プロントの新業態「エビノスパゲッティ」の商品「トマト&トマト(990円)」。とてもロボットがつくった商品には見えない。
撮影:小林優多郎
飲食チェーンのプロントは、6月30日から新業態「エビノスパゲッティ」の1号店を東京・丸の内の丸ビルにオープンする。
エビノスパゲッティはスパゲティとアルコールを中心にした店だが、最大の特徴は世界初導入となるパスタ自動調理ロボットだ。
最速45秒でパスタがつくれるロボット
店内とロボットの様子。
撮影:山﨑拓実
エビノスパゲッティ 丸ビル店は、カウンターと小さな4人がけのテーブルがある全32席のややコンパクトな店だ。
店頭には暖簾がかかっていたり、全体的に温かみのある木目調の店内は、少し高級な和風の雰囲気を醸し出している。
しかし、店舗の奥には世界で初めて「注文に応じて麺の茹で、具材・ソースの供給、調理、鍋の移動・洗浄を自動で行う」ロボットが鎮座している。
アーム型ロボットが茹でたスパゲティを加熱用の容器に移すところ。
出典:プロント
加熱機は回転しており、従来の人の手による調理の約2倍の温度で熱する。
出典:プロント
驚異的なのはそのスピードで1品目は約75秒、2品目以降は約45秒で一連の動作が完了する。
最終工程である皿への盛り付けと、客への配膳は人間が行うが、ほとんどの調理工程を1台のロボットが行なっているのは驚異的だ。
4年の研究期間を経て「シェフの味」に近づく
P-Roboの全体。
出典:TechMagic
スパゲティをつくるロボットの名前は「P-Robo(ピーロボ)」という。
2018年からプロントと調理ロボットのスタートアップ・TechMagicが共同開発を始めて、今回初披露となった。
プロントコーポレーション 常務取締役の杉山和弘氏。
撮影:小林優多郎
6月27日に開催されたメディア向けの先行試食会で、プロントの常務取締役である杉山和弘氏はP-Roboのこだわりのポイントとしてはまず「おいしさの追求」を挙げた。
「(少子高齢化などで今後も)飲食(をする人)の絶対数が減る、労働力も減る。けれど、おいしくなければ続かない」(杉山氏)
料理をロボットがつくるというアイデアに、当初は社内でも反対の声は上がっていたそうだが、「やってみなはれの精神で実行した」(杉山氏)という。
そこで白羽の矢が立ったのがTechMagicだ。TechMagicはロボットのハードウェア、ソフトウェア両面で開発を進め、「グラム単位での材料やソースの調合と繊細な温度調整」により「熟練のシェフの味」に限りなく近づいた味を実現しているという(いずれもTechMagic担当者)。
当初提供されるスパゲティは全8種類。価格は858〜1078円(税込)。
撮影:小林優多郎
筆者も実食してみたが、人間のシェフがつくったと言われても疑わないだろう、カフェ業態のプロントと遜色のないおいしいパスタだった。
麺の硬さは少し硬めで(筆者個人的には)好みの硬さ。温度はアツアツ。とても1分前後で調理できた料理とは思えなかった。
おそらく、ロボットの存在を知らずに、何気なくパスタを食べに来た客は、ロボットの存在にまったく気づかず食べて、帰るのではないだろうか。
今後はロボット技術の外販も狙う
P-Roboは店舗奥の厨房に置かれており、客席からはあまり目立たない。
撮影:小林優多郎
一方で、課題感を感じる部分もあった。
試食会当日は複数のメディアが取材に訪れたが、提供スピードがやや遅れて、一部で困惑の声が漏れていた。機材トラブルでロボットが一時的に動かなかったことが原因だ。
広報担当者によると「今日初めての出来事」「店舗スタッフで対応できる範囲のもの」だったそうだが、営業開始後に起きてしまったらと思うと、やや心配になる。
プロントによると不具合時の準備として、「当面の間はメンテナンス要員を常駐させます」「営業時間中にはサポートできるような体制を取る予定」と回答している。働き手不足に対応するための店舗の省人化が1つの目的であるだけに、今後の安定した運用に期待したいところだ。
プロントの杉山氏は、P-Roboについてエビノスパゲッティや同社グループ企業内だけではなく、他社への提供も目指していると話す。
「(P-Roboにより)他社との差別化を図ればいいのかもしれないが、すばらしいロボットで外食業界が盛り上がることに意義がある。
さまざまな場面で、5年で50店舗ぐらいには(導入事例を)増やしていきたい」(杉山氏)
果たしてロボットが調理をする日常は当たり前になるのか。まずは丸の内に足を運んで、ぜひ確認してみてほしい。