ベストセラーとなっているフォード初の電動ピックアップトラック「F-150ライトニング」の開発チームを率いたリンダ・チャン。
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- リンダ・チャンは、フォード初の電動ピックアップトラック、F-150ライトニングの開発チームを率いた。
- F-150ライトニングは20万台の注文を受けており、新世代トラックの誕生に貢献した。
- 航続距離への不安を払拭することと電動トラックの牽引力を実証することが非常に重要だったとチャンは話している。
フォード(Ford)のF-150は、45年連続でアメリカで最も売れているトラックで、40年以上の間、最も人気のある自動車だ。
「乗用車のドライバーに電気自動車(EV)を購入させるのはそれほど難しくはないが、電動トラックが航続距離、積載量、牽引力、耐久性、信頼性においてガソリン車と同等であることを消費者に納得させることはずっと難しい」とアメリカ自動車協会(American Automobile Association:AAA) のグレッグ・ブラノン(Greg Brannon)は Insider に語っている。
そのフォードの挑戦を請け負ったのが、「ライトニング(Lightning)」と名付けられた電気自動車版F-150ののチーフ・エンジニア、リンダ・チャン(Linda Zhang)だ。
ライトニングはこれまで20万台の注文を受けており、その関心の高さからフォードは生産台数を当初のほぼ倍の年間15万台に引き上げた。それでも購入者がそのハンドルを握るためには3年の待ち時間が必要だという。またこの車は批評家からも好評を博している。
知性と感情
では、チャンとそのチームはどのようにして、トラック好きのアメリカ人に電動トラックへの乗り換えを納得させたのだろうか。
フォードでエンジニアリング、財務、製造、戦略の分野でも活躍していたチャンは、人気の高いF-150のEV版を推進してほしいという依頼を受ける前は、 SUVのエクスプローラー(Explorer)とエスケープ(Escape)を担当していたという。
26年前にフォードに新卒で入社した彼女は「単にガソリン車のモデルを電気自動車に置き換えるだけではうまくいかない」とInsiderに語っている。
「理性と感情で出来ている人の心を変えなければならない。理性の面は、電気自動車は運用コストが安いのでお金で解決できる。しかし、彼らの感情を変えるために、我々は自動車で何をしたらいいのか」
その前に、チャンはまずフォードのスタッフたちを説得しなければならなかった。彼らの多くは、「EV版のF-150」というアイデアそのものに懐疑的だったという。
「『このプロジェクトには携わるけれど、客の1人になることは絶対にない』とチームの何人かは言っていた」とチャンは言う。
電動ピックアップトラック「F-150ライトニング」は動力源としても使用可能だ。
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まず最初の障害は、EV普及の最大の障壁「航続距離への不安」を克服することだった。
チャンによると、グループ対話形式で自由に発言してもらうフォーカスグループで、ほとんどの人は1回の旅行で必要な距離は、200マイル(約321キロメートル)以下だと認識していたという。ライトニングの最安モデルである、プロ(Pro)SR(short range)の航続距離は230マイル(約370キロメートル)で、より高価なモデルではその距離は320マイル(約514キロメートル)まで伸びるという。
自らもライトニングに乗っているチャンは、18歳の娘が大学に入学するための300マイル(約482キロメートル)の道中、充電するためにちょっとだけ停車したことを思い出した。
もうひとつの大きな障壁は牽引力だった。電気自動車はガソリン車に比べ、パワーが弱いのではと心配されることもある。しかし、初期のライトニングのカスタマーレビューで、そのような懸念は払拭されていたようだ。
さらに、ライトニングが、バックアップ用電源として利用できることも購入者にとって大きなメリットだという。
懐疑的だったフォードのスタッフたちも、すぐにライトニングの予約リストに名前を連ねるようになった。その中には、停電に遭遇した結婚式をライトニングを電源として利用して救ったという女性エンジニアの名前もあったという。
新世代のエコ・トラック
フォードは、電動ピックアップトラックのサイバートラック(Cybertruck)を発表したテスラ(Tesla)などの競合他社を市場で打ち負かしてきている。また3万9000ドル(約525万円)から購入できるライトニングは、リビアン(Rivian)の「R1T」のほぼ半額で、アメリカで最も安価に入手できる電動ピックアップトラックだ。
テスラの「サイバートラック」を発表するイーロン・マスク(Elon Musk)。
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チャンによると、F-150ライトニングは既存のドライバーにEVへの移行を説得するだけでなく、環境意識の高い多様な新世代のドライバーも獲得しているという。
「現時点では、顧客層は劇的に若くなっている。カリフォルニアやニューヨークなどの通常はフルサイズのトラックは売れない州での話だ」と、フォードのCEOジェームズ・ファーレイ(James Farley)は2022年の4月の決算発表で述べている。
10億ドル(約1350億円)を投じてこのピックアップトラックを開発し、生産開始のために何千人もの従業員を雇用したフォードにとって、同車の人気は安心感をもたらすものとなるだろう。
AAAのブラノンは「F-150ライトニングが現代の自動車製造において持つ意義は、いくら強調してもし過ぎることはない」と言う。
「F-150は、長年にわたりずっとアメリカで最も人気の高い車だった。このモデルの電動化は、電気自動車の大量生産と普及に向けた大きな一歩になる」
「肯定的であれ否定的であれ、F-150ライトニングの購入者が自らの体験を声に出すことは、次回の車の購入時に電気自動車を検討するかどうか、人々に大きな影響を与えるだろう」ともブラノンは述べている。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)
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