2021年11月3日、アメリカ連邦最高裁判所前で行われた集会に参加した銃規制活動家のデービッド・ホッグ。
AP Photo/Jose Luis Magana
- アメリカ最高裁判所は6月23日、100年前に制定された銃の携帯を制限するニューヨーク州法は憲法違反との判断を下した。
- この判決により、憲法修正第2条で認められた武器を所持し携帯する権利が拡大されることになり、銃規制派は警戒感を高めている。
- 最高裁の9人の判事のうち、リベラル派の3人は異議を唱えていた。
アメリカ連邦最高裁判所は2022年6月23日、個人が自衛のために自宅外で銃を携帯する権利は憲法によって保障されていると宣言し、憲法修正第2条の権利が劇的に拡大されることになった。
100年以上前に制定されたニューヨーク州法では、自宅外で銃を携帯するには、そのための「正当な理由」を証明する必要があるが、今回、最高裁によってそれが憲法違反であるとの判決が下された。
判決文に書かれたクラレンス・トーマス(Clarence Thomas)判事の意見によると、最高裁で多数を占める保守派判事はニューヨーク州法が憲法に違反しているという見解を支持した。
「憲法が認める権利の中で、政府に対して特別な必要性を訴えない限り行使できない権利というものは他に存在しない」と彼は記している。
「不人気な言論(議論を呼ぶような意見の表明)や宗教の自由に関して、憲法修正第1条はそうではない。自分に不利な証人と対峙するときの被告人権利に関して、憲法修正第6条はそうではない。そして、自己防衛のために公共の場で(銃を)携帯することに関しても、憲法修正第2条も同じくそうではない」
最高裁の9人の判事のうち、リベラル派の3人の判事、スティーブン・ブレイヤー(Stephen Breyer)、ソニア・ソトマイヨール(Sonia Sotomayor)、エレナ・ケイガン(Elena Kagan)は、この見解に異議を唱えた。
「多くの州では、さまざまな銃器の購入、携帯、使用を制限する法律を制定することで、銃の危険性に対処しようとしてきた」とブレイヤーは反対意見の中で記している。
「最高裁は今日、そのような州の努力を大きく妨げることになった」
この判決は、銃を持つ権利を主張する活動家に大きな勝利をもたらした一方、銃乱射事件が増加する中でニューヨーク州法を支持するよう最高裁に働きかけていた銃規制支持者にとっては打撃になった。
これは、14年前に最高裁が銃所持の権利を大幅に拡大したとき以来の歴史的な判決だ。その2008年の「ヘラー判決」では、個人が家庭内で使用するために銃を所持する権利があるとし、「よく統制された民兵組織」が「武器を所持し携帯する」集団的権利であるという数十年来の憲法修正第2条の解釈を否定した。
「憲法修正第2条は、武器を所持し携帯する権利を保障するものであるというのが、銃擁護派の主張だ。『ヘラー判決』は武器の所持について、そして今回は銃の携帯についての判決だ」とデューク大学法学部の教授で、同校のCenter for Firearms Lawの共同ディレクターを務めるジョセフ・ブロッハー(Joseph Blocher)は判決に先立ってInsiderに語った。
「(所持と携帯という)2つの言葉は憲法修正第2条に入っていて、どちらも意味を持つようになった」
今回の訴訟は、ニューヨーク州の男性2人が起こしたもので、彼らは護身用の銃を公共の場で人目に触れない形で携帯する許可を申請したが、「正当な理由」の基準を満たせずに却下された。彼らは全米ライフル協会の支持を受け、ニューヨーク州法が憲法修正第2条を侵害していると主張した。
2021年11月の口頭弁論で、保守派の判事らは、下級審で支持されてきたこの法律を破棄することに前向きのようだった。
法律の専門家によると、この判決によって公共の場に銃が持ち込まれる可能性が高くなるという。ニューヨーク州のほかにもカリフォルニア州、マサチューセッツ州、デラウェア州、メリーランド州、ニュージャージー州、ロードアイランド州、ハワイ州の少なくとも7つの州が、銃の携帯を許可制にしているが、その規制の存続も危うくなっている。これらの州の人口を合わせると約7300万人であり、アメリカでも特に人口密度が高い都市がある。
銃擁護派は、この判決により、多くの人々が自分の身を守ることができるようになると述べている。
「反対派は『もうお終いだ。街は犯罪であふれかえることになる』と言うだろう」とIndependent Instituteの上級研究員、スティーブン・ハルブルック(Stephen Halbrook)は判決前にInsiderに述べている。だが銃所持の許可を得ようとする人は「犯罪歴があるわけではない」と付け加えた。
「公共の安全性への影響については、どちらかといえば、遵法精神に富み、犯罪者から身を守ることができる人々がいることで、プラスに働くと思う」と、ハルブルックは述べた。彼は「The Right to Bear Arms(武器を携帯する権利)」の著者でもある。
今回の判決により、いくつかの州の銃規制法が改正されるだろうが、それに対応するさまざまな法的措置も取られる可能性があると、法律の専門家は述べている。例えば、大学のキャンパスやスポーツ・スタジアムなどの広い公共の場や、バーなどの限られた狭い場所などで銃の携帯を禁じるなど、各州でますます「場所ごとの制限」を設けるようになるだろうとブロッハーは指摘する。
一方、連邦議会では民主・共和両党が作成した銃規制強化法案が可決成立し、6月25日にジョー・バイデン大統領が署名した。アメリカ各地では、銃乱射事件が相次いで発生しているが、何年もの間、無策の状態が続いていた。
この超党派の法律に盛り込まれたのは、21歳未満の銃購入者に対する身元調査の強化、精神医療への予算拡充、当局が脅威とみなす人物から銃を一時的に没収する権限を裁判所に付与する「レッドフラッグ(赤旗)法」を各州に導入するための補助金の交付、結婚していないパートナーへの虐待による有罪歴のある人を全米の犯罪歴調査システムに登録することで、いわゆる「ボーイフレンドの抜け穴」をふさぐことなどだ。この法案はバイデン大統領と民主党が提案していた大幅な規制強化には及ばないものの、過去30年で最も重要な銃規制となっている。
今回の最高裁の判決を受け、銃規制活動家たちは、この危機を乗り越えるために州や国の議員たちにさらに圧力をかけていくことが大いに予想される。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)