多様性をテーマにした看板メニュー「マーブリング スノウ」(右)と「マーブリング レイン」(左)。アルコール分3%のハイボールを手軽につくれるアサヒビールのリキュール「ハイボリージン 18%」ベースのオリジナルカクテルだ。
撮影:湯田陽子
お酒を「飲まない・飲めない」Z世代をターゲットにしたバー「SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー シブヤ)」が6月30日、渋谷・センター街にオープンする。
ドリンクメニューは、オリジナルカクテルが34種。それぞれにアルコール分0%、0.5%、3%の3バリエーションがあり、同じカクテルでアルコールの度数の違いを飲み比べられるセットもある。
カラフルで“映える”見た目はもちろん、「お酒に近い味のノンアルコール・低アルコール飲料」という従来の発想から一転、「ドリンクとしての美味しさ」を追求したという。
営業時間は12時〜22時まで(無休)。0%のノンアルドリンクはテイクアウトすることもできる。
飲まない・飲めない人の発想で店づくり
仕掛けたのは、アサヒビールと電通デジタルが設立した合弁会社「スマドリ」。アサヒビールが提唱する新しい“飲み”の文化「スマートドリンキング」を広めるためだ。
スマートドリンキングとは、お酒を飲む人も飲まない人も、それぞれの体質や気分、シーンに合わせてマイペースで飲める選択肢を広げ、飲み方の多様性を受容できる社会の実現を目指すこと。それを具体的に実践するため、商品・サービスの開発と環境づくりを進めている。
スマドリの梶浦瑞穂CEOは、「酔わなくても楽しめるし、人生を豊かにできる。その取り組みの第一歩だと考えている」と語った。
画像提供:SUMADORI-BAR SHIBUYA
スマドリの梶浦瑞穂CEOは6月29日の記者会見で、出店した理由をこう語っている。
「2020年12月に(アサヒビールが)スマートドリンキング宣言をして以来、さまざまな活動を行い、メディアにも取り上げられるなど一定の成果を挙げました。
今年は、消費者の方々がスマートドリンキングを実際に体験できる場を設けたいと考え、スマドリバーをオープンしました」(梶浦氏)
店づくりには、飲まない・飲めない人を対象に行った調査で得た意見を生かしたという。その一つが、スマドリバーのコンセプト「飲めない自分のままでいい。飲めても飲めなくても、みんな飲みトモ」にもつながった。
「飲まない・飲めない人はその人たちだけで集まりたいわけじゃない、飲める人も一緒に楽しめる場がほしいという意見があったんです」(梶浦氏)
飲む人・飲まない人の“垣根”を取り払うため、ノンアルだけでなくアルコール入りのドリンクも提供することにしたという。
大学生・インフルエンサーもメニュー開発に参加
とはいえ、「主役はあくまで飲まない・飲めない人」(梶浦氏)だ。
「お酒が苦手だからといって、ソフトドリンクだけじゃつまらない」「選択肢がない、少ない」といった声に着目し、飲まない・飲めない人も「選ぶ楽しさ」を体験できるよう、34種、アルコール分のパーセンテージ違いで合計100種以上のオリジナルカクテルをつくった。
開発には渋谷区を中心とする20歳以上の大学生も参加。最終的にZ世代のインフルエンサーの意見やアイデアも取り入れ、完成させたという。
100種類を超えるドリンクメニューのほか、お酒とノンアルどちらにも合うフードメニュー約20品を提供する。
画像提供:SUMADORI-BAR SHIBUYA
こだわったのはドリンクメニューだけではない。
いわゆる「酒の肴」のようなお酒に合うつまみではなく、お酒とノンアルの両方に合うフードメニューを約20品取り揃えた。また、全面ガラスから差し込む外光を生かし、「お酒で顔が赤くなっても気にならない程度の明るさ」に照明を調節、誰もが安心して過ごせる空間を演出している。
スマドリバーの店内。バーを訪れるという非日常感と安心して楽しめる雰囲気の両立を重視したという。
画像提供:SUMADORI-BAR SHIBUYA
さらに、デジタルネイティブのZ世代に対応し、客側のスマホで注文・決済できるモバイルオーダーシステムを採用。取得したデータは、店舗運営や飲めない人向けの商品開発に生かしていく考えだ。
渋谷を新しい「飲み文化」発祥の地に
今回のオープンに合わせ、スマドリは6月29日、渋谷区の外郭団体「一般社団法人渋谷未来デザイン」と共同で「渋谷スマートドリンキングプロジェクト」を発足させた。
背景にあるのは、コロナ禍以降、路上飲酒によるマナーの悪化や酩酊による迷惑行為といったお酒にまつわるトラブルの増加だ。
新しい飲み文化の普及を目指し、渋谷スマートドリンキングプロジェクトを発足。左から、スマドリCEOの梶浦氏、渋谷未来デザイン理事兼事務局長の長田新子氏、渋谷区区長の長谷部氏。
画像提供:SUMADORI-BAR SHIBUYA
プロジェクトを後援する渋谷区の長谷部健区長は、「コロナ禍が始まった当初に比べれば、路上飲酒も減って落ち着きを取り戻している」としながらも、「そうした(悪い)イメージを持たれている渋谷で、スマートな飲み方、個人のニーズに合った飲み方を発信することには大きな意義がある」と話す。
「コロナ禍に関わらず、飲酒マナーの悪さが取り沙汰される時に映像として紹介されるのが渋谷。ハロウィンの日に群衆が車をひっくり返すといった事件は象徴的でした。
渋谷区も後援という形で(プロジェクトに)関わりながら、スマドリバーを応援したいと思っています」(長谷部氏)
プロジェクトでは今後、区内にある大学や企業、地元商店街などと連携。スマートドリンキングの考えに基づいた適正飲酒の啓発セミナーや新しい飲み文化を考えるワークショップ、渋谷オリジナルカクテルの開発のほか、清掃活動やパトロールを展開していく。
(文・湯田陽子)