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不況でも20億円調達。ナッジ、カウシェ CEOが語るスタートアップの投資環境ウソホント

ナッジ、カウシェ、スタートアップ、資金調達

スタートアップ冬の時代の資金調達はどうなっているのか? ナッジCEOの沖田貴史さん(左)、カウシェCEOの門奈剣平さん(右)に聞いた。

撮影:オンライン取材にて

米国の急激なインフレとその抑制のための利上げ、結果としての株価下落。加えてロシアのウクライナ侵攻もあり、2022年上半期の世界経済は大混乱に陥った。スタートアップの上場承認の取り消しも相次いでおり、今後はVCの投資控えによる資金調達の苦戦が予想されている。

そんな中、Web3時代のチャレンジャーバンクを目指す「ナッジ」と、シェア買いアプリの「カウシェ」が、それぞれ6月に約20億円の資金調達を実施したと発表した。世代も戦い方も異なる2人のCEOに裏側を聞いた。

「冬の時代到来」か「適正化しただけ」か

ナッジ

アーティストやスポーツチームだけでなく、あしなが育英会や難民支援を行う団体とも提携している。

出典:ナッジHP

シリーズAで約20億円の資金調達をすると発表したのは、買い物する度にポイ活ならぬ“推し”活ができるクレジットカードを提供するナッジだ(参考記事:買い物で“推し”を応援できるクレカ「ナッジ」。J2リーグ、アイドル、大学ヨット部などコアなファン狙う)。

CEOの沖田貴史さんによると、2021年の11月にスタートアップのピッチコンテスト「IVS LAUNCHPAD」に出場し、投資家から「次のラウンドで投資したい」と打診があったのがきっかけだ。声を掛けたのは、今回のリード投資家であるSaaS特化型VCの「One Capital」。

実はナッジは直前の2021年9月に調達を終えたばかりだった。当時の累計調達額は12.3億円。事業に必要な資金は十分にあったものの、“冬の時代”を見越して「調達できるうちにしておこうと」(沖田さん)すぐに今回の準備に取り掛かったのだという。

「私は今年45歳になる、いわゆる氷河期世代です。これまで2社の立ち上げに参加してCEOを務め、2001年のネットバブル崩壊や2006年以降のライブドアショック、リーマンショックを経験しました。なので歴史的に見て、このままの好況は続かないだろうと考えていたんです。こういう見立てができたのは、おっさん起業家ならではかもしれません(笑)。

スタートアップへの資金流入がピークアウトするだろうと悲壮感を持って起業したのが2020年。しかしコロナ禍に突入して、さまざまな金融緩和のおかげでバブルが継続した。“冬の時代”が到来したというよりも、この1年半が異常だったのではないかと思います」(沖田さん)

海外投資家からの注目は高いまま

スタートアップ

国内スタートアップの資金調達額(棒)と社数(折れ線)。

出典:INITIAL「Japan Startup Finance 2021」

「“夏”に過度に浮かれないように」これまでもコスト重視な経営をしてきたという沖田さん。社員は約10人。オフィスはシェアオフィスで、4人が座ると一杯になるほどの大きさだという。

夏を象徴するのが、日本国内スタートアップの資金調達額だ。INITIALの「Japan Startup Finance 2021」によると、2021年には前年比46%増の7801億円を調達した。それを支えたのが、海外の投資家たちだ。たとえばユニコーン企業になったSmartHRは、アメリカの著名VCセコイアキャピタルからの投資を受けている。

今後、景気が冷え込む中で特に懸念されているのが、これらのグローバルで活躍する海外投資家が日本への投資から手を引くことだ。

ナッジの今回のラウンドには新規投資家1社、既存投資家1社の合計2社のグローバルファンドが参加している。沖田さんは「シリーズが浅いのであまり影響を受けなかった可能性もあるが」と前置きした上で、

「今回は2社に抑えましたが、海外の投資家や事業会社からの投資の引き合いは他にもありました

日本のキャッシュレスは普及率が低く成長市場であるのに加え、エンタメやスポーツという急速に産業化が進んでいる業界に金融の要素を加えたサービスという点を評価してもらったと思います。金融は収益性が高いですしね。普通にやればユニコーンになれるだろう、と。

次のラウンド以降は海外投資家中心になるかもしれません。海外から日本への投資熱は決して下がっていませんよ」(沖田さん)

と持論を述べた。

沖田さんは今回も含め、1億円超を自身で出資する。起業家が創業時に自己資金を投じることは多いが、シリーズA以降も継続して投資するケースは決して多くない。「一部のVCよりも多く出資しています。自らリスクを負う姿勢も評価されたのかもしれません」(沖田さん)

投資家から「もっとマーケティング費用かけて」

ナッジ、松井秀喜

松井秀喜選手のNFTプロジェクト実証実験を発表する記者会見にて。右が沖田さん。2022年4月21日撮影。

提供:ナッジ

ナッジは提携しているアーティストやスポーツチームのコンテンツをNFT化し、ユーザーにポイントとして付与する実証実験を開始している。今回の調達資金は(1)初心者でも簡単にNFTを受け取れる「Cashless to earn」の仕組み作り、そして(2)サービスの向上(2)マーケティングに使う予定だ。

