インターネットの未来はどうなっていくのだろうか。
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Web3、ブロックチェーン、メタバースを筆頭に、DAO(分散型自律組織)やNFT(非代替性トークン)、そしてその暴落にもかかわらず無限に登場する仮想通貨まで、インターネットは一夜にして別世界の様相を呈している。
こういったアイデアの熱狂的なファンは、自分たちのビジョンがより良いデジタル世界をもたらすと確信しており、何十億ドルという巨額の賭けに出ている。情報データベース会社CBインサイツによれば、メタバース業界への投資総額だけでも、10年後には1兆ドル(135兆円、1ドル=135円換算)を超えると予想されている。
一部のテック業界リーダーや愛好家たちはともかく、この混沌とした状況には、ほとんどの人が頭を抱えてしまうだろう。
大衆や政府は、一部のハイテク企業が持つ巨大すぎるパワーや、データのプライバシーやサイバーセキュリティといった問題への懸念を深めている。インターネットがいま深刻な変化を遂げようとしているという感覚に、疑念を抱く人はもはや少ないだろう。
インターネットはこれからどこへ行くのか。その問いに答えるためにはウェブの歴史、そしてそれがこれからどのように進化しうるかについて批判的に考えるための手助けが必要だ。
そこでInsiderはWeb3、ブロックチェーン、メタバースなど、インターネットの未来像を理解するのに役立つ5冊をセレクトした。これらの本は、洞察に富んでいて面白く、中にはページをめくる手が止まらなくなるようなものもある。
気になる5冊のリストは以下の通りだ。
ティム・バーナーズ=リー『Weaving the Web』(邦訳:Webの創成)
『Weaving the Web』
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インターネットがどのように進化していくかを理解するためには、それがどのように始まったかを理解することが重要だ。
『Weaving the Web: The Original Design and Ultimate Destiny of the World Wide Web』(邦訳:Webの創成——World Wide Webはいかにして生まれどこに向かうのか)は、WWWの生みの親自身が、ウェブの創世記について語った貴重な一冊だ。
著者であるイギリスの科学者バーナーズ=リーは、HTTPプロトコルから最初のウェブサイトまで、世界を変えるようなイノベーションを可能にした技術的なブレークスルーがどのように起きたのかを解説している。同時に、自身が1980年代後半に欧州原子核研究機構(CERN)でそれらを実現するために直面した障害についても語っている。
特に興味深いのは、ウェブの当初のビジョンと、それが私たちの世界をどう変えうるかについて深く考察している点だ。1999年に出版された(編注:日本では2001年出版)本書を今読むと、まるでタイムカプセルの中にいるような気分になる。それでも、現在私たちが使っているインターネットや、Web3が目指すインターネットを初期のビジョンと比較してみると興味深いものがある。
さらにバーナーズ=リーは、プライバシーに関する懸念やソフトウェア企業の力の増大など、当時のウェブの状況に対する自身の批判を詳述している。20年以上前と同じ問題が今も残っているという事実からも、インターネットを見直す動きが出てきた理由を理解できるだろう。
なお、彼はネットの中立性とデータ・プライバシーを支持する先駆者であり、自由でオープンなウェブを提唱するために2008年にワールド・ワイド・ウェブ財団(World Wide Web Foundation)も共同設立した。バーナーズ=リーは今日も、インターネットはどうあるべきか、誰のためにあるべきかという理想を形作り続けている。
ダニエル・ドレシャー『Blockchain Basics』(邦訳:徹底理解ブロックチェーン ゼロから着実にわかる次世代技術の原則)
『Blockchain Basics』
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新しいインターネットに関するビジョンの多くは、ブロックチェーンと、それが可能にする仮想通貨やNFT、スマートコントラクトなどの技術を中心に展開されている。
しかし、そもそもブロックチェーンとは一体何なのか、どのように機能するのかについては、特に技術的な知識がない人にとっては頭を悩ませるところだ。
本書の目的は、この技術を単純化し、25のステップに分解することでできるだけ理解しやすくする点にある。その試みは概ね成功していると言えるだろう。
著者であるドレシャーは、本書全体を通して、専門的な概念を分かりやすく、比喩を巧みに用いながら専門用語を使わずに説明している。ブロックチェーンの各側面を、その目的、課題、仕組みのレンズを通して見ており、何よりもその理解の過程で役立つ「図」をふんだんに盛り込んでいる。各章の最後には箇条書きの要約もあり、補足説明が読めるほか、読み返すのに便利な参考資料にもなる。
本書は情報量が多く、さながら教科書のような印象を受ける(編注:邦訳版のページ数は344ページ)。しかし、親しみやすく書かれており、テック業界で日々繰り広げられるブロックチェーンに関する議論を理解する上では十分に役立つ解説書に仕上がっている。
ワグナー・ジェームズ・アウ『The Making of Second Life』(邦訳:セカンドライフ 仮想コミュニティがビジネスを創りかえる)
『The Making of Second Life』
