今やグルメサイトでの評価は、店選びには欠かせない存在とも言える。
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大手グルメサイト・食べログで、「不正に評価点が下げられ、売り上げが減少した」として、焼肉・韓国料理屋「KollaBo」などを運営する韓流村が食べログ運営会社のカカクコムに損害賠償を求めた裁判が注目を集めている。
韓流村が公開した食べログの評価点。
出典:韓流村プレスリリース
東京地裁は2022年6月16日の判決で、食べログが評価点のアルゴリズムを変更したことは、独占禁止法の「優越的地位の乱用」に当たるとして、カカクコムに3840万円の支払いを命じた。カカクコムは「不当な判決」として、控訴した。
この訴訟からわかるのは、飲食店選びにおける、グルメサイトが持つ影響力の大きさだ。
韓流村によると、2019年5月以降に、運営する21店舗の評価点が最大で0.45点、平均で0.2点引き下げられた。その影響で食べログからの来店客数が、月に5000人以上減ったと主張している。
一方のカカクコムは、飲食店に点数をつけることは独禁法違反には当たらないと訴えたが、判決は食べログのもつ影響力の大きさを認める結果となった。
Business Insider Japanでは、東京地裁の判決が出る前にコロナ後の経営戦略についてカカクコムへの取材依頼。「取材に書面で回答する」との返答があったが、判決後にカカクコムは「現状では回答できる時期ではない」として取材には応じなかった。
食べログユーザーは月1億人超え、Rettyは半分以下
グルメサイトへの信ぴょう性がゆらぐなか、「実名での口コミ・評価」という独自路線を進むのがRetty(レッティ)だ。
Rettyの月間の利用者数は4800万人(2019年5月時点)で、ネット予約などができる有料サービス契約は8382店舗(2022年9月期第2四半期)。
一方で業界最大手サービスの食べログの月間の利用者数は1億1580万人(2021年3月時点)、ネット予約なども含む有料サービス契約は6万4200店舗(2022年3月期決算)で、後発サービスのRettyは規模感では圧倒的な差をつけられている。
ユーザー数や予約可能店舗数が収益に直結するグルメサイト業界で、Rettyはどんな成長戦略を描いているのか?
食べ歩きの達人? TOP USERとは
Rettyを利用している天野伴さんのページ。
「本当にいいなと、おすすめしたいお店の口コミを投稿しています」
10年ほど前からRettyを利用している天野伴さんはそう話す。
天野さんは、Rettyから認定された中野エリアのTOP USER。TOP USERとは「新橋」や「札幌」「栃木県」など全国68エリアに加え、「イタリアン」「焼き鳥」「ハンバーガー」などの料理41ジャンルから、それぞれRettyの独自の基準に基づいてユーザーを選出する制度。2022年は計121人が選ばれた。
天野さんは、かつては昼食と夕食はほぼ外食し、月に50回~60回は食べ歩いていた。これまでの投稿数は1000件を超え、9000人を超えるフォロワーがいる。
緊急事態宣言などで食べ歩きができなくなった時期には、テイクアウトを始めた店を見つけて紹介することもあった。
「Rettyユーザーは外食が大好きな人たちなので、私も含めコロナ禍でも飲食店を応援したいと考える人が多かった。
コロナ前はRettyを通じて食べ歩きできる友達ができ、いいお店もたくさん教えてもらいました。Rettyは実名でプラスの情報を書くという文化があるので、風通しの良さを感じています」
コロナ禍を支えた「常連客」の存在
Retty・IR経営企画室の奥田健太室長。
撮影:横山耕太郎
コロナに苦しめられた飲食業界だが、お店を支える原動力のひとつとなったのが、お店のファンである「常連客」だった。
Retty・IR経営企画室の奥田健太室長は、次のように話す。
「飲食店にとっては、お店に毎月来てくれる『サブスクサービス』のように使ってもらうことが理想です。コロナ禍でこそ、継続的に応援してくれるお店のファンの存在は大きかったと感じます」
Rettyからの予約が多い、ある都内の人気店では、コロナ禍で5000円を超えるテイクアウト弁当を個数限定で販売。連日売り切れになる例もあったという。
「もともと予約が取りにくいお店なのですが、常連が多いので、キャンセル時にはLINEなどで空きが出たことを常連に知らせるだけで、予約が埋まるシステムもつくれます。
飲食店は利益率が低いと言われますが、常連ができれば経営はガラっと変わる。Rettyには、いわば『外食を偏愛している』ようなユーザーが多い。Rettyのユーザーと、お店を結びつけることが役割のひとつだと思っています」
有料契約獲得へ新卒採用
コロナ前まで伸びていた契約数は、コロナで減少に転じた。
出典:Retty決算説明資料
一方で、コロナ禍はRettyの経営にも大きなマイナスとなった。
コロナ前までは有料契約店を順調に伸ばし、2020年3月に初めて1万店を突破。しかし、その後は契約数の減少が続き、2022年5月現在、約8300店舗まで減少した。
収益の柱となる有料契約店を増やすため、飲食店への営業を担当する新入社員20人を採用。また販売を委託する外部販売体制の構築も進め、有料契約店の確保を急ぐ。
「4月以降には新規契約数が戻ってきており、飲食店の投資意欲も出てきている。まずは1万店への回復を目指したい」(奥田氏)
DX支援に投資を進めるものの……
コロナの落ち着き、飲食店に人々が戻ってきている。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
Rettyがもうひとつの収益源として期待しているのが「飲食店のDX支援」だ。
Rettyでは、客が飲食店内で、スマホを使って注文するモバイルオーダーのシステムを2021年に開始した。
注文や決済処理の手間が省けるサービスだが、現状について奥田氏は、「導入が急激に伸びているというわけではない。サービスが普及するのは2022年の後半になるか、または3年後になるか分からない」と話す。
ただ飲食店のDX市場には、リクルートなど大企業も参入し競争が激しくなっている。リクルートは電子決済の「Airペイ」に加えて、モバイルオーダー、シフト管理ツール、経営システムなど15のSaaSを同一IDで使用できるサービスを展開するなど攻勢を強める。
RettyはDX支援への投資を進めており、「2024年9⽉期での⿊字化を⽬指す」としているが、DX支援が収益に貢献する道筋はまだ見えない。
他人事ではない、ブラックボックス批判
加えて「食べログ」訴訟で注目が集まった、グルメサイトの「ブラックボックス化問題」については、決してRettyも他人ごとではない。
Rettyでは飲食店の評価を3段階で実施している。その上で、特定のジャンルに詳しいユーザーの評価を、それぞれのジャンルの「人気店」としているが、そのアルゴリズムは公表していない。
「アルゴリズムを公開すれば、それを攻略するステマ(ステルスマーケティング)などの問題が出てくる可能性があるため、すべて透明化するのは難しい。
Rettyの情報の信頼性の面では、実名での投稿が有効な施策のひとつだと考えている。引き続き、お店選びの質と情報の信頼性を強みとして強化していきたい」(奥田氏)
サービスの信頼性を高めつつ、ユーザーからの支持を広げつつ、収益を上げていくにはどうすればいいのか?
グルメサイトの模索が続いている。
(文・横山耕太郎)