不況下のスタートアップに必要なこととして、「成長から利益重視」の経営にシフトして「コストカット」を徹底することや、調達できない可能性も視野に入れて事業計画を見直すよう提案する投資家も少なくないが、

「もともと保守的な性格ということもありますが、この市況になったからといって事業計画を変更することはしていません。

決済事業はSaaSの事業モデルに近く、SaaSビジネスの指標にペイバックピリオド(顧客獲得コスト回収期間)というものがあります。短いほど費用対効果が高いことを意味し、12カ月で回収できれば優秀だと言われているのですが、ナッジでは2カ月でした。なのでむしろ投資家には『もっとマーケティング費用をかけていきましょう』と言われたくらい。

もともとがケチすぎたので(笑)今後はもっとメリハリをつけて投資していきます」(沖田さん)

シリーズAから「M&Aも視野」と断言

ナッジ

新規上場(IPO)が厳しいことを受け、今後はスタートアップの合併買収(M&A)が増えると予想するVCは多い。投資家と出口戦略(Exit)について話し合ったのか聞いてみた。

IPOもM&Aも両にらみでいこうと話しました。

私自身がIPOを2回経験しているので、上場に強いこだわりがあるわけではありません。それよりもユーザーや社員、投資家、全員にとって最適な道を探したいなと」(沖田さん)

終わりの見えない景気の冷え込み。通常の好況不況の循環に比べ、コロナ禍の金融緩和策という「カンフル剤」があった分、「この谷は深く長い」と沖田さんは予測している。

「一方で、Web3の流れは本物で、これからが成長期です。サービスの質も良く起業家も優秀なのに、資金が集まりづらいスタートアップも出てくるでしょう。

ベテラン起業家としては、経営統合という方法で若手をサポートできるのではないかと思っています。札束で殴り合うようなやり方ではなく、リスペクトを持って経営者同士が手を取り合うことができるのなら、不景気も悪い面ばかりではないかもしれません」(沖田さん)

実際、経営統合に向けた話し合いはすでに進んでいるそうだ。

既存投資家が全員参加した理由

カウシェ

カウシェCEOの門奈剣平さん。

提供:カウシェ

起業家の資金調達における懸念として、バリュエーション(株式の値決め)もあるだろう。前回より低い株価で調達せざるをえない、いわゆる「ダウンラウンド」になるスタートアップが出てくることは避けられないという見方が多い中、

調達額バリュエーション決議スピード、どれをとっても満足のいくものでした。既存投資家の皆さん全員に参加してもらえたのも嬉しいです」

と語るのが、シリーズBで約22億円を調達したシェア買いアプリのカウシェCEOの門奈剣平さん(30歳)だ。今回の調達準備を始めたのは、東証マザーズ指数が大幅に落ち込んだ2022年2月以降

アプリのダウンロード数やユニークユーザー数が想像を上回るペースで増加し、シリーズAの調達時に投資家らに提出した事業計画を3〜4カ月前倒しで達成できたことが評価につながったという。

門奈さんや投資家らがベンチマークにするのは、同じくソーシャルECを扱う中国の拼多多(ピンドゥオドゥオ)だ。同社は設立から約7年で年間8億人が利用するECに成長し、2018年にナスダック上場を果たした。

「投資家とExitについての詳細なディスカッションはしていませんが、いわゆる『上場ゴール』になるようなことだけはやめようと。上場は手段であり、大切なのはプロダクトの成長です。

前回に引き続き今回も投資していただいたデライト・ベンチャーズの南場智子さんからは、『小さく上場するのではなく、大きく育てて上場しよう』と言ってもらいました」(門奈さん)

ストックオプション制度も投資の決め手に

カウシェ

出典:カウシェHP

投資基準はプロダクトに限らない。今回初めて投資に加わったアメリカの投資会社サスケハナ・インターナショナル・グループ(SIG)の子会社で、アジアへの投資を行うSIG・アジア・インベストメントのアンバー・リウ氏(Amber Liu)は言う。

給与ストックオプションの制度などから、メンバーを重要視する企業姿勢がうかがえました。 アーリステージにもかかわらず、従来の日本企業よりもはるかに柔軟で新しい働き方を創造する、若い創業者と経営陣の姿勢に共感したんです」

(参考記事:創業者が語る、誰も教えてくれない「ストックオプション」…SmartHR 、LayerX、カウシェ編【1万字対談】

独立系VCに加え、ソニーイノベーションファンドや電通ベンチャーズなどのCVCも複数参画した本ラウンド。景気悪化の煽りを受けるのは投資家も同じだ。不況が続くほどキャッシュに余裕があるCVCのインパクトが増加するという予測もあるが、門奈さんは「今のところ独立系とCVCの違いは感じていません」と話す。

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