米最高裁が中絶を違憲とする判決を下すとのリーク情報を受け、抗議の声を上げる人々(2022年5月14日撮影)。
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アマゾンの従業員数百人は6月27日、社内請願書に署名し、「ロー対ウェイド判決(※)が覆されたことによる基本的人権への脅威に対して、迅速かつ断固たる行動」をとるよう会社に求めた。
アメリカの最高裁が1973年に下した判決。それまでアメリカでは中絶は違法とされていたが、この判決により中絶は女性の権利として認められ、人工妊娠中絶を規制する州法は違憲とされるようになった。
この嘆願書には、6月27日午後の時点で300人以上の従業員が名を連ねた。Insiderが入手した請願書と署名の画像から、請願書は6月24日午前中にトラブルチケットとして提出されたことが判明した。
Insiderはアマゾンの広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。同社は5月、生殖医療のために旅行する必要のある従業員に対し、最大4000ドル(約54万円、1ドル=135円換算)の旅費を会社が負担すると発表している。
「アマゾンの発言力をもって非難せよ」
6月24日、米最高裁が中絶を全国的に合法化したロー対ウェイド判決を覆す判断を下すと、アメリカの企業数十社が、州で中絶または生殖医療を受けられなくなる従業員に対し、旅費や費用を会社が負担すると相次いで発表した。
アメリカでは、13州でいわゆるトリガー法(編集部注:連邦最高裁がロー対ウェイド判決に違憲との判断を下せば自動的に中絶を禁止する法律)が成立しており、判決直後、または数日〜数週間以内に中絶が禁止される。
アマゾンの従業員は、同社により踏み込んだ対応を求め、「アマゾンの発言力をもって最高裁の判断を公かつ明確に非難し」、会社の後ろ盾を得た抗議活動を組織して、救済と中絶のための基金に対する献金や従業員による寄付のマッチングを行うよう求めている。
同社の従業員らは、アマゾンがオンラインストアから反中絶に関する商品を削除し、リモートワークの選択肢を拡充することで中絶へのアクセスが限られた州から従業員が転居できるようにすることや、中絶を禁止している州での業務を停止することも求めている。
また、アマゾンに対し、中絶に反対する団体や政治家への寄付について再考し、反中絶の立場をとる政治家に対しては今後いっさい寄付をしないよう求めている。
アメリカのニュースレター「ポピュラー・インフォメーション(Popular Information)」によれば、2016年以降、アマゾンは共和党の各州司法長官や州指導部委員会など、反中絶の立場をとる政治委員会に97万4718ドル(約1億3000万円)を寄付してきた。
「すべての人の視点を尊重するよう」会社が喚起
ここ数年、テック企業大手の従業員らは、会社に対して声を上げる政治運動・社会運動の波に加わってきた。アマゾンの従業員も、同社の気候変動対策や倉庫作業員に対する扱い、さらには、トランスジェンダーの人々を精神障害者として描写する商品を販売するアマゾンの決定に対しても抗議の声を上げてきた。
アマゾンの人事管理部門の責任者であるベス・ガレッティ(Beth Galetti)は、社内のSlack上で中絶の権利をめぐる論争が勃発したことを受け、6月24日に従業員に対して「すべての人の視点を尊重するよう」警告したという。
ガレッティは同日の声明で、「先日の最高裁の判決を受け、多くのアマゾン関係者の間で強い感情が湧き起こっています。160万人の従業員を抱える企業として、当社のチーム内ではこの問題をめぐってさまざまな見方に分かれています。当社は、従業員の個人的な医療ニーズに対応し、支援すると同時に、すべての人の視点を尊重するよう努めています」と述べている。
(編集・常盤亜由子)