最大100万円のポイントもらえる、参院選・投票率向上プロジェクト。真の狙いは「出口調査のデジタル化」

JX通信

JX通信社代表取締役の米重克洋氏(左)と同社の衛藤健氏(右)。「選挙でポイ活祭」キャンペーンの狙いについて聞いた。

撮影:吉川慧

SNSや選挙の情勢調査をもとに新しい選挙報道を続けるJX通信社が、今夏の参院選で新しい試みを始めた。選挙で投票すると、AmazonやPayPayなどで使える「最大100万円分のポイント」が抽選で当たるという企画。題して「投票率アゲアゲ↑↑選挙でポイ活祭」だ。

投票済証を提示することで商品の割引を受けられる「選挙割」は過去にもあったが、金券のように使えるポイントがもらえるプロジェクトは珍しい。

主に若年層の投票率向上を目指すための企画だが、真の狙いはこれまで人手に頼っていた「投票結果の調査」をデジタル化することにあるとJX通信社代表取締役の米重克洋氏は語る。

詳しい話を米重氏とキャンペーンを立案した同社の衛藤健氏に聞いた。

JX通信社:2008年創業。社員の半数近くをエンジニアが占め、記者はいない。SNSをはじめとした、ビッグデータ上の情報をAIが瞬時に分析することで、災害・事件事故の発生を察知するサービス「FASTALERT(ファストアラート)」を開発。NHK、民放の全在京キー局、全国紙など数多くの報道機関が採用している。ニュースアプリ「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」も運用。500万ダウンロードを突破した。

「開始から1週間で数千人が応募」

キャンペーンの参加画面

キャンペーンの参加画面。参加するには、投票したことを証明する写真とアンケートへの回答が必要になる。

News Digestより(※一部画像を加工しています)

有権者がキャンペーンに参加するには、投票後に受領できる投票済証を受け取ることが必要だ。証明書を発行していない投票所では、投票所の看板など「投票に行ったことがわかる写真」を撮影しておく。

その上で、JX通信社が運営するニュースアプリ「NewsDigest」をダウンロード。アプリ画面の下部「情報提供」タブから投票済証などの写真をアップロードし、「どの候補・政党に投票したのか」など簡単なアンケートに答えるとポイントがもらえる抽選に参加できる。

ハズレはなく、「50円~100万円分のポイント」がもらえる。ただし、交換は3000ポイント(300円分)から可能となっている。当選時に300ポイントに満たない場合は、アプリ上で天気や道路情報など身近な情報を投稿する「情報提供ポイント制度」でポイントを積み増しすることで交換できるようになる。

ポイントはデジコ経由でAmazonギフト券やAppleギフトカード、PayPayポイントなど任意のポイントで受け取れる。

キャンペーンには7月10日の投票日だけでなく、期日前投票でも参加可能。JX通信社によると6月23日からの1週間で「数千人」が応募したという。

「当選額はランダムで決まるように設定していますが、すでに1万円分超のポイントが当たった『高額当選者』が複数出ています」(衛藤氏)

結果としてポイントがもらえる形をとっているが、投票が済んだ人がアンケートで投票先を答える──。お気づきの方もいるかもしれない。これは新しい形の「出口調査」とも言える。その意義について、米重氏はこう語る。

「アプリによる大規模な出口調査は、日本では初めての取り組みです。参加者がどこまで増えるかは未知数ですが、目標は大まかですが『数十万人』としています。参加者が増えれば私たちの支出は増えますが、投票所にスタッフを派遣する従来の出口調査と比べても運用コストがあまり変わらないよう設計しています」(米重氏)

人手頼みの「情勢調査」に新風

投票のイメージ写真

JX通信では今回の参院選で始めた、アプリを使用した初めての「出口調査」に乗り出した。2021年10月の衆院選で撮影。

REUTERS/Issei Kato

労働集約型のメディア業界に新しい風を吹き込む──。

「記者のいない通信社」として知られるJX通信は社員の約半数がエンジニアで、テクノロジーの力で新しいニュースの在り方を提案する、珍しい立ち位置の通信社だ。

SNSなどのビッグデータをAIが判別し、情報提供するサービス「FASTALERT」で知られるJX通信は、選挙の情勢調査にも新しい手法を取り入れ、低コスト化を進めてきた。

