スクールバスで生活をしているニック・クロッカーさん。婚約者と。
Nick Crocker
- アメリカのオレゴン州ポートランド在住のニック・クロッカーさん(37)は、婚約者と一緒に作った"スクールバスの家"で生活をしている。
- その主な理由は10万8100ドル(約1470万円)の学生ローンだ。
- 学生時代の借金は自分にとって「最大の後悔」だと語るクロッカーさんは、専門学校に進めばよかったと考えている。
ニック・クロッカーさんは高騰する家賃に対する解決策を見つけた —— スクールバスに引っ越すことだ。それでも10万8100ドルの学生ローンはクロッカーさんの足を引っ張り続けている。
現在37歳のクロッカーさんがインディアナ大学公共環境学部へ進学した時、自分が2008年の不況の最中に卒業することになるとは思ってもみなかった。学士号を使って就職することはできず、卒業直後にペンシルベニア州へ引っ越して、2つの仕事を掛け持ちすることになった。サンドイッチ・チェーン「ジミー・ジョーンズ」とカジュアルなレストラン・チェーン「オリーブ・ガーデン」の仕事だった。
その頃は月540ドル(約7万3000円)の学生ローンの返済を続けることができていた。ただ、返済プランが切り替わって、月の返済額が1089ドル(約14万8000円)に倍増すると、クロッカーさんには期間を延長して毎月返す額を抑える選択肢しかなかった。何か手を打たなければならないとクロッカーさんは考えた。
「収入の半分を家賃に費やし、全く貯金ができない状況に疲れてしまったんです」とクロッカーさんはInsiderに語った。
「それでスクールバスの家を作ることにしました」
スクールバスの中の様子。
Nick Crocker
2018年10月からクロッカーさんと婚約者は広さ120平方フィート(約11平方メートル)のスクールバスで生活をしている。リノベーションには2万5000ドル(約340万円)かけた。また、オレゴン州ポートランドで裏庭の駐車スペースを借りるのに、毎月550ドル(約7万5000円)ほど払っている。こうして住居費を抑えることはできたものの、生活必需品や学生ローンの返済をまかなえるだけの十分な収入が得られず、返済が滞ったこともあるという。
アメリカでは、バイデン政権が連邦政府の学生ローンの減免を検討している。直近の報道では、年収15万ドル(約2030万円)以下の借り手1人当たり1万ドル(約140万円)の返済を減免する大統領令を考えていると言い、7月または8月に発表される見込みだ。8月末には新型コロナウイスル感染症(COVID-19)のパンデミック対応で導入した学生ローンの返済一時停止措置が失効する。
クロッカーさんの学生ローンは大部分が民間融資のため、バイデン大統領の救済措置からほとんど恩恵を受けず、それは民間の学生ローンを抱えている約300万人の借り手も同じだ。クロッカーさんは自分が高校生の時に、大学進学がここまで高くつくことを知っていれば、今の状況を避けられたかもしれないと考えている。
「大学進学は物事を学ぶのにとても良い方法でしたが、わたしにとってはあまりにも高くつきました」とクロッカーさんは話している。
「今だったら大学には行きません。専門学校に進んだでしょう。学生ローンは間違いなくわたしにとって最大の後悔です。18歳に借りさせるには金額が大き過ぎます」
「抜け出すことはできない」
クロッカーさんの学生ローンの大部分が民間融資なのは、高校時代に連邦政府の学生ローンを申し込もうとした際、両親の収入が多いために限定的な融資しか受けられないと分かったからだ。それでもクロッカーさんにはお金が必要だった。費用の一部を自分で負担しなければならなかったからだ。そして民間の学生ローンならすぐに借りることができた —— ところがその後、民間ローンの利息は高く、最初に借りた元金がなかなか減らないことが分かった。
「ここから抜け出すことはできませんでした」
「月に540ドルは利息を払っているだけだったので、どこかの時点で抜け出せなくなるんです」
月々の返済が滞り始める前までは、クロッカーさんの信用スコアはとても高かったという。2015年にローン会社が月々の返済額を上げると、食料品店の仕事から得られる収入は差し押さえられてしまったので、クロッカーさんは副業として大工仕事やその他の仕事を始めた。
現在、旅行用のバンを作ることでポートランドで1時間あたり25ドル(約3400円)を稼いでいるクロッカーさんは、長い目で見れば今のような生活は続かないと分かっていると語った。いつかは高い家賃や学生ローンの返済とも向き合わなければならない。
Insiderでも報じたように、アメリカの平均家賃は月に1722ドル(約23万3000円)まで上がっていて、これはアメリカ人の平均所得の30%以上にあたる。アメリカの消費者債務として一番大きいのは住宅ローン債務だが、そのすぐ次に来るのは学生ローン債務で4000万人以上が合計で1兆7000億ドルを借りている。ただ、連邦政府の学生ローンは教育省が監督している一方で、民間の学生ローンはそうではない —— だからこそ、教育省は民間の金融業者が学生を負担しきれないようなローンに誘導しないようにするための措置を取っている。
教育省の連邦学資援助局は3月、高額な手数料がかかる民間の学生ローンのリスクについて、大学側が学生にきちんとした情報を提供するための要件を挙げ、学生ローンが学生にとって大学の費用をどうまかなうか考える際の「これ以上ないほど大きな賭け」になっているとブログポストに書いている。
クロッカーさんはスクールバスで生活することで「今は節約生活をしている」ものの、使えもしない学位のために学生ローンを組むより専門学校に行った方が良かったと話している。
「家も買いたいですが… 今は買い時ではないですね。わたしたちは広さ120平方フィートのスクールバスに住んでいて、節約するにはとても良い方法ですが、窮屈です。もう少し広いところに住みたいです」
(翻訳、編集:山口佳美)