米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)は年初来株価下落が続くハイテク株の中でも「大型株」の一部の動向に注目しているという。
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米連邦準備制度理事会(FRB)が資産購入の段階的縮小の開始を決め、タカ派的なスタンスを見せた2021年11月以降、ハイテク株には向かい風が吹き続けている。
ハイテク株比率の高いナスダック100指数が年初来29%の下落を記録する一方、より広範な銘柄から構成されるS&P500種指数は同20%の下落となっている。
景気後退入りの可能性が現実味を帯びてきた昨今、ハイテク株の一部、とりわけ小規模で収益性の低い企業の先行きを懸念する声も上がっている。
それでも、米金融大手ゴールドマン・サックスのシニアアナリスト、エリック・シェリダンによれば、ハイテク業界の中でも特定の一部のテーマに関連する銘柄は、景気後退入りした後も高いパフォーマンスを期待できるという。
第一のテーマは「実店舗からEコマースへのシフト」。シェリダンによれば、パンデミック時の行動制限の追い風を受けた急成長期こそ過ぎ去ったものの、販売額やシェアの拡大は順調に続いている【図表1】。
【図表1】アメリカにおけるEコマースの普及拡大。成長ペースは通常に戻ったものの(赤線)、販売額、普及(浸透)率ともにハイペースの上昇を維持している。
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第二のテーマは「動画配信プラットフォームの継続的な普及拡大」。ストリーミングは消費者にとって比較的手ごろな料金でエンターテインメントを楽しめる選択肢で、レジリエントな(=逆境に負けない弾性のある)セクターだとシェリダンは評価する。
第三のテーマは「クラウドコンピューティングへの需要増大」。クラウドプロバイダーは引き合いが止まらない状況だ。シェリダンは最近の顧客向けレポート(6月14日付)でこう分析している。
「企業のパブリッククラウドへの支出は堅調を維持し、そのIT支出全体に占めるシェアも拡大を続けると考えられます。
業務効率の改善を目指す企業からは、今後もクラウドコンピューティングに熱い視線が送られるでしょう。
クラウドプロバイダー側では、ここ数年大規模な長期契約へのシフトを進めてきた成果が大量の受注残高という形で可視化され、その恩恵にあずかることになるでしょう」
これらのテーマへのエクスポージャーを取りたい投資家は、「アンプリファイ・オンライン・リテールETF」「グローバルX クラウド・コンピューティングETF」などの上場投資信託が選択肢となる。
シェリダンは自身が選好するセクターにより具体的にターゲティングする戦略をとっている。その文脈で、ハイテクセクターの大型株は中小型株より効率的に景気後退期を乗り切ることができると語る。
「当社の分析・予想対象になっている株式について、業績発表後のリスク・リワード・レシオ(=損失および利益の可能性の比率)に注目すると、最も説得力のある買い好機が到来すると考えられるのは大型株なのです。
堅調な売上高の伸び、実績と規模を兼ね備え、さらに多くの場合、投資および投資利益を現在の投資家の関心により沿う形でマネジメントする方法についても検討を重ねており、たとえ世界規模の景気後退の波が押し寄せようともおそらく乗り切る可能性が高いと思われます」
英銀大手バークレイズの株式調査部門ディレクター兼インターネット株アナリスト、マリオ・ルーも最近(6月第4週)Insiderの取材に対し、ハイテクセクターの中小規模で収益性の低い企業は、景気後退入りが差し迫るなかでより大きなリスクにさらされることになると語っている。
「旅行業界やゲームパブリッシャーの大手は収益性が高く、今後も引き続き利益を上げるでしょう。
一方、音楽配信のスポティファイ(Spotify)やオンラインフィットネスのペロトン(Peloton)らの展開するビジネスモデルが収益性を維持できるかどうかは不透明で、少なくとも前例はありません。
したがって、両社のような銘柄に対する印象、評価や株価マルチプルは他の銘柄に比べてかなり劣後する可能性が高くなります」(ルー)
