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コテンラジオ制作の裏側にある緻密な準備。大切にする「軸」と仲間との出会い【COTEN・深井龍之介2】

COTEN CEO 深井龍之介

撮影:伊藤圭

COTEN RADIO(コテンラジオ)は、COTEN(コテン)CEOの深井龍之介(36)とヤンヤンこと楊睿之(ようえいし)が、自称「歴史弱者」な樋口聖典に歴史を語ってみせる、というスタイルを取っている。

膨大な資料などをいろいろ調べた中から、例えば「マルクスって実はこういう人だったんだよ」「今のセックスの常識は実は最近のことなんだよ」というような“史実”を実に楽しそうに、自分たちが1番面白がっているように聞かせる。だから、ついつい引き込まれる。

だが、その「男子校」ノリの軽妙なトークの裏には、何人ものスタッフによる膨大で緻密な準備が積み重ねられている。

「問いの設定」から軸が定まる

コテンラジオの各テーマは深井なりの「なぜ?」「どうして?」を軸にして決まっていく。

COTEN RADIO 公式YouTubeチャンネルより

テーマはまず深井が「軸」となる問いと共に決める。軸とは「第1次世界大戦」編だと「人類はなぜ戦争を繰り返してしまうのか」、「織田信長」編では鎌倉時代前に遡って武士の誕生から紐解き、さまざまな状況下での人間の行動パターンを知ることで、人間はなぜ合理的な判断だけで行動しないのかというような、「問いの設定」だ。

聞いている私たちはその問いがあることで、史実をなぞるだけでなく、「人間ってどうしてこの場面でこんな行動をとるんだろう」「なぜこういうことを繰り返すんだろう」と知らず知らずのうちに思考が深まっている。

コテンには古代ギリシャの哲学者、ディオゲネスから名前をとったリサーチを担当するディオゲネスチームなるものがある。当初は深井も含め4人で始まったこのチームも今や8人になった。深井がテーマを決めると、ディオゲネスチームが調査を開始する。

まず関連書籍を探し、集めるだけで1カ月。集めた60〜70冊の書籍や関連する論文を手分けして読み、そこで得た知識をもとに章立てを決めて台本を作る。さらに深井がその台本に加筆。台本には話す内容の倍以上の細かい書き込みをするという。

丸1日かけて流れを確認するために読み合わせをして、1、2日かけて一気に平均10回分の番組を収録する。話した内容はほぼ編集しないが、事実関係や固有名詞などに誤りがないかスタッフの1人がファクトチェックし、やっと配信に漕ぎ着ける。

「覚える量があまりに多いので、収録に向けて知識の最大パフォーマンスを出せるようにテンションを上げていく。試合に臨むアスリートのような感じです」(深井)

深井との出会いで「素の自分」を認められた

楊睿之

「ヤンヤン」の愛称で呼ばれている、楊睿之(ようえいし)は中国で生まれ、小学4年生までを現地で過ごした。

提供:株式会社COTEN

コテンラジオで深井の相方を務めるのは楊だ。深井が背骨となる知識を立て板に水の勢いで話していると、絶妙のタイミングで楊が合いの手を入れる。それは少し違う見方だったり、トリビア的な人間臭いエピソードだったり。楊自身、大きな歴史の流れの中では埋もれてしまいそうになる小さなエピソードに惹かれるという。

中国で生まれ、小学校4年生までその地で育った楊にとって、歴史教育とは「反日教育」でもあった。父親の仕事の関係で来日して九州大学に進学、その後日本と中国を行ったり来たりして働いているうちに、「中国人なのに日本が好き」という自身のアイデンティティに悩み、そのことがコンプレックスにもなっていたという。

ある時たまたま参加した日本の歴史をテーマにした講演会を聞き、歴史の面白さに引き込まれた。同時に「日本を好きな自分を否定する必要はない。素直に認めよう」と思えるようにもなった。

楊によると、コテンには一度素の自分に向き合わざるを得なかった人が集まっているという。楊自身も以前は上昇志向が強く、周囲の価値観に影響されることが多かった。親との関係も良好とは言えない中で、「親は大事にするべきもの」という“常識”に苦しんできた。

