肺炎球菌は、脳細胞に感染して細菌性髄膜炎を引き起こす原因のひとつとなっている。
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- 髄膜炎菌感染症の発生により、フロリダ州では26人以上が感染し、少なくとも7人が死亡している。
- この感染症の原因となる細菌は、脳と脊髄の内壁に感染する。
- これは、キスなどの濃厚接触によって広がる。発熱、頭痛、首のこわばりが最も一般的な症状だ。
フロリダ州で、髄膜炎菌感染症に26人以上が感染し、少なくとも7人が死亡した。
アメリカ疾病対策予防センター(CDC)はこの致命的な感染症の広がりを「ゲイとバイセクシャルの男性間に広がったアメリカ史上最悪の髄膜炎菌感染症の大流行」と呼んでいる。保健当局は、フロリダで感染の可能性のある人々に、できるだけ早く予防接種を受けるよう促している。
CDCは特に、男性と性交渉を持つ男性でフロリダに在住あるいは旅行に来る可能性のある人に髄膜炎菌ワクチンの接種を勧めている。
CDCの疫学者で今回の流行について調査しているサム・クロウ(Sam Crowe)は「率直に言って、かなり怖い」とInsiderに語り、「症例の多くは、若い男性で、健康な成人」であることを明らかにした。髄膜炎菌感染症の危険因子として知られるHIVに感染している人もいたという。
「これらの人々は入院し、集中的な治療を受けた」
CDCは、フロリダ在住で男性と性交渉を持つすべての男性に、できるだけ早く髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY)を接種するよう呼び掛けている。
「リスクを抱えるコミュニティに対して、自らを守るために何をすべきかというはっきりとしたメッセージを伝えるのに躊躇している場合ではない」と、National Coalition of STD Directors(NCSD)代表のデビッド・ハーベイ(David Harvey)は述べている。
ハーベイによると、南フロリダにはエイズ・ヘルスケア財団やLatinos Saludといった、無料でワクチンを接種できるクリニックの「強固な」ネットワークがあるという。
「コミュニティの教育、意識の向上、そして人々がワクチンを接種したかを確認することが重要だ」と彼は述べた。
髄膜炎菌は密接な接触で広がる
CDCによると、これまでに死亡した人のうち6人と感染者のうち24人は、男性と性交渉を持つゲイおよびバイセクシャルの男性だという。
サル痘と同様、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は性行為で感染するものではなく、ゲイの病気でもない。さらに、およそ10%の人に髄膜炎菌は常在している。感染者や保菌者とかなり近い距離で接触している人なら、誰でも感染する可能性があるのだ。
「ちょっとした接触や髄膜炎菌の保菌者がいた場所の空気を吸うことなどで感染することはない」とフロリダ州の保健省は2022年4月に述べている。
「一定期間にわたる密接な接触、あるいはキスや飲み物の共有といった直接的な接触があると感染する可能性がある」
このことが、この感染症がフロリダの特定のグループに偏って発生している大きな要因である可能性が高い。
クロウによると、今回確認された感染者のうち2人は男性と性交渉を持つ男性ではなく、「他のどの感染者とも直接的なつながりはない」という。この感染症にとって、このようなケースは珍しいことではない。気付かないうちに何度も感染していることがあるからだ。
初期症状は分かりにくいが、すぐに悪化する
髄膜炎菌感染症は、まれではあるが、症状が現れてからわずか24時間で死に至ることもある。
「恐ろしい病気なので、ワクチン接種で予防することが公衆衛生上の最善策だ」とクロウは言う。
髄膜炎菌は、脳や脊髄の内壁に感染して髄膜炎を引き起こし、血流に侵入することもある。こうしてこの細菌は人を死に至らしめる。
最も一般的な初期症状は、高熱、頭痛、首のこりで、通常、曝露から3、4日後に現れる。
「最初はインフルエンザのような症状が現れるが、極めて急速に悪化することが多い」とCDCは述べている。その他の気を付けるべき症状は、吐き気、嘔吐、暗い紫色の発疹などだ。
ワクチンや抗生物質が利用できるが、早めの対応が必要
髄膜炎菌ワクチンの接種は、アメリカではすでにすべてのティーンエイジャーに推奨されているが、前回の接種から5年以上経過している場合は、ブースターが必要な場合があるため、医療機関に確認した方がよい。
この感染症は細菌(ウイルスではない)によって引き起こされるため、医師は抗生物質を処方することができる。しかし、抗生物質を処方しても、髄膜炎菌感染症にかかった人の100人に15人が死亡し、生存者の5人に1人が脳障害などの長期的な障害を負う。その他の長期的な問題として、聴覚障害や手足の切断が必要になるケースもある。
CDCは、今回の集団的な感染で細菌に曝露された可能性のある人々を特定し、発症を予防するために抗生物質を処方している。これは感染症を抑えるために非常に効果的な取り組みだとクロウは述べている。また、これまでの26症例のうち14症例がヒスパニック系であったことから、CDCはメッセージの一部をスペイン語で発信している。
「この感染症が流行したフロリダでは、今後の数週間のうちにいくつものプライドイベントが開催されるため、フロリダ在住のゲイおよびバイセクシュアルの男性はワクチン接種を受け、フロリダへの旅行を計画している人は医療機関にMenACWYワクチンの接種について相談することが重要だ」と、CDCの国立予防接種・呼吸器疾患センターを指揮するホセ・ロメロ(José Romero)博士は述べている。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)