アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ、シニア・マネジャーの齋藤倫玲(さいとう・りんれい)氏。前職では食品関連のマーケティングなどを担当。2008年にアクセンチュアへ入社。サステナビリティ分野の戦略コンサルタントとして、幅広い業界を対象に事業戦略立案、新規事業開発を支援。
アクセンチュアが挑むサステナビリティ──持続可能な未来に向けて、コンサルティングファームは何ができる?
世界最大級の総合コンサルティングファーム、アクセンチュア。デジタル・テクノロジーを駆使した一気通貫のサービスで圧倒的な存在感を放っているが、サステナビリティ分野でも多くの取り組みを行っている。
アクセンチュアは、持続可能な社会の実現とビジネスの両立に向けてどんなことをしようとしているのか。サステナビリティを軸とした支援を行う2人に、コンサルティングファームが社会課題解決に取り組む意義を聞いた。
サステナビリティは「後づけ」ではいけない
NTTドコモによるカーボンニュートラル事業構想の総合コミュニケーション設計支援、クボタとのサステナブルな社会の実現に向けた戦略的パートナーシップ締結など、アクセンチュアが支援するサステナビリティ領域は幅広い。
「アクセンチュアではお客様企業にもたらす価値基準として『360°バリュー』を掲げています。
これまでの企業経営で重視されてきた売上高や利益だけでなく、組織の多様性、従業員満足度やスキルの再構築、そしてサステナビリティに配慮した組織体への変革を促していく。
そうして豊かな未来の実現や、投資家からの評価による企業価値の向上につなげていくといった全方位的なアプローチを行っています」(齋藤氏)
そう語るのは、サステナビリティ分野のコンサルティングを担当する齋藤倫玲氏だ。
「サステナビリティ」というと気候変動にフォーカスされがちだが、考えるべきテーマはそれだけではない。人権、ダイバーシティ&インクルージョンなど、SDGsが掲げるESG(環境、社会、ガバナンス)のあらゆる問題を含んでいると齋藤氏は話す。
「企業は今、地球・社会課題への貢献と事業の成長を両輪で回していくという、大変難しいかじ取りを迫られています。
アクセンチュアは、サステナビリティは『後づけ』ではなく、ビジネスの根幹に最初から組み込むべきものと考え、新時代の成長戦略としてサステナビリティ・トランスフォーメーションの実現を支援しています」(齋藤氏)
齋藤氏と同じくサステナビリティ分野を担当している杉本美樹氏は、「サステナビリティは社内で“Next Digital”と言われています。デジタル化が企業の全ての事業で必要になったように、サステナビリティも全事業で取り入れるべきです」と続ける。
「私たちは、『脱炭素転換に向けた全面支援』『サステナブルなテクノロジー活用』『サステナブルなバリューチェーンの確立』『サステナビリティに対する取り組み成果の見える化』『サステナブルなビジネス転換に向けた組織改革』『サステナビリティを体現する顧客体験の提供』といった6つの領域での支援をしています。
また、社内とお客様企業を横断して、サステナビリティに対する理解や取り組みを広めていくこともミッションの一つです」(杉本氏)
サステナビリティ領域に携わるきっかけとなった、アフリカのプロジェクト
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齋藤氏は、社内でもサステナビリティ分野のエキスパートとして知られる。サステナビリティ案件に戦略コンサルタントとして携わるきっかけとなったのは、ある食品企業のアフリカ地域における栄養改善プロジェクトだった。
「その食品会社は、アフリカの赤ちゃんや子どもたちの栄養を改善する製品を販売していたのですが、収益が成り立っていなかった。そこに対してソーシャルビジネスの文脈で事業戦略を再構築するプロジェクトでした。
私は、前職で海外駐在していた時に子供の貧困に直面したことがあり、いずれこの分野に携わりたいと思っていました。また以前より、企業が収益性だけを重視することにも疑問を持っていたため、このプロジェクトは社会貢献性の高い仕事への関心を高める大きなきっかけになりました」(齋藤氏)
その後は、小売企業のサプライチェーン改善支援や、国際協力に関するDX支援など、いくつもの社会課題を解決するプロジェクトに携わってきた。
「小売企業のサプライチェーン改革では、新興国の農場で農作物を栽培している人の労働環境の改善やフェアトレードの導入を支援。人権を尊重した新しいビジネスモデルの構築を進めています。
市場に対して影響力のある企業が、率先して人体や環境に害のある農薬を使わない栽培方法を実現し、その原材料で製品を作る。チャレンジングですが、非常に意義のあることだと思っています」(齋藤氏)
また、国際協力に関するDX支援では、途上国にデジタルを取り入れ、効率的に取り組みの成果を出すための戦略立案を担当。すでに6カ国でパイロット版を立ち上げ、地域ごとの課題を解決し始めている。
「アフリカのモーリシャス共和国では、周辺海域でサイクロンが頻発し、豪雨、高潮、洪水被害のほか、地滑りなどの自然災害の影響で、人的・経済的な被害が発生しています。
アクセンチュアでは、気象情報、衛星写真などの災害に関するデータと都市インフラ関連データ、動植物の生息データ、船舶の停泊状況を含む沿岸環境など他分野のデータを組み合わせて、防災計画の効率的な仕組みづくりを進めています。
これは、サンゴ礁などの環境保護や観光振興といった、防災・減災以外の対象領域での活用も期待されている取り組みです。
まさに、デジタル・テクノロジーのソリューション事例を多く持つアクセンチュアの強みを活かした支援だと実感しています」(齋藤氏)
仕事を通じて「何を成し遂げたい」のか?
