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コクヨは「文房具」を守り続ける。少子化、ペーパーレス、コロナ禍…社長に聞く生存戦略

日本の文房具が生き残る道は。コクヨの黒田社長に生存戦略を聞いた。

日本の文房具が生き残る道は。コクヨの黒田社長に生存戦略を聞いた。

撮影:小林優多郎

3年後に創業120年を迎える文具・家具メーカーのコクヨ。日本を代表する伝統企業ですが、少子化やペーパーレス化で文具事業は創業以来の試練に直面しています。

一方で、コロナ禍を経た学習環境の変化を見据え、ノートを電子化できる勉強用アプリや文具にIoTをかけ合わせた子どものやる気を引き出す文具を考案。話題となっています。

この先、どんな戦略で祖業のステーショナリー(文房具)事業を運営していくのでしょうか。

コクヨ5代目社長の黒田英邦氏は「お客さまの課題解決になる付加価値を考えることが大切」「規模を拡大するのではなく、イノベーションと効率化を目指す」と語ります。

厳しさ増す文具市場、事業継続のカギは「顧客の課題解決」にあり。

黒田英邦(くろだ・ひでくに):1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て2015年より現職。曽祖父はコクヨ創業者の黒田善太郎氏。 撮影:小林優多郎

黒田英邦(くろだ・ひでくに):1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て2015年より現職。曽祖父はコクヨ創業者の黒田善太郎氏。

撮影:小林優多郎

──コロナ禍でオフィスの改装需要が高まり、2021年12月期の連結決算は増収増益と好調です。一方で、ステーショナリー事業への影響はどうでしょうか。

ステーショナリー事業はコクヨの祖業ではあるのですが、売上高でみると21.2%。文具の国内シェアでは最大規模ですがコロナ禍の前から厳しい市場環境でした。

売上割合でみると6〜7割がオフィス向けの事務用品で、みなさまに親しまれている「キャンパスノート」のようなB to C向けは3割程度になります

オフィス向け文房具は消耗品としてご購入いただく傾向が強い。つまり、カタログの中から「今はどれが安いか。今は何がお得か」という観点で選ばれやすいんですね。

メーカーブランドの商品よりも、比較的低価格なプライベートブランドの商品が購入されやすくなる。

──なるほど。付加価値の商品が提案しにくい分野ではありますね。

私たちのようなメーカーとお客様の接点が弱くなってきている一方、流通まで握る企業さんとお客様の接点が強くなっています。品揃えを無数に用意するコクヨのようなメーカー・ブランドには厳しい環境です。

そこで、この10年ほどはB to Bの売り上げ低下をB to C分野でカバーしようと取り組んできました。

ペーパーレス化や少子化が進む中、コンシューマー向けの商品では「とにかく頑張って新製品を出す」よりも、時代に合った新しい付加価値をつけることで、お客様の課題解決やワークスタイルに良い影響が出せるようにチャレンジを続けています。

東大合格者のノートをヒントに開発したドット入り罫線が入ったキャンパスノート、手にあたっても痛くない樹脂のリングを使ったソフトリングノート、狭い机の上でも使いやすい横長のノート、プリントを貼ってもはみ出ない大きさのノートなどが代表的です。

狭い机の上でも使いやすい横長のノート(上)、手にあたっても痛くない樹脂のリングを使ったソフトリングノート(下)

狭い机の上でも使いやすい横長のノート(上)、手にあたっても痛くない樹脂のリングを使ったソフトリングノート(下)。

撮影:小林優多郎

──ただ、そこへきて今回のコロナ禍だった。

伝票や帳簿などを使っていただいているお店は休業し、学校の休校も相次ぎました。

B to BからB to Cへ、そこからさらに付加価値の高いものにシフトしよう……というタイミングで水を差されたというのが正直なところではあります。

ただ、ステーショナリー事業は祖業ですし、昔からお使い頂いている汎用的な商品を捨てることはありません。

例えば「文房具」という大雑把な枠組みではなく、勉強のシーンや暮らしのシーンのための道具として「何がお客さんの課題解決になるのか」という観点を貫いています。

キャンパスノートをはじめ、お客様に長年ご愛顧いただいているシェアの高い商品はあります。

規模を拡大するよりも、イノベーションと効率化を図って事業を継続していく方向で考えています。実際、2019年度と比較して2021年度は営業利益率も改善しました。

2万本売れた「しゅくだいやる気ペン」 IoT文具に活路

撮影:小林優多郎

──最近では、コクヨ初のIoT文具である「しゅくだいやる気ペン」が2万本を超えるヒットを記録しました。今後もデジタル領域での文具開発は進めていきますか。

もちろんです。ただ、私たちはあくまで文具メーカーであってテクノロジー企業ではありません。私たちが全く新しい技術をつくることはなかなか難しい。

IoTの専門メーカーとしてガジェットをつくっていくよりは、デジタルデバイスを使った「勉強の仕方」がこれからどうなっていくのかを考え、そこでどんなニーズがあるのかを踏まえた文具を考える方向性が良いと思っています。

「しゅくだいやる気ペン」もデバイス部分ではパートナー企業さんと一緒に開発しています。

私たちとしては、最先端の技術開発よりは親子のコミュニケーションが増えたり、親のストレスが減ったり、子どもの学習習慣につながる……といった用途の商品開発が重要かなと思っています。

