G7に集まる豊かな国々は気候変動への取り組みを遅らせる可能性がある。
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- インフレとエネルギー安全保障がG7サミットを支配し、気候変動対策が犠牲になるかもしれない。
- バイデン大統領はガソリン税の一時停止を要求し、ヨーロッパの一部の国は石炭に戻ろうとしている。
- 気候変動対策支持者たちは、今こそ化石燃料ではなく再生可能エネルギーに投資する時だと述べている。
2007年、ドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相は、気候変動の危機をこのように表現した。
「真夜中まであと5分ではない。真夜中5分前ではなく、真夜中を5分過ぎている」
今のドイツにはさらにあと数分必要なようだ。
2022年初め、欧州最大の経済大国であるドイツがG7議長国を引き継いだとき、気候変動問題はその最優先課題だった。今、ロシアのウクライナ侵攻は、アルプスの高級リゾートで2022年6月26日に開幕するG7サミットの最重要議題にエネルギー安全保障とエネルギー価格を浮上させた。おそらく、気候変動対策を犠牲にして。
トロント大学が運営するG7・G20リサーチグループのディレクター、ジョン・カートン(John Kirton)は「プーチンが天然ガスの供給を停止しているため、考え直さなくてはならなくなった」と述べた。
「G7サミットが対処しなければならない今現在の明確な危機は、インフレとエネルギー価格だ」
ドイツ、オランダ、オーストリアは、ロシアの国営エネルギー会社ガスプロムがドイツへの天然ガスの供給を約60%削減したため、その穴を埋めるために石炭火力発電に回帰している。石炭は天然ガスよりも温暖化ガスの排出量が多いので、これは一歩後退だと言える。ドイツのオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)首相は、セネガルでの天然ガスプロジェクトを推進したいと述べている。
一方、アメリカのジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は、連邦ガソリン税の一時停止を議会に要請した。また、バイデン大統領は国内外の石油メジャーに対して、より多くの燃料を供給するよう働きかけている。
これらの行動は、5月の「G7気候・環境大臣会合」で発表した内容とは相反するものだ。そこでは、2022年末までに外国での化石燃料プロジェクトに対する融資を終了し、2025年までに国内の補助金を終了すること、2035年までに電力網を大幅にクリーンなものにすること、「停止しない」石炭火力発電(炭素回収・貯蔵技術を伴わない)を段階的に停止することが掲げられていた。
指導者たちは、気候変動対策の停止は一時的なものだと言っている。ドイツ政府は6月20日、記者団に対し、2030年までに石炭を廃止するという約束を守ることができると述べた。この目標は、日本やアメリカなど他の7カ国が同意することに抵抗しているものだ。
しかしカートンは、より大きな保証が必要であると述べている。
「G7首脳は、この一時的な措置がいつまで続くものなのか、量的なこととタイムテーブルについて合意すべきだ」と述べた。
「2022年末までのエネルギー供給を補強するための数カ月間の停止であれば問題ない。しかし、それ以上長くなるなら、別の問題が生じるだろう」
カートンは良い兆しとしてインドネシアのG7出席を挙げた。同国は2019年の時点で世界最大の石炭輸出国であり、自然エネルギーへの移行には先進国からの融資が必要だ。
モデルになるのは、2021年に発表された南アフリカとのパートナーシップだ。欧州連合(EU)、イギリス、アメリカは南アフリカの脱石炭の取り組みに85億ドルを拠出することを約束した。
気候変動対応を推進する非営利団体We Mean Business CoalitionのCEO、マリア・メンディリュース(Maria Mendiluce)によると、地政学的な変動とインフレがクリーンエネルギーへの投資の緊急性を高めているという。
同団体は、脱石炭、電気自動車の普及促進、炭素価格の設定などの取り組みをサポートしている。We Mean BusinessとCambridge Econometricsの調査によると、このような対策により、2025年までにG7各国で200万人近くの雇用が創出される可能性がある。さらに2035年までに、これらの国の人々はエネルギーへの支出を年間45%(825ドル)節約できるようになるという。
「政治家にとって、クリーンエネルギーへの移行が重要なのは非常に明確なことだ」と彼女は述べている。
「再生可能エネルギーが地政学的な問題を取り除き、エネルギーの価格を下げ、何百万もの雇用を創出し、エネルギー安全保障をもたらすだろう」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)