担当教授だったランジェイ・グラティが新著に関したスピーチをしたあと、出席者たちはバーチャル広場で交流した。
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- 28カ国のハーバード同窓生90人が、バーチャル同窓会兼出版記念パーティーのためにメタバースに集結した。
- メタバースをめぐっては意見が割れているが、バーチャルイベントは、メタバース技術がすぐに潜在能力を発揮できる分野だ。
- イベントを企画したハーバードの卒業生ショーン・ウェストは、時間と費用の節約になり、時差ボケも避けられると話した。
2022年の今年、ハーバード・ビジネス・スクールの上級マネジメントプログラム(AMP)の2017年度卒業生たちは、毎年恒例の同窓会を、これまでとは違う会場で実施することを決めた。その会場とは、メタバースだ。
イベントの企画を本格的に始めた2021年12月時点では、移動制限とオミクロン株による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急増の影響で、実際に顔をあわせるチャンスが次にいつ訪れるかは見通せない状況だったと、イベントを企画したショーン・ウェスト(Sean West)はInsiderに語った。
従来は年に2回の会合を開いていたが、大勢でのビデオ通話にはあまり乗り気でなかったウェストは、メタバースを利用したイベントなら、実際に対面で会っているような感じを再現できるのではないかと考えたという。
28カ国の90人が、ヘッドセット「メタ・クエスト(Meta Quest)」を装着。担当教授だったランジェイ・グラティ(Ranjay Gulati)による、新著に関するスピーチを聞いたあと、近況を語りあうためにバーチャル広場へ向かった。
イベントでは、担当教授だったランジェイ・グラティが、新著に関するスピーチをおこなった。
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メタバースのコンセプトは新しいものではないし、いまだにかなり漠然とした内容にとどまっている。とはいえ、仮想現実(VR)とデジタルアバターを利用した未来のインターネットだとする見方が一般的だ。
一方で宣伝が過剰だと批判する人もいる。また、完全没入型のデジタル世界が「現実を破壊」して、ユーザーがデータを盗まれたり、別のユーザーに搾取されたりするのではないかと懸念する声もある。
だが、ウェストのような支持派は、メタバースにはショッピング、パーティー、銀行取引、就職活動、さらには不動産購入の在り方を変革する可能性があると確信している。
コロナ後の世界においては、最もすぐに威力を発揮できそうなメタバースの潜在能力は、実際に会っているような形で人々が集まれることだ。これには、コストと移動時間を削減できるというさらなる利点もある。
ウェストは、法律分野のテック系スタートアップ「ヘンス・テクノロジーズ(Hence Technologies)」の共同創業者で、VRイベントを専門とするイギリスのスタートアップ「Mesmerise」のアドバイザリーボードの一員でもある。今回の同窓会の会場は、Mesmeriseが構築してホスティングした。
ウェストにとって、普段のハーバードの同窓会には、ロンドンからの往復8時間ずつのフライトという「莫大な時間的コスト」と時差ボケ、そしておそろしくタイトなスケジュールの3、4日がつきものだった。メタバースのイベントなら、全部で90分ほどしかかからない、とウェストは言う。
「誰も、仕事を休まずに済む。ビザがとれなかったから、という理由で出られなくなる人もいない」とウェストはInsiderに話した。
「コロナの心配もない」
Mesmeriseは、90人の出席者全員にヘッドセットを郵送した。
イベントの際には、同窓生が45人ずつの2グループに分かれた。それぞれ30分の間、グラティ教授とともに過ごしたあと、「デジタル広場」へ移動して交流した。
「Zoomを使った場合には、誰かを脇へ呼んで一対一でそこだけの話をしたければ、ブレイクアウトルームを作成して相手に加わってもらわないといけない」とウェストは指摘する。
「VRでは、ただ広場へ出るだけで、他の人たちから聞かれずにすむ。現実の世界と同じだ」とウェストは付け加えた。
この技術は、まだどんなときにも使えるという段階ではないが、変化を起こす可能性はある
ビザなし、時差ぼけなし、コロナなしは、メタバースでイベントを開催することの利点の一部分だ。
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マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ(Bill Gates)は2021年に、今後2、3年のうちにほとんどのバーチャル会議がメタバースに移行する可能性があると述べていた。だが、VR技術がそのビジョンを実現するまでには、まだいくらかの道のりが残されている。
ドイツの研究チームによる最近の研究では、1週間の労働時間全体を通じて、VRで仕事をする影響の測定が試みられた。参加者18人のうち、2人は1日で脱落した。残りの人もその週の終わりまでに、普通に仕事をした週と比べて全般的に生産性の低下、不安の増加、フラストレーションの増大を感じた。問題点のひとつとして、ヘッドセットの重さと扱いにくさが指摘された。
「現在のところ、VRは常に使うツールではない」とウェストは言う。
「(VRへの)移行の重要な点として、デバイスの持ち運びやすさと価格は、どれだけ強調してもしすぎることはない」
VR未経験の人は、VRに気おくれしてしまうこともある。また、たとえば映画鑑賞のように、VRによって質が大きく低下してしまう体験もあるとウェストは話す。
とはいえ、イベントに参加したり主催したりするコストに比べれば、VRイベントに参加するためのデバイスに払う300ドルは妥当と見なせるだろうとウェストは言う。
2017年度の卒業生たちは、10月に対面での同窓会を予定しているが、ウェストに言わせれば、メタバースが主流になるのは時間の問題だという。
「インターネットがつながったばかりのころに、私の母がアマゾンで買った本をロンドンにいる私に送れるようになるよ、と誰かに言われたら、『まさか』と答えただろう。でも、誰かが立ち上がって、実現できると言ったのだ。問題は、それが5年先か、10年先か、15年先かということだ」
(翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)