日本企業も標的に…中国、独占禁止法改正でIT規制強化。罰金総額は1年で50倍増

インサイド・チャイナ

アントグループの上場延期が中国政府のIT企業叩きの引き金だった。

Reuters

6月24日、中国の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)常務委員会が独占禁止法の改正案を可決した。

改正案は、2008年の同法制定時には想定していなかった「プラットフォーマーの独占行為」に法の網をかけるもので、中国のメガITが「冬の時代」に入るきっかけにもなった。改正法は8月1日に施行されるが、当局は施行に先駆け、2020年末から独禁法に基づく調査や行政処分を強化している。

独禁法違反の罰金、1年で50倍増

6月24日の改正案可決は新華社が短く報じた。全人代常務委の広報責任者は法改正のポイントを「(企業が取引先に競争の制限を強いる)垂直的制限行為のルールや、(M&Aなど)事業支配力の集中につながる行為の調査ルールを整備した」と説明したが、詳細は明らかになっていない。だが、2021年10月に全人代常務委で審議が始まった際に改正案の大枠は公表されており、

  • 違反企業に対する制裁金の大幅引き上げと刑事責任の追及
  • 企業側がデータやアルゴリズム、技術、資本優位性やプラットフォームのルールを用いて、競争を排除・制限することを禁じる

など、「プラットフォーマー」を対象にしたルールの策定を柱としている。

また、当局は法改正前から、現行の独禁法を厳密に適用することで企業の行政処分の事例をつくり、違法のボーダーラインを示してきた。中国メディアによると2020年に約4億元(約80億円、1元=20円換算)だった独禁法違反の罰金総額は2021年に235億元(約4700億円)に激増した。

同年4月には、EC分野での「支配的な地位の乱用」を理由に、アリババグループが2019年の国内売上高の4%に相当する182億元(約3700億円)の巨額罰金を科された。当局は1万字以上に及ぶ「処罰決定書」を公表し「プラットフォーム企業の定義」「事業の範囲」「支配的地位の定義」をどう線引きしたか、そして関係者の調査、内部のチャット記録、Eメールなどから認定したアリババの違反行為を詳細に説明した。

改正法の施行は今年8月だが、それに先立ち規制強化と法案審議が並行して進められた形だ。

ネット事業を想定していなかった08年制定の独禁法

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習近平政権は、IT企業に富とデータが集中することが格差拡大を招いたと考えている。

Reuter

独禁法が改正されるのは2008年8月の導入以来初めてだ。

独占禁止法は、市場支配力を強めた大手企業がシェアの拡大や価格維持を目的に、競合他社と談合したり、取引先に圧力をかけるなどして自由競争を妨げ、負の側面が大きくなったタイミングで導入される。つまり、経済成長の副作用に対処する法律と言える。

日本では戦前から戦中にかけて巨大な力を持っていた財閥が第二次世界大戦後に解体され、1947年に独占禁止法が制定された。

一方、中国で独禁法が施行されたのは日本より半世紀以上遅い2008年8月1日だ。1970年代後半に始まった改革開放政策や2001年のWTO(世界貿易機関)加盟で経済が急成長し、コングロマリット(複合企業)の影響力が増したことや外資の参入が背景にある。

2008年の独禁法制定時には想定されなかったもの。それは当時は新興企業だったIT企業の急成長と新しい独占の手法の登場だ。米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック〔現メタ〕、アップル)に肩を並べる存在として2010年代前半にBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が台頭し、後半には配車サービスのDiDi(滴滴出行)、フードデリバリーの美団(Meituan)、動画・ニュースプラットフォームのバイトダンス(字節跳動)が頭角を現した。

中国政府や消費者はイノベーションによって生活の利便性を高め、雇用や新しいビジネスを創出するこれら企業を当初は歓迎していた。しかし、メガITのサービスやプラットフォームが社会に欠かせない存在になるにつれて、シェアや利益を追求する企業側の“暴走”も目につくようになった。

中国の独禁法はインターネットビジネスの独占行為に対応しておらず、M&Aなど市場支配力の強化につながるルールも不十分で、罰則も抑止力としては物足りなかった。

中国当局は2020年1月、公正な競争に悪影響を及ぼす懸念がある支配的地位の定義について、インターネット上の事業状況やデータの把握状況を追加し、独禁法の大改正に着手すると発表した。

トヨタ、ソフトバンクも巻き添え

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