米小売り大手ウォルマート(Walmart)はカナダのトロント都市圏で食品即配サービスを試験的にスタートさせた。
Warmart
米小売り大手ウォルマート(Walmart)は、米フードデリバリー(食品宅配)大手インスタカート(Instacart)との国際的パートナーシップを通じてクイックデリバリー市場に参入した。
新たなサービス「ウォルマートナウ(WalmartNow)」は、6月23日にカナダのトロント都市圏でパイロットサービスとして開始され、注文を受けてから30分以内に食品や日用品などをウォルマート店舗から顧客に届ける。
ウォルマートカナダ法人の最高Eコマース責任者を務めるローラン・デュレイは次のようなコメントを発表している。
「私たちは機敏であり、決意は固く、カナダの人たちがオンラインでショッピングする方法を変えるためにここにいます。
30分以内のクイックデリバリーは、ウォルマートでの買い物をこれまで以上に速く、簡単に、より便利にすることを目指す当社の長期戦略において、画期的な実証プロジェクトとなるでしょう」
ウォルマートによれば、この新サービスはトロント都市圏全世帯の約40%を配達エリアとしてカバーしており、同社の実店舗で最も購買頻度の高い約4000種類の商品を注文することができる。
注文を受けた商品は、同都市圏にあるウォルマート10店舗のうち顧客の最寄り店舗から出荷する。
「ショッパー」と呼ばれるインスタカートの買い物代行スタッフが、ウォルマートナウで注文された商品を店頭で選び、袋詰めした上で顧客に届ける。
「インスタカートプラス(Instacart +)」の会員(会費は月額9.99ドル、年額99ドル)は、サービス利用料として購入金額の5%を支払う。配送料はかからない。
また、インスタカートプラス会員以外の利用者は、15%のサービス利用料と2.99ドルの配送料を負担する必要がある。
不確実性の高い食品即配市場の現状
食品のクイックデリバリー市場はまだ立ち上がったばかりで変動性が高く、先行きを予測するのが難しい。
ジョーカー(Jokr)、バイク(Buyk)、1520、フリッジ・ノーモア(Fridge No More)などのスタートアップはすでにクイックデリバリー事業を停止あるいは縮小した。
ゴーパフ(Gopuff)やゲッティア(Getir)は、投資家が急速な成長よりも収益確保を要求し始めたことを受け、スタッフ削減に着手した。
一方、苦闘するスタートアップ各社とは対照的に、インスタカートやドアダッシュ(DoorDash)など大手はいまむしろ投資強化に動いている。
ドアダッシュは6月22日、カナダの食品スーパー最大手ロブロー(Loblaw)とのパートナーシップを通じて、同国でクイックデリバリーサービスを開始した。
インスタカートはそれより1年以上早く、2021年5月にアメリカで30分以内のクイックデリバリーサービスを開始している。
インスタカートのサービスは「プライオリティ・デリバリー(Priority Delivery)」と呼ばれ、シカゴ、ロサンゼルス、マイアミ、サンフランシスコなど15以上の都市にある300を超える店舗から商品を宅配する。
同社は現時点ですでに、ラルフス(Ralphs)やセーフウェイ(Safeway)、スプラウツ・ファーマーズ・マーケット(Sprouts Farmers Market)などの食品スーパーチェーンと即配サービスの導入・展開で提携している。
さらに、インスタカートは2022年初頭、フロリダ州を拠点とする食品スーパー大手パブリックス(Publix)と組み、アトランタとマイアミの2都市で15分以内配達のテストにも着手している。
カナダでのEコマース苦戦が背景に
そうした即配分野における先進的な取り組みの実績を持つインスタカートとのパートナーシップは、ウォルマートのカナダでの業績拡大に貢献する可能性がある。
パンデミックによる行動制限を追い風にオンラインショッピングの普及が進むなか、ウォルマートも他社同様にEコマース事業への投資を加速させてきたが、カナダでは苦戦を強いられている。
同社カナダ法人のEコマース売上高は、2021会計年度第4四半期(2020年11月〜21年1月)に前年同期比229%と急成長を遂げたものの、2023会計年度第1四半期(2022年2〜4月)は4%の減少に転じ、テコ入れの必要性が指摘されていた。
ウォルマートとインスタカートは2018年から提携しており、インスタカートアプリで注文を受けた商品をインスタカートのショッパー(買い物代行スタッフ)がウォルマートの実店舗で購入、最短1時間で届けるサービスを行っており、その実績の上に今回の新サービス導入もあるとみられる。
また、ウォルマートはカナダで独自の店頭出荷型Eコマース(日本では「ネットスーパー」と呼ばれる)も展開していて、カナダ国内の約400店舗から当日または翌日に商品を届ける。カナダの全世帯の85%を配達エリアとしてカバーし、一部地域では最短2時間の配達サービスも行っている。
なお、ウォルマートは今回発表した新サービスを開発するにあたり、インスタカートが小売業向けに提供するEコマースソリューション「インスタカートプラットフォーム」のうち、「キャロット・ストアフロント(Carrot Storefront)」と呼ばれるコンポーネントを活用。
これはインスタカートが先述の即配サービス「プライオリティ・デリバリー」の開発に使っているソリューションと同じもので、食品だけでなくベーシックアパレル、玩具、パーソナルケア用品、家庭用掃除用品など生活必需品にも対応する。
[原文:Walmart is piloting 30-minute grocery delivery despite rapid delivery startups collapsing]
(翻訳・情報補足:田原寛、編集:川村力)