アクセンチュア インダストリーX本部 の杉本美樹(すぎもと・みき)氏。総合商社を経て、2019年アクセンチュア中途入社。製造業のデジタル変革を支援するコンサルタントを務めた後、社会の未来をつくるコーポレート・シチズンシップ活動に従事。現在はサステナビリティ分野のチームにも所属。
杉本氏は総合商社からの転職で、当初は製造業をベースにしたコンサルタントとして、システムの刷新や導入、DX戦略の検討プロジェクトに携わっていた。しかし、コロナ禍で「自分が本来仕事を通じて実現したいことは何か?」を見つめ直す機会があり、「地球や自然環境を守り、持続可能な社会の構築に貢献したい」という想いが強くなったという。
やりたいことが明確になってからは、サステナビリティ領域に携わるさまざまな社員にコンタクトをとり、社員向けにボランティア機会を企画するコーポレート・シチズンシップ推進室のポジションに手を挙げた。
「複数のNPOと関わりながら、就労支援、地球環境へのアクション、子どもの貧困、東北の復興など、さまざまなボランティア活動を企画・実行しました。
サステナビリティ分野への参加も自分の希望です。もちろんスキルやビジネス状況にもよりますが、意思ある人にチャンスを与えてくれるのはアクセンチュアらしいところ。
配属後は、サステナビリティに関する情報共有コミュニティを企画し、事例の共有やグローバルの有識者を呼んだ勉強会などを開催。現在そのコミュニティには、800人ほどの社員が参加してくれています」(杉本氏)
脱炭素の次に着目すべきは「生物多様性」
WWFジャパンによると、過去50年で生物多様性は68%減少しているという。
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そんな2人が現在進行形で取り組んでいるのが、WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)と共同調査を行い作成している生物多様性に関するレポートだ。
「生物保護を主なミッションに掲げる国際環境保全団体の知見とアクセンチュアの知見をコラボレーションさせながら、生物多様性の分野に企業はどう取り組むべきなのか、そして取り組む際の課題は何なのかといった要諦をまとめています。今後レポートを発表予定です」(杉本氏)
すでに欧米では、生物多様性は脱炭素、気候変動に続くミッションとして捉えられ、重要なテーマになっている。
「2021年11月に開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)でも生物多様性が話題に上がりました。
現在は、脱炭素の次にやるべきこととして、現在よりも拘束力を持った施策が欧州や米国などで検討されています。
今後近いうちに何らかの形で企業側のアクションも必要になると見込んでおり、アクセンチュアとしてもそこにいち早く着手しています」(齋藤氏)
コンサルタントが社会課題に挑む意義とは?
決して簡単ではない、社会課題の解決と事業成長の両立。だからこそ「やりがいも責任も大きい」と2人は話す。
「社会課題は、機械のように一部のシステムや部品を新しく変えれば解決する、といったことはありません。企業経営の在り方、そして経済の仕組みなど社会構造を変えることが不可欠で、そこには先導者の存在が必要です。私は、コンサルタントこそ『橋渡し役』として構造・体系的な問題に挑める職業だと思っています。
加えてアクセンチュアは、抜本的な構造を変えて変革を実行することが得意な企業。各業界をリードする多くの企業と協働していて、社会変革を起こす力も大きいです。色々な人と関わるのが好きな人、自ら行動して変革を起こすタイプの人が活躍できる環境です」(杉本氏)
「サステナビリティの領域は、専門的な知識を持っている人はいても、どう収益と結びつけられるかを語れる人はまだ少ない。
本気で世の中を動かそうと思ったら、企業に収益向上と社会課題の解決を同時に実現する道筋を示さなければなりませんが、それがまさにアクセンチュアが目指すところです。
収益性を求めながら社会課題も解決していくには、ビジネス構造や製品設計の在り方といった、根本的な部分から変える必要があるでしょう。この全体構造を変えられるのは、デジタルやテクノロジーに強く、戦略から実行まで支援できるアクセンチュアだけではと思っています。今後もこれまでにないビジネスモデルを作り続けていきたいですし、そういった強い想いを持つ方と一緒に働きたいですね」(齋藤氏)