食品ロス削減EC「クラダシ」。賞味期限の近い食品などを安価で買えるECサイトだ。
撮影:西山里緒
食品ロス削減を目指すサービスを運営するクラダシは7月6日、ロート製薬や博報堂DYベンチャーズが運営するCVCファンドなどから6.5億円の資金調達を実施したと発表した。
2014年に創業した同社は、賞味期限の近い食品などが「平均して定価の65%オフ程度で買える」(広報担当者)というECサービスを運営する。コロナ禍での「おうち需要」の追い風も受けて売り上げが伸長し、2021年6月期は前年同期比123%増の約13億円に達している。
9000億円に上る「食品ロス市場」狙う
日本人は全員、約113グラム(おにぎり1個分)の食べ物を毎日捨てている ── 。
消費者庁のデータによると、日本の食品ロス(=本来食べられるのに捨てられる食品)量は年間522万トン(2020年推計)。
これを1日分・1人当たりに直すと、おにぎり1個分になる計算だ。
このうち53%に当たる275万トンが「事業系食品ロス」と呼ばれる、規格外品や売れ残り、返品などによって生まれるロスだ(残りが食べ残しなどの「家庭系食品ロス」)。
日本の食品ロスの約半分が、規格外品や売れ残りなどの「事業系ロス」だ。
出典:消費者庁
しかし余剰在庫を抱えてしまった食品メーカーには「安売りできない」ジレンマがある。
「ブランドイメージを毀損してしまったり、市場価格が下落すると(卸の)取引先に迷惑をかけてしまったりというリスクがある。だから今までは多くが廃棄されていた」(関藤竜也社長)
なぜ、ここまで余剰在庫が生まれてしまうのか?
背景には、食品メーカーと小売店の間の「3分の1ルール」と呼ばれる商慣習がある。
農林水産省は「1/3ルール」の見直しを呼びかけている。
出典:農林水産省
「3分の1ルール」とは、製造日から賞味期限の期間を3で割り、メーカーは最初の3分の1の期限までにスーパーなどの小売店に納品しなければならないという自主ルールだ。
たとえば賞味期間が6カ月の場合、メーカーや卸業者は製造日から数えて「2カ月」以内に小売店に納品する必要がある。それより遅れると、卸業者からメーカーに返品されたり、廃棄されたりする。
そもそも賞味期限が切れたとしてもすぐに食べられなくなるわけではないが、日本の消費者は敏感であるため「世界一厳しいと言われるレギュレーションができてしまった」(関藤氏)。
そうして生まれる国内の「食品ロス市場」は、9000億円に上るという(クラダシ試算)。
農林水産省は「3分の1ルール」見直しに取り組んでおり、一部小売店では緩和を受け入れつつあるが、「66兆円にも上る(メーカーから消費者に至るまでの)一次流通を突き崩すには至っていない」(関藤氏)。
創業時からクラダシは、売り上げの数パーセントを環境保護や医療支援、災害支援などを行う団体に寄付する取り組みを続けている。全部で14〜15団体ある寄付先から、購入時にユーザーが選ぶ。
余剰在庫を売ることが社会貢献につながるため、メーカー側も取り組みに賛同しやすい。現在はコカ・コーラやロッテ、グリコなど990のメーカーと取り引きをし、寄付総額は8000万円を超えた。
クラダシの主なユーザー層は30代から50代で、7割が女性だ。「1回の購入あたりの点数が多いので、子育て世帯によく利用していただいている」(広報担当者)という。
パタゴニアも取得した「B Corp」認証も
記者会見で説明する、代表取締役社長の関藤竜也氏(左)、取締役執行役CFOの高杉慧氏(中央)、取締役執行役CEOの河村晃平氏(右)。
撮影:西山里緒
今回の資金調達と同時に、国際認証「B Corp(B Corporation)」の取得も発表した。
これは、アメリカの非営利団体「B Lab」が運営する、社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する認証制度だ。平たく「良い会社認証」などと呼ばれることもある。
認定企業には、 アウトドア大手のパタゴニアやスニーカー企業のオールバーズ、ダノンジャパンなども含まれる。国内で取得する企業はクラダシも含めてまだ13社しかない。
先述の通り、コロナ禍で「おうち需要」が高まったり、SDGsの認知度が向上したことで、クラダシの売り上げは前年同期比123%増の伸びを見せている。
2014年から自己資金と一部の融資のみで経営を続けてきたが「タイミングと勢いが大事だ」と、8期目にして初めて、資金調達を実施した。
「(創業した2014年には)まだSDGsという言葉も聞かなかった。もしあの時に資金調達をしていたとしたら、きっと(株主から)ビジネスモデルを理解されず、潰されていたと思う」(関藤氏)
調達した資金はアプリ開発費やマーケティング費などに充て、クラダシは公益性も追求する企業として上場を目指すという。
(取材、文・西山里緒)