「『あるべき自分像』を乗り越えるという決断を下せるようになったのは、深井くんとの出会いが大きいです。歴史を学ぶようになり、コテンで働くようになり、『素の自分』を素直に認められるようになったので」(楊)

自称「歴史弱者」でもその必要性に気付く

樋口聖典

株式会社BOOKを経営する樋口聖典は、音楽プロデューサーやお笑い芸人としての経歴も持つ。

提供:株式会社COTEN

コテンラジオのもう1人のパーソナリティである樋口と深井との出会いは、あるビジネスコンテストで一緒に登壇したことだった。ステージの上でプレゼンが続いている最中も、深井はパソコンを開いたり、キンドルをいじったりして「落ち着きがなかった」(樋口)。

だが、その後の飲み会で話すと印象が一変した。中国の歴史を樋口が引き込まれるほど面白く聞かせた。

「歴史を身の回りに置き換えて伝えるなど、抽象化する力も人に分かりやすく伝える力もすごい。この人むちゃくちゃ頭いいなあと思いました。何より、この喋りは絶対に刺さる人がいる、こういうコンテンツがあれば面白がる人がいると確信しました」(樋口)

音楽プロデューサーやお笑い芸人の経歴を持つ樋口は、福岡でラジオ番組を持っていた。その経験とノウハウを活かし、ほぼ無計画な状態で自身が運営するスタジオに深井と楊を呼び、「とりあえず録ってみましょう」と始まったのがコテンラジオだった。

学生時代、歴史が大の苦手科目で「歴史弱者」を自称する樋口は、リスナー代表のような存在だ。深井や楊の話を聞いて感じた驚きを率直に口にして代弁してくれる。その樋口が今は「人間を理解するのに、歴史は必要」だと言い切る。歴史嫌いだったという樋口が言うからこそ、説得力がある。

人文学をビジネスに変えた深井の特殊性

先日深井はTwitterでこう呟いていた。

「この前のCOTENの採用、540人ぐらい応募きたんだけど、、それで分かったのは人文知(と僕が呼んでる)センスや能力を持ってる人がめっちゃたくさんいるのに、社会で発揮する場所がないということ。彼らの人文的能力を発揮する場にCOTENがなれたらかなり人類に貢献できそう」

murokoshi

コテンラジオにもしばしば登場する室越龍之介は、リサーチを担当するディオゲネスチームの中心人物だ。

提供:株式会社COTEN

先のディオゲネスチームの中心である室越龍之介は九州大学文学部で深井の同級生だった。宗教人類学を研究するために博士課程に進んだが、研究者にはならず、大分市役所でラグビーW杯のための通訳の仕事や在コロンビア日本国大使館などで働いていたところ、深井から声をかけられた。

今では時々パーソナリティとしてコテンラジオに登場することもあるし、そこから派生したゼミも主宰している。

「文学部に4年いたら学ぶことが、意外と知られていないなと思ったんです。人文学には構造主義とかフェミニズムとかオリエンタリズムとか『考える道具』が揃っていて、それらに触れるだけでも、いろんな考え方ができるようになる。そうすると、生きやすくなると思うんです。でも大人が人文学を学ぼうと思っても町の教室などはないし、大学で学び直すのはハードルが高いんですよね」(室越)

リベラルアーツの大切さは資本主義の限界が認識され始めた10年ほど前から指摘され続け、欧米では歴史や哲学を学ぶ重要性は浸透している。日本でもリベラルアーツへの関心は高まっているものの、まだまだ「『孫子の兵法』の一部だけを切り取って、短絡的にビジネスに活かそうという風潮が強い」(室越)という。

コテンが提供しているのは、もう少し抽象度を上げて俯瞰して考えるきっかけだ。

それでも室越は人文学そのものが「お金になっている」のは、深井という人物の特殊性によるものだという。人文人材だけだとそもそも事業として成立できなかったし、これほど広く受け入れられるものにもならなかっただろうと。

3回目はなぜ深井がこれほど歴史にハマったのか、なぜ歴史を仕事にしようと思ったのか、にさかのぼっていく。

(敬称略、明日に続く)

(第1回はこちら▼)

(文・浜田敬子、写真・伊藤圭)

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