6月15日、想定外の5月消費者物価指数(CPI)の伸びを受け、異例の0.75%利上げを決定した米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長。
REUTERS/Brendan McDermid
米労働省が6月10日に発表した5月の消費者物価指数は前年同月比8.6%の上昇、1981年12月の8.9%に次ぐ40年5カ月ぶりの高い伸び率となった。
想定外の数字に戦慄(せんりつ)した米連邦準備制度理事会(FRB)は、同15日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、1994年11月以来27年7カ月ぶりとなる0.75%の大幅利上げを決定した。
それでも、大幅利上げで物価上昇に急ブレーキをかけたところで、経済がいま直面するさまざまな問題の解決にはほど遠いというのがサンディ・ブレガーの実感だ。
運用残高150億ドル(約2兆円)の独立系富裕層向け資産運用会社アスピリアント(Aspiriant)の最高クライアント責任者を務め、2012年に米投資情報誌バロンズ「トップ100独立系投資アドバイザー」に選出された実績を持つブレガーは、現状をこう分析する。
「現在のFRBの立ち位置は非常に厄介です。インフレ沈静化に取り組んでいるうちに経済を破たんに追い込んでしまうリスクが高まっています」
Insiderとの単独インタビューに応じたブレガーは、FRBによる過去13回の利上げサイクルのうち、10回は景気後退の原因になっていることを指摘。いまこそどんな事態にも対応できるようポートフォリオを見直すタイミングだと強調した。
「(過去の利上げサイクル13回中10回で景気後退入りという)このデータは、ポートフォリオの徹底的な分散化、把握可能な市場リスクに対するプロテクト、そして長期にわたってリスクに見合うリターンを得られる可能性のある市場リスクを取る必要があることを示唆しています」
ブレガーは自ら運用するポートフォリオ内でディフェンシブとオフェンシブの両ポジションを保有するものの、全体としてはディフェンシブ寄りで、ボラティリティ(価格変動性)の抑制を重視する戦略をとっている。
大ざっぱに言えば、ブレガーは大型株や米国株を弱気、エマージング(新興)市場や先進国の小型株など国際株を強気としてチャンスを見出すスタンスだ。
富裕層向け資産運用会社アスピリアント(Aspiriant)のサンディ・ブレガー。
Aspiriant
ディフェンシブなポジションは、多国籍のクオリティ株で
ディフェンシブなポジションについて、ブレガーは債券と多国籍の高クオリティ株(=収益性が高く安定的で財務が健全な銘柄)へのエクスポージャーを取る。
「当社はクオリティの観点から、堅固なバランスシートを有し、負債が少ない(またはゼロの)企業に注目しています。そうした財務健全な企業はキャッシュフローと収益も良好なものです。
それは金利の上昇局面において非常に重要なことで、負債の構成によっては企業にとって非常に高くつく恐れがあるのです」
ブレガーによれば、この10年間、上記のような「投資の基礎的条件」すなわちキャッシュフローの水準、事業価値(提案)、価値創造、売上高は、投資判断の材料として全部込みで(総合的に)考えるためのファクターだったが、現在ではかつてより重視されるようになっている。
その文脈で言えば、テクノロジー株の大半は年初来の株価下落で大きな打撃を受けているものの、一部の巨大企業はいまも高クオリティ銘柄に分類される。
「マイクロソフト(Microsoft)、アップル(Apple)、アルファベット(Alphabet)などはきわめて堅固な体質の企業で、変化に十分耐えられる力を備えています」
それと対照的なのは、スポティファイ(Spotify)、ショッピファイ(Shopify)、ロク(Roku)、エヌビディア(Nvidia)のような投機性の強いグロース株で、これからさらなる株価下落の可能性があるという。
ブレガーはテクノロジー企業以外にも、生活必需品やヘルスケア、金融サービスを高クオリティのセクターと分類する。
「金融サービスは昨今の金利上昇局面で手痛いダメージをくらったものの、これからは売上高の伸びが想定されます」
生活必需品、ヘルスケア、金融サービスの3セクターでは、ブランドネームの確立したジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)、プロクター・アンド・ギャンブル(Procter&Gamble)、コカ・コーラ(Coca-Cola)、アンセム(Anthem)、モリナ・ヘルスケア(Molina Healthcare)、ユナイテッドヘルス・グループ(UnitedHealth Group)、JPモルガン(JPMorgan)、USバンコープ(US Bancorp)、ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)などをブレガーは推奨銘柄に挙げる。
オフェンシブなポジションは、割安なバリュー株で
オフェンシブなポジションについて、ブレガーは市場のある一部の銘柄のバリュエーションと、それらを他の資産グループと比較したときの価値に注目し、投資判断を下しているという。
「(一部の銘柄は)世界の他の企業に比べて割安感があります。単に投資家の視野に入っていないだけだったり、何らかの個別の理由でダメージを受けたりして割安になっている可能性もありますが、いずれにしても魅力的なエリアで事業を展開しており、その点で好感されるのです」
例えば、エネルギー企業はボラティリティが高く本質的にリスクを抱えていることから、ブレガーはバリュー(割安)株に分類している。
また、グローバルな観点から、ブレガーは自ら運用するポートフォリオにエマージング市場と国際小型株を組み込んでいる。
「中国、韓国、台湾などエマージング市場では中間層が著しい成長を見せています。今後も目覚ましい成長と発展が続くと予想され、当社がポートフォリオに組み込んでいる銘柄もそれに応じて高いパフォーマンスを発揮すると考えています」
エマージング市場でブレガーが強気とするのは、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)、テンセント(Tencent)、サムスン(Samsung)、中国建設銀行(China Construction Bank)など。
国際小型株では、イタリアの大手銀バンコBPM(Banco BPM)、イギリスの建材大手トラビス・パーキンス(Travis Perkins)、オランダの保険大手ASRネーデルラント(ASR Nederland)を強気とする。
さらに、ブレガーは欧州株も推奨する。過去10年間、欧州株は米国株ほどの株価上昇を経験していないからだ。両市場をブレガーはカメとウサギに例える。
「米国株というウサギは一気に前に進みすぎてガス欠を起こし、いま歩みが遅くなっています。欧州株というカメはその間あまり前に進んでいません(したがって、これからウサギとの差を詰める可能性がある)。現時点で欧州株が割安で魅力的に見えるのはそんなわけです」
欧州株でブレガーが推奨するのは、ネスレ(Nestlé)、ロシュ・ホールディング(Roche Holding)、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH Moet Hennessy Louis Vuitton)。
ブレガーは上記の欧州株の銘柄を、高クオリティかつ低バリュエーション(割安)という、2つの領域が重なり合う好例と位置づけている。
(翻訳・編集:川村力)