アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長。ここ数カ月、FRBがインフレ抑制のために金利を引き上げていることから、投資家は景気が後退するのではないかと懸念している。
Susan Walsh/AP Photo
- パンデミック後の景気回復により「歴史的に前例のない」状況が作り出されていると、国際決済銀行のストラテジストは述べている。
- FRBや他の中央銀行は、インフレを抑制するために短期的な経済的痛みを伴うリスクを負う必要があると述べている。
- 中央銀行があまりに早く金利を引き上げることで、景気が後退するのではないかと、投資家は懸念している。
中央銀行は可能であれば景気後退を最小限に抑えるよう努めるべきであるが、他の何よりもインフレの抑制を優先させなければならないと国際決済銀行(BIS)が主張している。
各国の中央銀行の金融政策を調整するBISのストラテジストによると、もしインフレが制御できなければ、今ですら高すぎる物価上昇率がこのまま定着してしまう恐れがあるという。
「コロナ不況とその後の景気拡大によってインフレ圧力が強まり、金融の脆弱性も高まった」とBISのストラテジストが2022年6月27日公開の年次報告書に記している。
「このような組み合わせは、これまで前例がない」
新型コロナのパンデミック時には、ロックダウンなどの規制によって個人消費、サプライチェーン、工業生産が打撃を受け、景気が減速した。しかし、規制が解除されて経済が再び動き出すと、低金利、高い財政支出、潜在的な需要のために住宅価格、株価、賃金がいずれも高騰した。
5月のインフレ率はアメリカで8.6%と4年ぶりの高水準に達し、ユーロ圏でも8.1%を記録した。これを受けて、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は75bp(ベーシスポイント)の利上げを行い、欧州中央銀行も7月に11年ぶりの利上げを予定している。
アメリカでは、FRBがあまりに速いペースで利上げを行うことで、景気後退や株価の暴落を引き起こす「ハードランディング」のシナリオになることを懸念する投資家が多い。 金融引き締めの道筋とその結果に対する不透明感が、株価のボラティリティを高めているのだ。
各国の中央銀行は、インフレ対策に注力して強硬かつ迅速に金利を引き上げるのか、それとも景気後退を防ぐためによりソフトなアプローチにするのか、それらのバランスを考えている。
「新たなインフレ環境は、リスクのバランスを変化させた」とBISのストラテジストは述べている。
「何十年もの間、中央銀行がこのような問題に直面したことはなかった」
今、行動を起こさなければ、先進国の経済は恒久的に物価が上昇することになり、将来的には強硬な利上げが必要となるだろうとBISは付け加えた。
「必要な調整を遅らせることは、特にインフレが定着した場合、さらに大規模でコストのかかる将来の政策金利の引き上げが必要になる可能性を高める」と同社のストラテジストは書いている。
FRBのジェローム・パウエル(Jerome Powell)議長は、短期的な景気後退がインフレを制御する唯一の方法となる可能性があるとし、「インフレ率を2%に下げる過程には痛みも伴うだろう」と5月に述べている。
「しかし結局のところ、一番よくないのは、その対処に失敗してインフレが定着してしまうことだ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)