従来の情勢調査では、コールセンターにオペレーターを集め、有権者に電話をかけるのが一般的だった。一方、JX通信はランダムに発生させた電話番号に、自動音声が電話する方法を採用したり、インターネット調査も導入したりしている。

「コロナ禍で人手の確保が難しくなり、情勢調査のコストはさらに上がっています。出口調査はこれまで大手の各メディアが自社で実施していましたが、2021年の衆院選では複数社が相乗りするパターンも出始めました」(米重氏)

ただ、情勢調査の数が減れば、それだけ選挙に関するデータが減ることになる。米重氏は「データの減少は有権者の『知る権利』にも影響する」と指摘する。

「最近の地方選挙では、NHKだけしか出口調査をしていない選挙も増えています。そうすると選挙情勢や投票結果の分析を知りたくても、NHKのニュースを待つしかない。それは有権者にとってはマイナスです」(米重氏)

今回のアプリによる出口調査で、選挙報道の課題解消につなげたいと米重氏は語る。

投票率低い20代~40代に訴求狙う

JX通信社での写真

今回のキャンペーンは、JT通信社のZ世代の若手社員が主導している。

提供:JX通信社

参院選でのキャンペーンを実施するため、JX通信社では着々と準備を進めてきた。

2022年4月には「NewsDigest」の利用者が事故や道路状況、天気や地震などについて、位置情報とともにアプリから写真や動画をアップロードすると、ポイントを付与するサービスを開始。参院選の投票キャンペーンでも、この仕組みが生かされている。

アプリによる出口調査は、投票率の低さが指摘されがちな若年層に選挙への興味を持ってもらえるきっかけになることも期待している。

NewsDigestのユーザーは20代から40代が多く、この年齢層は投票率が低い年代とも重なります。それに、アプリでの出口調査は回答も簡単。Twitter上では、このキャンペーンに参加するために投票したという声もあり、手応えを感じています」(衛藤氏)

JXhyou

選挙の投票率は年齢が上がるほど高くなる傾向がある。

出典:総務省

米重氏もこう語る。

たとえポイント目当ての投票であっても、投票に行かないよりはずっといいと考えています。誰かが損をするわけでもないので、ネガティブな反応はほぼありません。

選挙に関心を持つきっかけは就職、結婚、出産などのライフイベントがきっかけになることが多い。10代・20代など若い世代が選挙に興味を持つ機会はどうしても少ない。なので、今回のような外発的な動機付けでも、選挙に関心を持ってもらうことには価値があると考えています。たった1社でやっていることなので、影響力は限られたものではありますが……」(米重氏)

「コストも質もインパクトのある調査に」

米重さんの写真

JX通信社の米重氏。

撮影:吉川慧

今回集めたデータをどう活用していくのか。それこそがJX通信社にとって「腕の見せ所」だという。

インターネットや自動音声電話による情勢調査では、過去のデータと合わせて分析することで、より実際の投票行動に近い予想ができるモデルが完成している。

一方、今回はアプリによる初の出口調査。実際の投票や従来の人手による出口調査と、どの程度の差が出るかは未知数だ。

「アプリ利用者は若い人が多いので、若年層のデータのウェイトを減らすなど、偏りを補正して分析する必要があると考えています」(米重氏)

出口調査のデータは、回答者の年齢や性別、支持政党や実際に投票した政党や候補などを複合的に分析できる点に意味がある。例えば「30代女性が関心を持っている政策」などを抽出するなど、それぞれの有権者の大まかな問題意識を政治に伝えられる意義がある。

そうした社会的な意義だけでなく、JX通信社ではアプリによる出口調査の手法を、報道機関へのビジネス提案にもつなげることを視野に入れる。

「調査費用は報道機関が、『調査コストとして許容できる額』になるように設計しています。将来的にはリアルタイムで更新される情勢調査として、価値のあるデータを提供できるようになると思います。

今回のアプリ出口調査は実験的な立ち位置ですが、コスト的にも調査の質としてもインパクトのある調査になるはずです」(米重氏)

(取材:吉川慧、横山耕太郎、文:横山耕太郎

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