2種類に分けられる。
1つが、貯蔵している燃料の量や直近の電力需要をもとに、週間・月間レベルで発電・燃料消費の計画を立てる短期的なオペレーション。もう1つが、年単位で計画を立てる必要がある燃料調達に関わる長期的なオペレーションだ。
今回、グリッドが開発したシステムは、発電・燃料消費という短期的なオペレーションにかかわるもの。
四国電力の総合企画室需給運用部の深田豊氏は、今回のシステム導入について
「発電計画を策定する上では、発電機の出力や、稼働できない期間などさまざまな制約条件があります。これまでは、(制約条件を踏まえて)基本的に手作業で計画を立てており時間がかかっていました。また、経験則とロジックでやるため属人化もしていました」
と、これまでの業務方法ではいくつもの課題があったと語る。
四国電力の総合企画室需給運用部の深田豊氏
提供:グリッド
天候の変化などの突発的な事象が発生すれば、当然発電計画は変更しうる。ただ、手作業で計画を練ろうとすると、1週間分の計画を1つ作るのに1〜2人がかりで5〜6時間はかかる。加えて、計画を立てる上で考慮しなければならないパラメーターが膨大なため、今までの計画が本当に最適なのか判断できない場合もあったという。
今回、グリッドのシステムを活用すれば、2〜3時間で10本以上の異なる計画を作ることが可能だ。どの計画を採用するか、比較・検討までできるというわけだ。
これから先、電力市場の環境もより複雑化していくことが確実視されている。デマンドレスポンスや、JPEX(日本卸電力取引所)の価格などの状況も頻繁に変化する。こういったさまざまな状況を踏まえて、電力会社が保有するリソース(発電機)を効率的に活用する方法をスピーディーに考えていくことは、電力会社の収益を確保する上で重要な取り組みと言える。
また、発電機を効率的に運用して消費する燃料を抑えられるようになれば、昨今問題視されている燃料の価格高騰の影響を最小化したり、温室効果ガスの排出を抑えたりする効果も期待できる。
(文・三ツ村崇志)