グルメサイトの「ぐるなび」。コロナ禍で業績が低迷する中、「ネット予約」以外の領域に活路を見出そうとしている。
撮影:小林優多郎
「送客一本足打法からの脱却、新規事業を考えないといけない」
グルメサイトを運営するぐるなびの常務執行役員・田村敏郎氏は、緊張感のある面持ちで語る。
コロナ禍で厳しい状況が続いた外食業界。そんなレストランに客を送り込むグルメサイトもまた厳しい状況が続いた。
ぐるなびの2022年3月期決算資料。コロナ影響がほぼない2020年3月期(2019年度)は9億4900万円の純利益だった。
出典:ぐるなび
ぐるなびが5月12日に公表した2021年度(2022年3月期)決算によると、通期で純損失は約57億6800万円と前年比では改善したが、売上高は128億5200万円と前年比20.6%減と悪化が続いている。
目下、重要課題として取り組む新規事業について、田村氏に直撃した。
企業の「飲み会」今も戻らず
2020年4月7日、1度目の緊急事態宣言初日の繁華街のようす。この頃と比較すると、状況はかなり回復しているが、それでもコロナ禍以前とまったく同じとはいえない。
撮影:竹井俊晴
ぐるなびの主要事業は、ユーザーのネット予約によって発生する「手数料ビジネス」だ。飲食店にとっては集客のための「販促費」として捉えられる。
ぐるなび 常務執行役員 オーダー&フードサプライ事業部 事業部長 CX部門 部門長 CX部門 マーケティング部 部長 CX部門 戦略推進室 室長の田村敏郎氏。
画像:編集部による取材時のスクリーンショット
しかし、この2年は飲食店に非常に厳しい状況が続いた。そんな中では「時短営業だと販促しようという気は起きない」(田村氏)……ぐるなびの前出のような業績悪化は当然の結果と言える。
現在、緊急事態宣言などの解除により足元では「良い兆しが出ている」そうだが、特に「大企業オフィスのエリアが苦戦」しているとも田村氏は明かす。
「(足元では)ランチが伸びているが、ディナーが伸びていない。
エリアでも差が出ている。ゴールデンウィークなどで旅行需要もあり、地方都市では(予約件数が)戻ってきているが、東京では戻っていない。
(特に)新橋、品川、東京駅付近など、大企業オフィスのエリアが苦戦している。ビジネスパーソンの飲み会が減っている」(田村氏)
ぐるなび上の平均予約人数は、コロナ禍前は1組あたり5.5人だったものが、2022年3月時点では3.4人と縮小していると言う。
再建の鍵は「モバイルオーダー」と「食材発注事業」
そんな状況で出てきたのが「送客一本足打法からの脱却」という冒頭の言葉だった。
ぐるなびは「モバイルオーダー」と「食材発注事業」という2つの店舗支援領域の拡大を急いでいる。
ぐるなびのモバイルオーダー「ぐるなびFineOrder」。
出典:ぐるなび
独自のモバイルオーダー「ぐるなびFineOrder」は、2021年4月から先行リリースしている。
店舗内にQRコードを配置し、客自身のスマホで注文と会計をしてもらう、王道のモバイルオーダー機能と店員のハンディー端末で注文を取れる機能のハイブリッド体制で提供している。
モバイルオーダー自体は、競合であるリクルートも同社のモバイルPOS※「Airレジ」と連携した「Airレジ オーダー」などで強化している領域だ。
FineOrderの場合、既存のPOS※に組み込む形の機能提供をしているため、多くの場合、既存のPOSを入れ替える必要がないという。
田村氏は「季節に合わせてメニューを一括更新するなど、(その店舗の)本部で集中して管理ができる」と説明。現在は比較的大きな企業のチェーン店を中心に営業をかけているようだ。
販売時点情報管理、店舗の売上や在庫を管理するレジなどのシステム。中でもモバイルPOSは、タブレットやスマホなどのモバイル端末を使ったもの。
7月4日にリニューアルした「ぐるなび 仕入れモール」。
出典:ぐるなび
食材発注事業「ぐるなび仕入モール」は、なかなかユニークだ。2021年11月からスタートし、2022年7月4日にトップ画面をリニューアルしている。
これはその名の通り、飲食店の食材などの仕入れをするためのサービスで、取り扱いの品数は「3万品を超える」(田村氏)。
ただ、ぐるなび自身が在庫を持って販売するわけではなく、全国の卸業者に出品をしてもらうマーケットプレイス形式のサービスとなっている。
見方を変えれば、ぐるなびのネット予約が「飲食店と客のマッチングサービス」であるのに対し、仕入れモールは「飲食店と卸業者のマッチング」をしているわけだ。
食材受発注支援事業の概要。
出典:ぐるなび
コロナ禍で飲食店、グルメサイトだけではなく卸業者も当然打撃を受けた。卸業者の中でも新規顧客の開拓をしたいというニーズにうまく応えた形だ。
また、「(従来だと)卸業者と飲食店のやり取りの主流はFAX」と、業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも一役買っていると田村氏は話す。
なお、仕入れモールの現在の利用飲食店数は非公表だが、「(予約サイトの)ぐるなびの加盟店が5万8286店(2022年3月時点)で、まずはその半分ぐらいを目指す」と、今後の認知拡大に注力していく方針だという。
予約、注文、仕入れのデータで相乗効果狙う
「右と左のマッチングをすること」がぐるなびの強みと語る田村氏。
画像:編集部による取材時のスクリーンショット
ぐるなびの事業はいずれも外食業界のDXという側面で共通点がある。予約サイトはある意味「チラシのDX」、FineOrderは「注文業務のDX」、仕入れモールは「仕入れ業務のDX」だ。
田村氏はこうしたそれぞれの新規事業を今後の収益を支える柱に成長させていくだけではなく、既存のネット予約の回復にも役立つと、事業の相乗効果について語る。
「より地方色を出していきたい。具体的な施策はまだしていないが、例えば仕入れモールである地域の特産物を購入した店に、その食材を使ったメニューを出してもらい、(その特産物の自治体とも連携して)そのクーポンを発行するといったことも考えられる」(田村氏)
ぐるなびが考えるデータマーケティング事業の展望。
出典:ぐるなび
また、それぞれの事業で持つことになるデータの活用も視野に入れている。
田村氏によると、例えば、一部の卸業者からは「(単に食材を届ける)御用聞きにとどまらず、新規のメニュー提案もしたいが、(店舗の)ニーズが分からない」といった声も受けているという。
「我々は(ネット予約で)エンドユーザーのニーズをデータで持っている。今後はFineOriderでどのメニューが、誰に、どれだけ売れたかという情報も持つようになる。
そういったものを卸業者に提供することで、より商談を効果的に進められるのではないか」(田村氏)
全国的にコロナによる制限も緩和される動きが見られ、客足も戻りつつある。
だが、「食べログ」による評価点のアルゴリズム問題など、依然グルメサイトには厳しい状況が続いている。
そんな状況下で、ぐるなびが飲食店や卸業者をデジタルの力で味方につけられるのか、今後の動きを注視したい。
(文・小林優多郎)