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マーク・ザッカーバーグのような技術系CEOは、自分たちがメタバースを創造していると主張するが、それはすでに創造されているというのが本当のところだ。
2000年代後半に広く人気を博した「セカンドライフ(Second Life)」は、人々が自分をアバターとして再現し、仮想世界でほとんど何でもできるオンラインプラットフォームだ。2013年には毎月100万人以上の「住人」を抱え、バーチャルグッズの取引で32億ドル(約4320億円)が行き交っていた。
さらに、Metaの「Horizon Worlds」のようなプラットフォームが、セカンドライフに不気味なほど似ていることは否定できない。ソーシャルメディア上でメタバースをめぐる議論になったら、両者の比較をせずして議論に終止符が打たれることはないだろう。
『The Making of Second Life: Notes From the New World』(邦訳:セカンドライフ 仮想コミュニティがビジネスを創りかえる)は、文字通り、メタバースからの発信だ。2008年に出版されたこの本は、ジャーナリストのアウが仮想世界の内部に潜入して体験した出来事についてレポートしたものだからだ。
本書の冒頭で、アウは自身を「他のアバターにインタビューし、彼らの葛藤や願望を記録するアバター」であると書いている。抗議運動や政治キャンペーンから、ブランドやメディア企業が仮想世界に飛び込む方法まで、ストーリーにはたくさんのアクションが盛り込まれている。
さらに、セカンドライフ以前の没入型オンライン体験の歴史、セカンドライフの開発、そして伝説的なバーニングマン(Burning Man)フェスティバルがどのようにセカンドライフの誕生につながったのかについても詳しく説明されている。
本書は全体として、セカンドライフ——規模ははるかに縮小したものの、20年近くたった今でも運営されている——が、文化的、政治的、経済的にどのように展開されたかが詳述されている。
カミラ・ルッソ『The Infinite Machine』(未訳)
『The Infinite Machine』
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イーサリアムのブロックチェーンは、多くのWeb3ベースの新しいインターネットのビジョンに不可欠だ。『The Infinite Machine: How an Army of Crypto Hackers is Building the Next Internet with Ethereum』(未訳:インフィニット・マシン——暗号ハッカー軍団はいかにしてイーサリアムで次のインターネットを構築しているか)は、それがどのように生まれたかを詳細に説明する、心をつかむ読み物である。
主要なコンテンツは、イーサリアムのプロトコルを開発した創設者や開発者への100以上のインタビューだ。創業者たちが交わしたメッセージや、ホワイトペーパーの抜粋も掲載され、イーサリアムのブロックチェーンを利用して、決済から資金調達、融資まで、金融システム全体を破壊しようとする人々の荒々しい息遣いが感じ取れる。
本書は、ブロックチェーンと仮想通貨について非常に楽観的なスタンスをとる著者による、楽観論者について書かれた本であることに注意が必要だ。ルッソは本書の冒頭で、なぜこれらの技術が革命的なのか、特に、少数の主体から個人の手に権力を移すことを促進できるという「夢」についても語っている。
しかし、この本が出版された2020年以降、多くのことが起こっている。一度回復したと思われたイーサリアムの価格は暴落した。その意味でも、批判的に読むことができる一冊だ。
キーロン・オハラ、ウェンディ・ホール『Four Internets』(未訳)
『Four Internets』
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新しいインターネットのビジョンの多くはWeb3やメタバースを中心に展開されているが、ウェブがどのように進化していくかを考える上では、それだけでは十分ではないだろう。
『Four Internets: Data, Geopolitics, and the Governance of Cyberspace』(未訳:4つのインターネット——データ・地政学・そしてサイバースペースの統治)では、データの流れにまつわる地政学、ガバナンス、対立するイデオロギーの影響から、ウェブの進化を考察している。
タイトルが示すように、本書では次の4つのインターネットが登場し、それらは共存していかなければならないと主張している。
- シリコンバレーのオープン・インターネット(開放性と効率的なデータフローを重んじるインターネット)
- ブリュッセルのブルジョワ・インターネット(人権と法的管理を重視した欧州連合的なインターネット)
- ワシントン商業インターネット(財産権と市場解決を重視したワシントン体制的なインターネット)
- 北京パターナリズムインターネット(中国政府によるネット検閲に代表される、干渉主義的なインターネット)
共著者はさらに、インターネットの方向性がいかに速く変化し、不確実性に満ちているかについて率直に述べている。多くのテック系リーダーは、メタバースのような新しい技術が登場し続けることは必然だと主張するが、本書の共著者2人の見解は異なっており、新鮮に感じられるだろう。実際、ホールとオハラはブロックチェーンとバーチャルリアリティの未来について完全に無視している。
(編集:野田翔)