マサチューセッツ州をベースに不動産投資を行うダナ・ブル。
Courtesy of Dana Bull
ダナ・ブル(Dana Bull)は、2011年にマサチューセッツ州立大学アマースト校を卒業後、同州セーラムの建築設計事務所に就職し、アパートを探し始めた。
「当時、不動産サイトのZillowで賃貸物件を探していたのですが、うっかり『購入』のタブをクリックしてしまったんです。全てはそこから始まりました」
ブルと当時のボーイフレンド(現在の夫)は、一旦セーラムで1ベッドルームを借りたが、その後もブルは購入可能な物件をチェックし続けた。やがて、ボーイフレンドのアンドリューの収入も合わせれば、現在の家賃と同じかそれ以下の月額ローン返済で家を買えるかもしれないと気づいた。
「当時は不景気で仕事もあまりなく、住宅市場も混乱していました。だけど私は当時22歳で扶養家族もいなかったし、大学でフルタイムの仕事をしていたこともあって、多少は貯金があったんです」
13歳からベーカリーや小売店で働き、ライティングやマーケティングの仕事も経験していたブルは、その貯金を使って2012年6月にセーラムに20万ドル(約2700万円、1ドル=135円)でマンションの一室を購入した。
10年後の現在、彼女はセーラムとボストン、そしてマーブルヘッドというボストン北部に位置する海岸沿いの町に22戸の賃貸住宅を所有している。
「この不動産ポートフォリオを“第二夫人”と呼んでいるんです。結婚生活の中で、もう一人のパートナーのように働いて家計を支えてくれているので」と、現在33歳で3児の母でもあるブルは言う。
なお、Insiderはブルの不動産所有と2021年の収入を確認した。本人の希望により具体的な不動産収入は明かせないが、28歳の時点で年間10万ドル(約1350万円)以上の収益を上げており、すでに経済的自由も手にしている。
「働くのが好きだから働いていますが、必ずしも働く必要はないんです。自分のライフスタイルに妥協することなく経済的な自由を手に入れられたことは、本当に心強いです」
彼女は現在、不動産業界でフルタイムとして働いている。不動産売買に関する資格を持ち、不動産のコンサルティングやコーチングを行う傍ら、2022年には小規模集合住宅への投資を目的とした講座も立ち上げた。また、パートタイムでテクノロジーコンサルティングも行っている。
そんなブルだが、最初は何も知らずに不動産の世界に飛び込んだという。
「投資を始めた頃は戦略もないのに、問題だけは山積みで、ただ目の前の課題に取り組みながら学んでいくしかありませんでした」
初心者だった彼女がどのように投資戦略を練り上げ、10年足らずで不動産の専門家になったのか。以下ではその道筋やノウハウを公開する。
22歳で期せずして大家デビュー
ブルは大学でマーケティングの学位を取得し、無借金で卒業した。州立校に進学したため授業料が安く、さらに奨学金を得て、学生時代にいくつかの仕事を経験していた。
卒業後は、建築設計事務所のマーケティング・ディレクターとして9カ月間働いた後、マーケティングテクノロジー会社に転職する。
「特定の仕事を長く続けるつもりはなかったので、できるだけ給料の高い会社を選んでいました。だから夢見た仕事という訳ではなく、単純に他社より報酬が高かったからという理由ですね」
高校と大学時代のアルバイトでの貯蓄に加え、フルタイム1年目で貯めた資金も投じ、ブルは2012年にセーラムに20万ドルのマンションを購入した。彼氏(現在の夫)のアンドリューも、彼女と一緒に購入に踏み切った。
「頭金は17%でした。この数字に何か根拠があった訳ではなく、なんとなくです。自分たちが何をやっているのかさえ、当時はよく分かっていませんでした」
2人はそのマンションに引っ越し、2013年まで約1年4カ月暮らした。だが、ブルはここで最初の大きな失敗を経験する。経済的に余裕があるのだから、もっといい暮らしをしようという罠にはまってしまったのだ。
「友人たちはマサチューセッツ州の中心部であるボストンに住んでいて、郊外に住む私はまるで取り残されたように感じていたんです。それで都会に出たいと思いました」
