『オビ=ワン・ケノービ』より。
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- スター・ウォーズ実写ドラマ『オビ=ワン・ケノービ』は、ディズニープラス(Disney+)にとってヒット作となったようだ。
- 映画館で公開しても、大ヒットしたかもしれない。
- 『オビ=ワン・ケノービ』はもともと映画として計画されていたが、ディズニーの『スター・ウォーズ』戦略が変わった。
ディズニープラスで配信中の『オビ=ワン・ケノービ』は、6月下旬に最終話(第6話)がリリースされた。映画『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』の出来事から10年後のユアン・マクレガー演じるオビ=ワンを描いた作品だ。
『オビ=ワン・ケノービ』は知的財産に支配されたエンタメ業界で、いかに映画とテレビの境界があいまいになってきているかを示す最新の例だ。そして、『マンダロリアン』や『ボバ・フェット/The Book of Boba Fet』に続く『スター・ウォーズ』シリーズの最新作でもあり、ディズニーがいかに同シリーズを"映画館"から"配信"の時代へ導こうとしているかを象徴するものだ。
これは当初の計画とは違う。2015年の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で始まったディズニーのもともとの戦略は、年に1回、映画を1本公開するというものだった。それが"やり過ぎ"だったかどうかは判断が難しいところだが、少なくともディズニーが『オビ=ワン・ケノービ』を映画にしなかったことで、多くの興行収入を逃したことはほぼ間違いないだろう。
脚本家の1人であるスチュアート・ビーティー氏は先日、 ドラマ『オビ=ワン・ケノービ』は自身が書いた映画の脚本をベースに作られたもので、オビ=ワンを主人公とした映画3部作を売り込んだのも自分だったと明かした。映画3部作の計画は2018年に『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が公開された後、白紙になった。
ディズニー時代の『スター・ウォーズ』シリーズは、映画が公開されるたびに10億ドル以上を稼ぎ出していたが、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は振るわず、全世界興行収入は4億ドルを下回った —— そしてディズニーが赤字を出した『スター・ウォーズ』シリーズ唯一の作品となった。映画の公開直後、ディズニーの当時のCEOボブ・アイガー氏は、ファンは『スター・ウォーズ』映画の公開が「ペースダウン」すると思っていてほしいと語った。
ディズニーはこの翌年にディズニープラスを立ち上げ、その後、配信サービス向けの『スター・ウォーズ』の番組を数多く発表している。一方、劇場公開については今のところはっきりとした予定はないものの、映画を作る計画自体がゼロというわけではない。
Vanity Fairの5月の記事によると、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の監督ライアン・ジョンソン氏による映画3部作を含め、一部の計画されていたプロジェクトが保留になっているという。
ディズニープラスはディズニーにとって優先すべき重要事項であり、『スター・ウォーズ』は契約者をつなぎとめるのに必要不可欠なコンテンツだ。その加入者数は全世界で1億3800万人と、ディズニープラスは急速に成長していて、ネットフリックスと競合するまでになった。『オビ=ワン・ケノービ』はヒットしているようだ —— ニールセンの調べでは、その第1話は配信を開始した最初の週末にアメリカで10億分視聴されるなど、ディズニープラス最大のオリジナルシリーズのデビューを飾った。
ただ、オビ=ワンが主人公の映画が興行収入的に大失敗するのも想像しづらい。
『オビ=ワン・ケノービ』は大ヒット映画になった可能性も
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は"外れ値"だった。もう1つのスピンオフ作品『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は全世界で10億ドルを超える興行収入を叩き出したし、マクレガーが最後にオビ=ワンとして出演した映画『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』はアメリカだけで3億8000万ドルを記録した。
また、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では主人公のハン・ソロを別の役者が演じているが、オビ=ワンは一貫してマクレガーが演じている。ルーカスフィルムはあれ以来、人気キャラクターの配役変更には慎重になっていて、『マンダロリアン』や『ボバ・フェット/The Book of Boba Fet』のルーク・スカイウォーカーのようにディエイジング技術を使っている。
「物事を学んでいる途中には、節目となる瞬間があります」とルーカスフィルムの社長キャスリーン・ケネディ氏はVanity Fairに語っている。
「(配役変更は)すべきでないと、はっきりしました」
映画館はゆっくりとではあるものの、着実に復活へと向かっている。公開される映画の数が少なかった前の年の同じ時期に比べれば、売り上げは大幅に伸びている。ただ、興行収入はまだパンデミック前の水準には戻っておらず、Exhibitor Relationsのアナリスト、ジェフ・ボック(Jeff Bock)氏によると、6月最後の週末のアメリカの興行収入は2019年の6月最後の週末に比べて33%少なかったという。
『トップガン マーヴェリック』や『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(注:日本では7月29日公開予定)といった映画は好調で、どちらもある種のノスタルジアを誘っている —— オビ=ワンが主人公の映画が作られていれば、同じような"懐かしさ"をもたらしただろう。ところがスタジオは今でもかつてほど多くの映画を劇場公開しておらず、それが興行収入が元に戻らない大きな要因の1つになっている。映画館は今、『スター・ウォーズ』をのどから手が出るほど恋しく思っている。
そして、ドラマ『オビ=ワン・ケノービ』シリーズは人気かもしれないが、反応は分かれているようだ。映画評論サイト「ロッテン・トマト(Rotten Tomatoes)」のオーディエンス・スコアは63%だ。
ディズニーは迫力に欠ける配信ドラマを作って、シリーズの映画的なポテンシャルを低下させ、長年のファンを遠ざける危険を冒している(『ボバ・フェット/The Book of Boba Fet』のロッテン・トマトのオーディエンス・スコアは57%だ)。
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の興行収入とディズニーの配信サービスにかける熱意は、会社を別の方向へと押しやった。それでもオビ=ワンが主人公の映画が大ヒットし、復活しつつある映画館にとって待望の作品になった可能性はあった。
[原文:Disney should have stuck to its original plan for an 'Obi-Wan Kenobi' movie. Here's why it didn't.]
(翻訳、編集:山口佳美)