AIやIoTを活用して、持続可能な水産養殖を目指すスタートアップのウミトロンが、回転寿司チェーン「くら寿司」と協働して「AIスマート給餌機」を使ったハマチ養殖に日本で初めて成功したことを発表した。
6月24日〜26日の期間限定で、全国のくら寿司で「特大切り AIはまち」を販売する。価格は1皿220円(税込)。
くら寿司で期間限定販売される「特大切り AIはまち」 。
提供:くら寿司
ウミトロンは世界で不足するタンパク質を補う方法の一つとして、海産資源の養殖に注目。IoT、衛星リモートセンシング、機械学習などの技術を活用しながら、人と自然に優しい「持続可能な水産養殖を地球に実装する」ことを目指している。
6月7日には、プレシリーズBラウンドとして12.2億の資金調達を実施していた。
AIで魚の「食欲を可視化」
UMITRON YouTubeページより
くら寿司とウミトロンは、2021年春から協業をスタート。養殖事業などを営むくら寿司の子会社であるKURA おさかなファームにウミトロンが開発したスマート給餌機「UMITRON CELL」を導入していた。2022年3月にはスマート給餌機で養殖したマダイ「AI桜鯛」を全国販売した実績がある。
ウミトロンが開発するスマート給餌機は、画像分析によって魚の「食欲」を可視化し、 給餌の量やタイミングを最適化することが可能だ。 また、 スマートフォンなどの携帯端末を使って、遠隔からモニタリング・給餌をすることもできるため、エサ代の節約や作業負荷の低減など、環境負荷はもちろん、養殖事業者の労働負荷の低減にも貢献できるとしている。
画像:ウミトロン
今回、養殖されたハマチは、 2021年6月より実施していた生育実証試験によって育てられたもの。実際にハマチを成魚まで成長させて出荷するのは今回が初めてとなる。
ウミトロン広報によると、味などの品質は通常の養殖のものと「同等のもの」だという。
「スマート給餌機で育てることで、より品質や味の安定化にはつながるかと思います」(ウミトロン 広報)
ハマチを養殖する際には、通常、1度に短時間で大量の餌を投入しながら人が目視で魚の食欲を確認する方法が一般的だったという。
今回の実証試験の結果、スマート給餌機を使っても従来通りに成長することが分かった。また、従来の方法と比べて、餌の量も約1割削減することに成功した。
ハマチの養殖現場。
画像:ウミトロン
加えて、給餌のために生け簀まで船で往復する頻度も、「毎日」から「2〜3日に1度」にまで減少。労働負担の低減や燃料代の削減にもつながっているという。
初出荷となる今回の水揚げ量は、約20トン。
ウミトロンとKURA おさかなファームは、今回の実証の結果を踏まえて、すでに同スマート給餌機を愛媛県宇和島市の養殖事業者2社へ導入する契約を締結している。委託養殖したハマチは、 KURA おさかなファームが全量買い取り、くら寿司で販売していく方針。
今後、スマート給餌機を他の魚種の養殖へ展開する計画については「検討中」としている。
「ハマチはくら寿司様の寿司の人気ランキング3位に入るネタでして、非常に消費者からの引き合いも強く、安定した品質・価格での供給が必要な魚です。
引き続きハマチとマダイ養殖に力を入れていき、2024年には、マダイもハマチもくら寿司で扱う総量の3分の1を委託養殖で賄う計画とのことです」(ウミトロン 広報)
(文・三ツ村崇志)