ルーは7月に予定される2022年第2四半期(4〜6月)業績発表後の最も魅力的な買い銘柄として、アルファベット(Alphabet)、アマゾン(Amazon)、メタ・プラットフォーム(Meta Platforms)、ウーバー(Uber)などを挙げる。
シェリダンの投資モデルによれば、上記の銘柄にはいずれも相当なアップサイド(上振れ)の余地があり、リスク・リワード・レシオも魅力的だという。
とりわけ、ウーバーには4銘柄中最大となる80%近いアップサイドのポテンシャルがあるとシェリダンは分析する【図表2】。
【図表2】米国株インターネットセクターの2022年第1四半期(1〜3月)業績発表後のリスク・リワード・レシオに基づくマトリクス。
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シェリダンによると、アルファベット、アマゾン、メタ3社の平均バリュエーションは2008年の世界金融危機以降で最も低い水準にあり、それはつまり3社の株価がこの10数年で最も割安な水準ということでもある【図表3】。
【図表3】アルファベット、アマゾン、メタ3社の平均バリュエーションの推移(2005年以降)。事業価値(EV)/将来12カ月税引き前・利払い前・減価償却前利益(NTM GAAP EBITDA)マルチプルに基づく。ハイテク株の劇的なバリュエーション低下が見てとれる。
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また、スイス金融大手クレディ・スイス(Credit Suisse)のチーフ米国株ストラテジスト、ジョナサン・ゴラブは2022年4月(12日)の顧客向けレポートで、ハイテク株が株価の下落につれて(割安になり)その魅力を増していることに加え、市場の他の領域に比べて多様なセクターにまたがるハイテク株で年初来「何でも売り」トレンドが続いていることを指摘している。
「『ショッピングモールの小売業者は軒並み状況悪化の一途です』と言われれば、私もなるほどと思います。モールの向き合うテーマはたったひとつ、消費者(の動向)だけだからです。
ところが、ハイテク株の場合はテーマはひとつではなく、いくつもの多様なテーマがあります。だから(ハイテク株なら何でもかんでも売り一色という)現在の市場は、風呂の水と一緒に赤ちゃんまで捨ててしまう(=有用なものを不用なものと区別せずに排除する)例えと同じことをしているように見えるのです」
米市場調査会社ファンドストラト・グローバル・アドバイザーズ(Fundstrat Global Advisors)のトム・リーも6月6日の顧客向けレポートで、ハイテク株を買い戻して長期運用すべきとの見方を示している。
リーがその根拠として示したのは、過去のデータからナスダック100指数がS&P500種指数に4〜6カ月先んじて底入れすること、さらにナスダック100種のバリュエーション(その指標としての株価収益率[PER])がドットコムバブル崩壊後の2003年より低く割安であることだ。
シェリダンの選好銘柄は、先述のハイテク大型株の中ではアマゾンという。
「アマゾンは私たちの2022年トップピックで変わりありません。Eコマース、広告、クラウドコンピューティング、動画配信、消費者向けサブスクリプションなど、広範かつ長期的な成長テーマへの事業エクスポージャーを取っていることはその理由のひとつです」
シェリダンはウーバーの売上高成長率に関するコミットメントも評価する。同社は今後3~5年で売上高を20%伸ばせるとシェリダンは予測している。
メタ・プラットフォームズは2022年下半期に利益安定化を実現できる見通し。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)を中心とする同社経営陣は投資家に期待を抱かせる業績見通しを崩していない。
また、アルファベットにも利益のアップサイドを生み出す材料が複数ある。
「ユーチューブ(YouTube)部門には依然として逆風が吹いているものの、検索部門はデジタル広告分野で強力なパフォーマンスを発揮し続けており、クラウドコンピューティングやその他事業分野への投資には、2023年以降も持続的な利益の伸びを生み出すポテンシャルがあります」(シェリダン)
(翻訳・編集:川村力)