ドイツ・ベルリンのディスカウントスーパーの買い物客。2022年6月15日撮影。
Sean Gallup/Getty Images
- インフレの嵐が吹き荒れている。これはアメリカだけの話ではない。
- ウクライナへの侵攻とサプライチェーンの混乱が世界中の物価を引き上げている。
- 各国の中央銀行もアメリカ連邦準備制度理事会の利上げに呼応し、インフレを抑えようと奮闘している。
COVID-19は地域的な流行として始まり、その後、世界的なパンデミックへと拡大した。インフレも同じような傾向にある。
アメリカ人は何の支払いの際にもうんざりしている。ガソリン価格は過去最高に近い額から下がることはなく、食費は高騰し、住宅価格は月ごとに高くなっている。議員(特に共和党)は、インフレが41年ぶりの高水準に達しているとアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)を非難し、中央銀行による利上げはもっと早く開始されるべきだったと主張している。
しかし、この問題はアメリカに限ったことではない。世界経済がさまざまな圧力にさらされる中、インフレ率は世界各国で歴史的な高水準にある。2022年5月の消費者物価指数は、欧州連合(EU)でも前年同月比で約8.1%上昇しており、アメリカの8.6%をわずかに下回る程度だ。イギリスにおける物価指数の上昇率はさらに大きく、9.1%に達した。何十年にもわたって物価上昇が停滞している日本でさえ、通常よりも高いインフレ率に耐えている。
インフレ率が各国で上昇しているのは、物価上昇を促す世界的な圧力によるところが大きい。ロシアのウクライナ侵攻は最も強力な要因のひとつだ。この紛争によって、天然ガス、石油、穀物、肥料などの価格が瞬く間に上昇した。その後の対ロシア制裁は世界的な流通をさらに妨げ、物価をいっそう上昇させた。
物価上昇の打撃は、いくつかの分野に影響を及ぼしている。エネルギー価格の高騰により航空運賃が大幅に上昇し、穀物価格の高騰により食料品店が負担するコストが引き上げられている。さらに肥料価格の高騰により将来にわたって食料品のインフレが高止まりする可能性がある。石油や天然ガスの価格高騰も製造や輸送のコストを押し上げ、消費者をさらに苦しめることにつながっている。
イギリスやEU諸国はロシアのエネルギーへの依存度が高いため、アメリカよりも大きな影響を受けている。また、先進国よりも貧しい国の方がコストの上昇を負担する力が弱いため、食品価格の上昇の影響をより大きく受けると思われる。
インフレの要因のひとつであるサプライチェーンの混乱も、国際的な問題だ。これが最初に表面化したのは、2021年半ばに半導体、電池、医薬品の不足がさまざまな生産ラインを襲ったときだった。その秋には新型コロナウイルスの変異株の影響で中国の工場が閉鎖され、混乱はさらに激化した。ホリデーシーズンの需要が高まる時期に重要な製造拠点が閉鎖されたことで、流通がますます混乱してインフレが加速した。
「我々は何を間違ったのか。それは供給側の問題を見て、比較的早く解決されると信じたことだ」とアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル(Jerome Powell )議長は2022年6月29日に開催された欧州中央銀行(ECB)のフォーラムで述べた。
アメリカでは、サプライチェーンの圧迫が、港湾でのコンテナ船の滞留、トラック運転手の不足、在庫切れの警告の増加となって表れた。他の国々も同様の影響を受けている。ヨーロッパも港湾の混雑と輸送の遅れに悩まされた。船舶用燃料の高騰は世界中で輸送コストを押し上げ、コンテナ不足は中国、EU、オーストラリアでの貿易にも支障をきたした。
ECBのクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)総裁は、29日のフォーラムで「低インフレの環境には戻ることはないだろう」と述べた。
インフレを促進するいくつかの要因には、アメリカ特有のものがある。数十年にわたる合併により、企業は増大するコストを消費者に転嫁する能力を強化してきた。そのことが、2021年に記録的な値上げを行い、過去最高の収益をあげることにつながったとルーズベルト研究所が分析している。
新型コロナのパンデミック初期には、各国が経済刺激策を実施したが、特にアメリカは寛大な救済措置を講じた。この措置によって景気回復は加速したものの、需給ギャップが拡大したと考えられる。
しかし、他の国でもそれぞれ問題が発生し、インフレ率を上昇させた。ピーターソン国際経済研究所の論文によると、イギリスはEUから離脱したことで、パンデミック以前に主要な貿易相手国との関係が途切れており、他のヨーロッパの国々よりも高いインフレ率に悩まされることになったという。一方、日本は数年にわたるマイナス金利の影響で、インフレの打撃を受けやすい経済状態になっている。
アメリカでは高騰するインフレへの対応で、FRBが非難を浴び続けているが、各国の中央銀行も同様な措置を講じている。ECBは高騰する物価を抑えるため、7月21日に予定されている会合で2011年以来となる政策金利引き上げを行う構えだ。イギリスの中央銀行にあたるイングランド銀行は6月16日に政策金利を0.25%引き上げ、5年連続の利上げを達成した。カナダの中央銀行は6月1日に2年連続となる0.5%の利上げを承認し、インフレが減速する兆しがなければ「より力強く行動する」と述べた。
物価上昇の問題は世界的なものであり、それに対する戦いもまた世界的なものである。
[原文:Every country around the world is trying to tackle inflation. It's not working anywhere.]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)