住んでいたマンションを賃貸に出し、自分たちは「豪華な高級マンション」に引っ越した。生活自体は素晴らしかったが、そのマンションの賃料は非常に高く、収入の一部を貯金に回すのは至難の業だった。結局、この生活は短期間で終わったという。
「9カ月間だけ今までにないような豪勢な暮らしをしました。それからまた、賢い貯蓄と投資を行う生活に戻ったんです」
しかしその9カ月間は、期せずしてブルに大家デビューという機会を与えた。
「まるで生まれたての子鹿ですよ。ネズミが出たり、給湯器が壊れたりしたけど、どうしたらいいのかまるで分からないんですから」
ブルは賃貸管理の複雑さを痛感しながらも、初めて受動的な収入を得た。入居者からの家賃収入で住宅ローンの支払いを完全にカバーし、さらに毎月約200ドル(約2万7000円)の利益が残った。
ブルは物件を貸してすぐ、配管工や電気技師、便利屋などの連絡先リストを作ることの重要性を学んだ。
「この仕事にはあらゆる問題に対応する専門家がいるので、その人を見極める必要があるんです。適した人を雇うためには、手を抜いてはいけないということを学びました」
目標を決めてスイッチが入った
夫のアンドリューとダナ・ブル。所有する2世帯住宅の前で撮影。
Courtesy of Dana Bull
2013年、彼女とアンドリューは、住んでいるマンションから通りを2本隔てたところにある2世帯住宅を投資用物件として購入した。それでも、当時はまだ不動産賃貸業を経済的自立への道とは考えておらず、「根本的なゲームプランなしに何となく行動していた」という。
「その物件だって、不動産業者が『この物件はお値打ちだよ』と言うのでなんとなく買っただけで、真剣に投資をしていた訳ではありませんでした。夫も私もキャリアは順調で、投資に使えるお金もあったから購入したというだけでした」
最初のマンション探しを手伝ってくれた不動産業者のマットは、やがて彼女の成功に欠かせないメンターとなった。
「今思えば、彼は私が、投資で成功するうえで必要な労働意欲や伸びしろを備えていることに気づいていたんだと思います。細かなノウハウは何から何までマットに教えてもらった訳ではありませんが、不動産投資を始めるきっかけをもらったのは確かです」
ブルが不動産投資に本腰を入れることにしたのは2014年のことだ。ある週末にアンドリューと郊外のレストランに行ったときに、今後どれくらいの額を不動産投資によって稼ぎたいかを2人で考えてみたという。
その結果、年10万ドル(約1350万円)という具体的な目標利益が出てきた。2013年に購入した物件の当時の月額賃料(1500ドル〔約20万円〕)を基に、その数字を達成するために何戸必要か、ナプキンをメモ代わりにして逆算してみたところ、21戸だった。
「途中で変更するかもしれないけど、向かうべき目標ができた訳です。それからの5年間は無我夢中で取り組みました」
ブルは本気で投資物件を探し始めた。2014年にセーラムの3世帯住宅を購入して引っ越し、2015年にはさらに2世帯住宅と3世帯住宅をポートフォリオに加えた。
また、最初に購入した区分所有マンションを売却し、利益の一部を結婚式の資金と将来の投資に回した。
もちろん、購入した物件はすぐに賃貸に出せるとは限らない。その後購入したボストンの3世帯住宅はリノベーションが必要だった。そこで2人は2013年に購入したセーラムの2世帯住宅を売却し、改修資金に充てることにした。
2016年から2018年にかけて、ブルはさらに2棟の4世帯住宅と1棟の3世帯住宅をポートフォリオに加え、合計で7棟22戸を所有するに至った。
成長を加速させる3つのポイント
ダナ・ブルとその子どもたち。2018年に家族ができて管理会社と契約するまで、ブルは22戸全てを自主管理していた。
Courtesy of Dana Bull
これだけの勢いで2人がポートフォリオを増やせた背景には、いくつかのポイントがある。