既存の文具にデジタルをかけ合わせることで新しい用途や効果を導き出すところにフォーカスしています。

撮影:小林優多郎

──1月末にはノートを電子化できるアプリ「Carry Campus」が発表されました。

コロナ禍もあって、子どもの学習環境は目まぐるしく変化しています。新しい勉強の仕方が日々生まれています。

先日、夕方にファーストフードのお店に行ったんですが、学生さんがスマホで授業動画を見ながら勉強していたんです。

「よくこんな小っちゃい画面で勉強できるなぁ」と思ったのですが、スマホならいつでもどこでも見られる。私たちの時代とは違い、スマホを使って勉強することが今の中高生には一般的になってきているんですね。

2021年は自分の勉強ノートを公開・共有できるアプリ「Clear」の運営会社も買収し、知見を得ています。

パソコンよりもスマホのほうが便利な部分もある。スマホを使うことで学習の効率化につながる。だからこそみなさん使っている。そういう勉強のやり方の変化を私たちは捉えなければいけません。

お客様のニーズを形にすることは、これまでコクヨが得意としてきたことです。

その観点を活かせばIoTの文具もつくれるだろうし、デジタルの勉強のサービスもつくれるんじゃないかと思いながらやっています。これからどんどんおもしろくなる分野だと思いますね。

──新しい勉強の仕方やニーズを取り込んだサービスや商品を生み出す取り組みはこれからも進めていく。

しゅくだいやる気ペンもCarry Campusも、アナログの体験価値とデジタルをかけ合わせることで、新しい学び方を生み出すものです。お客様にコクヨの商品を使っていただく価値をさらに拡張していくことを目指していきます。

その一方で、ニーズがないものを無理やりつくって売るようなことはしません。そこはブレないようにしたいです。

見切り発車の商品でも「コクヨ」の名前を付ければ一定数は売れるかもしれません。でも、お客様から長く愛されるかっていうと、それは別の話です。

歴代の社長は「量が売れてるときこそ品質にこだわりなさい」「同じ人が同じものを2回買ってくれて、初めて売れたと思いなさい」という言葉を残しています。

コクヨの根底にあった「お客さんの役に立たなければダメなんだ」という企業文化や、「付加価値が高い商品やサービスこそお客様の役に立つものだ」という共通認識で仕事をすることが求められいると感じます。

国内環境が厳しい一方、グローバルで見ると日本の文房具はユニークかつ高品質なことから需要は高い。まだまだグローバルではコンシューマー向けのステーショナリーを展開できる余地はたくさんあるんじゃないかなと。

中国、インドで「ローカライズ」による持続的成長を狙う

撮影:小林優多郎

──B to Cの海外展開では中国やインドに注力していますね。

中国でのステーショナリー事業が成功しています。国内とは全く別のラインナップでローカライズを図り、現地の学生さんに人気のカラフルな商品が好評です。

インドでは2011年に現地の老舗メーカー「カムリン社」を買収しました。このメーカーは学童向けの文具、画材、事務用品など学校向けの商品がとても強い。

現地の方に「子どもの時にカムリンの文具を使いましたか?」と聞くと6〜7割の人が「使っていた」と話すぐらい国民的なメーカーです。

インドは市場自体も伸びていますが、カムリン社の知見と販売ネットワーク、そこに私たちのステーショナリーのノウハウが加わることでさらに持続的な成長を見込んでいます。

ただ、ここまで来るのにも苦労はありました。アジアでの事業は10年ぐらいやってきましたが、お客様の嗜好も違いますし、学校では授業の方法やノートの使い方が日本とは異なります。求められるサイズ感も違います。

日本でつくったものをそのまま持っていけばいいとは限らない。それだけではお客様に認知してもらえない。デザイン、サイズ、価格とあらゆる面でローカライズが求められるんですね。

今まではその国々でローカライズのニーズを探してビジネスを進めて来ましたが、日本ならではのユニークな文房具を、いかに海外のみなさんに紹介していけるのか。そちらのビジネスにも取り組んでいきたいなって思ってます。

──コクヨは同業他社「ぺんてる」の筆頭株主でもあります。得意分野で協力して海外展開を強化する構想があったと思いますが、現状はいかがでしょうか。

当初構想通り、紙に強みがあるコクヨ、ペンやクレヨンなど「書く」ものに強みのある「ぺんてる」とのシナジーを目指しています。

ぺんてるは海外比率も高く、コロナの影響を受けて厳しい状況ではありますが、引き続き株主としての役割を果たすと共に、互いにwin-winになるようなテーマがあれば是非とも検討したいと考えています。

(続く)

(取材、文・吉川慧

黒田英邦(くろだ・ひでくに):1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て2015年より現職。曽祖父は創業者の黒田善太郎氏。

コクヨ:1905年、当時26歳の黒田善太郎氏が創業した和式帳簿の表紙製造業「黒田表紙店」がルーツ。1917年に社名を「国誉(こくよ)」に変更。「国」は善太郎氏の故郷の富山を意味し、善太郎氏の「国の光、誉れになる」という初心が社名の由来。代表的商品「キャンパスノート」は1975年発売開始。これまでにシリーズ累計で約34億冊を販売。2021年度12月期の連結決算は売上高3201億円、純利益137億円、営業利益200億円。連結従業員は6825名(2021年12月末時点)。
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