プルーラルの創設メンバーたち。
Plural
自らを「雇用不能者(unemployable)」と称するヨーロッパのトップ創業者とエンジェル投資家のグループが、ヨーロッパ圏のアーリーステージ・スタートアップを支援する2億6500万ドル(約357億円、1ドル=135円換算)のファンド「プルーラル(Plural)」を創設した。
設立に関わったのは、フィンテック企業ワイズ(Wise)の共同創業者であるターヴェット・ヒンリクス(Taavet Hinrikus)、ビッグポイント(Bigpoint)の元CEOであるハレド・ヘロイ(Khaled Heloui)、ソングキック(Songkick)の共同創業者イアン・ホガース(Ian Hogarth)、Skypeの元経営幹部でその後テレポート(Teleport)を創業したステン・タムキヴィ(Sten Tamkivi)だ。
プルーラルの狙いは、ヨーロッパの伝統的なベンチャーキャピタル(VC)を変え、経験豊富な創業者が次世代の起業家に投資しやすくすることだ。
プルーラルによれば、ヨーロッパ圏のVCのゼネラルパートナーのうち、新規事業立ち上げの経験者はわずか8%だという。これは、VC自身が豊富な起業経験を持っていることが多いアメリカの状況とは雲泥の差だ。ヘロイはInsiderの取材に対し次のように語る。
「創業者支援やリスクをとって企業に賭ける姿勢という点で、ヨーロッパとアメリカには格段の差があります。だからといってエンジェル投資家をやめるわけじゃないけど、投資家が損失を出さないように立ち回ったり、起業家にリスクをとれと発破をかけることに時間をとられるのには、うんざりしていたんです」
プルーラルの共同創設者たちには、起業した時につくった「傷跡」がある。ヨーロッパのVCの多くは過去数年の成長期に投資してきた経験しかないため、彼らのパターン認識に合わない創業者は支援しない傾向にあるのだ。
ヘロイが例に挙げたのは、まともな起業経験も有名大学のMBAも持たずに学生向けの銀行アプリ「Mos」を創業したチュニジア人起業家、アミラ・ヤヒアウイ(Amira Yahyaoui)だ。
ヤヒアウイは母国チュニジアで社会活動家として名を挙げた後、起業を勧められた。ヘロイはいくつかのファンドを説得して、ヤヒアウイが創業したフィンテックへの支援を取り付けた。
「世の中には、パターン認識に合致しない、信じられないようなプロフィールがいくつもあるんですよ。こういうとき、僕らの頃は資金調達をするためにアメリカに行かなければならなかったけれど、ありがたいことにヨーロッパの市場も変わりつつある。十分とは言えないけれど、以前よりはよくなっています」(へロイ)
ヘロイによれば、プルーラルの活動はダイバーシティ(多様性)を最優先しているという。最初は男性4人で始めたが、近々女性やエスニックマイノリティの「雇用不能者」の投資家も加わる予定だ。ちなみに、プルーラルの創設メンバーが自らを「雇用不能者」と称するのは、従来の企業やVCで働くことを決して選ばない人間だからだという。
プルーラルは、シードラウンドからシリーズAの段階の企業を中心に、200万〜1100万ドル(約2億7000万〜14億8000万円)規模で小切手を切る予定だ。同ファンドの創設者たちは、これまでにデリバルー(Deliveroo)、ホッピン(Hopin)、ウーバー(Uber)、ゼゴー(Zego)、ボルト(Bolt)といった企業にエンジェルとして投資してきた。プルーラルは、タムキヴィが共同創業者を務めるNFTポート(NFTPort)を含め、すでに合計14件のディールをまとめている。
ヘロイは実名こそ伏せたものの、プルーラルのリミテッド・パートナーの大半は大学の基金や財団、それに何人かの創業者仲間やファミリー・オフィスで構成されているという。
また、投資家と創業者の間に「ズレ」が生じている今こそ、会社を作る側と「同じ目線に立ったことのある人」をプルーラルに加えるべき時期だとも語った。
「今の厳しい環境はしばらく続くでしょう。だから、それに対処できる人材がチームに必要なんです」
プルーラルは近く投資家の構成を10人程度にスケールさせる予定だ。気候変動、教育へのアクセス、ヘルスケアなどの分野でGDP成長を改善するべく、それぞれの投資家が年に4、5件のディールを担当するという。
(編集・常盤亜由子)