1つ目に、住居費の節約だ。ブル夫妻は購入した物件に自身も住み、家賃収入で住宅ローンをカバーし、さらに利益を得ている。ボストンの住居もリノベーションした後には最上階に入居し、他の住戸を賃貸に出した。こうして住居費を浮かせれば、その分を次の投資物件購入に向けて貯蓄できるようになる(編注:こうした手法はハウスハッキングと呼ばれ、経済的自由を目指す不動産投資家に好まれている)。
2つ目は、収入を増やすことだ。短期間でポートフォリオを広げるためには、「多くの努力と犠牲が必要だった」とブルは言う。
「仕事をするか、寝るか、食べるか、友達と遊ぶか。常にそのどれかに頭を突っ込んでいて、時間を無駄にしませんでした」
ブルは2015年に不動産取引の免許を取得し、副業で仲介業を始めた。しかも、リモートワークをすることで、テック企業2社で同時にフルタイムのマーケティングの仕事をこなすという離れ業もやってのけた。
「高収入の仕事をいろいろこなしました。子どもが生まれる前だったので、不動産業界で働き始めてからはそれほど苦労なく収入を増やせました。時間的余裕も、それを処理する能力も、未開拓の物件もありましたから」
3つ目は、最高の投資物件を見つけるために、「購入」の段階に多くの時間を費やすことだ。常に低価格帯の「ダイヤの原石」を探し、リノベーションなどを通じて物件をアップグレードしていったという。
なお、2軒目購入以降の5年間で彼女が取得した7棟は、全て集合住宅だった。その理由は、「個性があってクリエイティブになれる」からだと言う。
「どれも、エモーショナルな買い物でした。私はいつも言われるんですよ、『感情的になるな。投資なんだから』って。でもその意見には全然賛成できなくて。
この仕事を続けてこられたのは、自分が買うものに対する情熱があったからだと思います。私は『ときめき』こそが重要だという近藤麻理恵さんの考え方を、不動産投資に応用しているんです。50万〜100万ドル(約6700万〜1億3500万円)の資産を買うなんて、本当に好きじゃなきゃできませんよ」
もちろん、感情的なメリットだけでなく、財政的なメリットもある。例えば、「取得割引」だ。3世帯の集合住宅を一括で購入したほうが、マンションやアパートを別々に3部屋購入するよりも安くなる可能性が高い。3世帯住宅なら90万ドル(約1億2000万円)で済むものも、区分所有で個別に買えば合計100万ドル(約1億3500万円)は下らないだろうとブルは指摘する。
他にも、メンテナンスのことを考えると、一戸建てをいくつか所有するよりも、集合住宅を所有したほうがはるかにシンプルで安く済むこともある。
「3世帯住宅を購入すれば、仮に屋根が吹っ飛んだとしても、交換する屋根は1つだけで済むでしょう? 雪かきをしなければならない私道だって1本だし、共有廊下の手入れも1回で済みます」
その甲斐あってか、2018年に家族ができて管理会社と契約するまで、ブルは22戸全てを自主管理していた。
28歳で経済的自由を達成
夫のアンドリューとダナ・ブルはマーブルヘッドに住みながら投資を続けている。
Courtesy of Dana Bull
22戸を取得して貸し出すようになった2018年、ブルは10万ドルの目標利益を達成しただけでなく、経済的な自由を手にした。28歳の時だ。
彼女は今、不動産ポートフォリオから十分な収入を得ており、働くことは必須ではなくなった。「でもまだ働いています。プロジェクトやクライアントを引き受けるのは楽しいですから」とブルは言う。
「ただし、もし自分に対する評価に納得できなければ、そこで働き続ける必要もありません」
ブルが20代前半で不動産の世界に飛び込んだのは「全くの幸運」だったが、不動産投資は誰もが富を築くためのツールとして活用できると彼女は考えている。
これから投資を始める人へのアドバイスは、今すぐ行動を起こすこと。頭金を貯める計画を立てるなり、事前審査を受けて物件を見に行くなり、実践することが大切だ。
「どんな条件であれ、不動産にはリスクがつきものです。やめる理由ならすぐに思いつくでしょう。だけど、市場の動きを気にしすぎるあまりチャンスを逃すことほどもったいないものはない。市場にはいつだってリスクとリターンが同時に存在しているんですから。方程式の中心に置くべきは市場の状況ではなく、自分自身なのです」
※この記事は2022年7月17日初出です。