「人類のゆりかご」として知られる南アフリカ・ヨハネスブルグ近郊のステルクフォンテイン洞窟には、アウストラロピテクスの化石が地球上のどこよりも多く残されている。
Mark Edward Harris
- 南アフリカの洞窟から化石が発掘された人類の祖先は、約370万年前に生きていたという。
- 研究者たちは、初期の人類の化石の年代測定のために、宇宙線に曝されることで生成される放射性核種の濃度を分析する「宇宙線照射年代測定法」という手法を用いた。
- 新たな研究によってこれらの化石の年代が今まで考えられていたよりも古いことが分かった。最古の人類の祖先とされる「ルーシー」よりも数十万年古いことになる。
1936年、南アフリカの洞窟で初期人類の化石の発掘が始まった。現在では、これらの古代の骨のほとんどは370万年前のものであり、これまで考えられていたよりも100万年以上古いと研究者は述べている。
革新的な年代測定技術を用いて化石の年代について分析した研究論文が、2022年6月27日付で米国科学アカデミー紀要に掲載された。研究にあたった国際チームは「人類のゆりかご」として知られる南アフリカ北部の主要な化石遺跡のひとつであるステルクフォンテイン洞窟で発掘された骨の化石の年代測定に、「宇宙線生成核種」を用いた。
パデュー大学の地質学教授で、論文の筆頭著者であるダリル・グランジャー(Darryl Granger)によると、ステルクフォンテイン洞窟には、ホモ・サピエンスが誕生する前から存在していた初期の人類であるアウストラロピテクスの化石が、地球上のほかのどの場所よりも多く残っているという。彼は「何百体もの化石が見つかる」とInsiderに語っている。
しかし、アウストラロピテクスの化石の年代を正確に測定するのは難しい。というのも洞窟の同じ場所に複数の地層があり、動物の化石も混在していて、すぐ隣から見つかった化石がまったく別の時代のものである可能性があるからだ。
グランジャー博士とそのチームは、初期人類の骨の年代を測定するために「宇宙線照射年代測定法(cosmogenic nuclide dating)」という技術を用いた。これは、宇宙線が岩石に当たると生成されるアルミニウムやベリリウムなどの放射性核種の濃度を測定し、それらの生成・崩壊の速度などを分析することで、宇宙線に曝された時間を推定するというものだ。
「地表にある岩石は、宇宙線にさらされる。そして洞窟の奥深くにある岩石に降り注ぐ宇宙線は遮られる」とグランジャーはInsiderに述べている。
「岩石がいつ埋もれたのか、その年代を測定するので、この手法は埋蔵年代測定(burial dating)とも呼ばれている」
グランジャーは2015年にこの手法を用い、ステルクフォンテイン洞窟で発掘された「リトル・フット」という愛称で呼ばれるアウストラロピテクスの化石の年代を測定し、約340万年から370万年前のものだと推定した。
今回発表された論文では、リトル・フットに加えて、この洞窟から発掘されたすべてのアウストラロピテクスの化石も、これまで考えられていたような約200万年前のものではなく、340万年から370万年前のものであることが示唆されている。
1994年に「リトルフット」が発見されたステルクフォンテイン洞窟の発掘現場。
Mark Edward Harris
これらのアウストラロピテクスの化石の年代が修正されたことから、「人類の祖先」として有名になったアウストラロピテクス・アファレンシスの「ルーシー」が今のエチオピアを歩き回っていた320万年前とほぼ同じ年代におさまることになった。これによってステルクフォンテイン洞窟から発掘された化石がアウストラロピテクス・アファレンシスの子孫のものだという説が否定されたとグランジャーは考えている。
「もっと古い共通の祖先がどこかにいるはずだ」
グランジャーは今回の発見と宇宙線照射年代測定法が、人類の進化の記録にますます役立つことを期待している。さらに今後の調査によって、ステルクフォンテイン洞窟の化石が、南アフリカの他の遺跡で見つかった化石とどのように違うのかが明らかになることも期待しているという。
宇宙線照射年代測定法のおかげで「世界各地の人類進化の発掘現場において、以前よりもはるかに優れた年代測定ができるようになった」と彼は述べた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)
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