アメリカのジョー・バイデン大統領とドイツのオラフ・ショルツ首相。
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- G7首脳は、ロシアの石油輸入量に上限を設けることに合意した。
- ドイツ、アメリカ、その他の国々は、天然ガスの供給を増加させても、気候に関する目標に妥協することはないと述べた。
- 環境保護団体は、G7首脳が化石燃料を段階的に削減する計画に水を差していると非難している。
2022年6月28日、ドイツでのG7サミットの閉会式で、世界で最も裕福な7つの民主主義国家のリーダーは、天然ガスの供給を強化し、地球を温暖化させる環境汚染を削減することも約束するという、気候変動対策について複雑なメッセージを送った。
G7は気候変動に関する目標を妥協することなく、ロシアのエネルギーへの依存から脱却できると述べたが、世界の指導者が一時的な解決策として天然ガスへの投資を支持したことから、気候変動対策を支持する団体は懐疑的になっている。
各国はまた、ロシアの石油輸入価格に上限を設けることに合意した。これは世界のインフレを減速させ、ウクライナでのプーチン大統領の戦争の資金源となっているエネルギー収入を弱めることを期待してのことだ。
以下に、その主な内容を紹介する。
ロシア産石油の輸入価格に上限
欧州連合(EU)とアメリカのジャネット・イエレン(Janet Yellen)財務長官は、ロシアの原油に人為的に低い価格を設定することを要求した。詳細はまだ決まっていないが、G7首脳は最終声明で「国際的なパートナーとの協議で合意された価格かそれ以下で購入しない限り、ロシアの原油や石油の取引を禁止する」ことを検討すると述べた。各国首脳は財務大臣に、上限を設定して実現する方法を検討するよう指示した。
「ロシアの石油価格を制限するために協力することで、G7とそのパートナーによって課せられた既存の制裁をさらに強化し、プーチンが彼の侵略によって生じたエネルギーコストの上昇から利益を得ることができないようにする」とイエレン財務長官は声明で述べた。
今のところ、価格上限はロシアからの天然ガス輸入には適用されない。
新しい天然ガスへの投資
ヨーロッパはロシアからの天然ガスに大きく依存しているが、プーチンはドイツ、イタリア、ポーランド、ブルガリアなどの国々への供給を削減し、価格を高騰させている。
G7首脳は、液化天然ガスへの投資はエネルギー危機への 「一時的な対応として適切」 だとしながらも、化石燃料を使用することは、世界の気候変動に関する目標を達成不可能にするかもしれないと警告した。彼らは、低炭素で再生可能な水素に対応できるインフラの整備を奨励した。
G7の声明は、クリーンエネルギーへの移行を加速させるという約束に水を差し、相反するメッセージを発していると、気候変動対策擁護団体は警鐘を鳴らした。化石燃料の新たな開発は、パリ協定が目指す産業革命以前の水準から1.5度以上気温を上昇させないことと両立しないし、水素技術の開発はまだ始まったばかりだからだ。
イタリアの気候変動シンクタンクECCOの共同設立者でエグゼクティブ・ディレクターのルカ・ベルガマスキ(Luca Bergamaschi)は、「水素が気候変動対策に役立つとすれば、さまざまな場所で生産されることになり、必ずしも現在のガス生産と同じ場所である必要はない」と、6月26日にツイートした。
批判する人々は、G7のエネルギー・気候担当大臣たちが5月に行った、炭素回収技術を伴わない化石燃料プロジェクトへの融資を年内に停止するという誓約が反故にされたとも述べている。この誓約には、海外の化石燃料に最も多く融資している日本が初めて参加していた。
Oil Change Internationalと市民団体の連合は、G7の共同声明は、少なくとも年間330億ドルの化石燃料に充てている資金をクリーンエネルギーに移行する機会を危うくする危険性があると指摘した。
また、We Mean Business Coalitionの政策担当副ディレクターであるジリアン・ネルソン(Gillian Nelson)は、G7は2035年までに電力部門の「完全または一部」脱炭素化を約束したものの、その実現方法についての議論は不十分であると指摘した。
主要な排出国や新興国は「気候クラブ」に
ドイツのオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)首相は記者会見で、気候対策が国際貿易における利点になるようにしたいと述べた。彼は、主要な排出国と新興経済国が参加できる、いわゆる気候クラブを年内に設立するよう、G7に働きかけた。その目的は、カーボン・プライシング(炭素価格)やその他の気候変動対策を通じて、環境に優しい工業製品のグローバル市場を創出し、貧しい国々のエネルギー転換のための資金を援助することにあるという。
トロント大学が運営するG7・G20研究グループのディレクター、ジョン・カートン(John Kirton)は、排出量に価格がついていない国や積極的な気候変動対策を行っていない国からの輸入に関税をかけたり、そのような国からの輸入に割り当てを課したりする炭素国境調整に重点が置かれる可能性が高いと述べた。
炭素国境関税はヨーロッパで具体化しつつあるが、炭素価格のないアメリカと日本はこのような政策に抵抗している。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)