IVS2022 NAHAが7月6日から7月8日まで開催されている。
撮影:小林優多郎
7月6日から7月8日、沖縄県・那覇市でスタートアップ交流型イベント「IVS2022 NAHA」が開催されている。
同時開催のWeb3特化型イベント「IVS Crypto 2022 NAHA」と合わせて約1800人の来場者が集まった。
7月7日にはその開幕を飾るオープニングセッションとして「どうなる世界〜日本はどう生き残るのか?〜」と題し、MPower Partnersのゼネラルパートナーのキャシー松井氏、千葉道場ファンド ゼネラルパートナーの千葉功太郎氏、スペースデータやレットのCEO・佐藤航陽氏が、この半年で急変したベンチャー市場の空気、そして今後、起業家や投資家として生き残る術をディスカッションした。
本記事では、その激論の要約をお送りする。なお、進行役はBusiness Insider Japan 編集長の伊藤有が務めた。
「地獄のよう」に変化した市場、ITはすでに世界の中心ではない
セッションの様子。
撮影:小林優多郎
最初のテーマは直近の「市場の空気感の変化」だ。新型コロナウイルスのまん延、その後2022年2月以降のロシアによるウクライナ侵攻などを踏まえて、登壇者は「急激な変化があった」「地獄のような感じ」と口をそろえる。
「IVS那須(2021年11月)があったときは明るかった。今はまたどん底に。暗いだけじゃなくてプロに聞いてもわからない不透明さがある」(千葉氏)
「(パンデミックによる金融緩和で)BBQにガソリンを撒くような感じに資産の価値が上がった。人工的なマーケットバブルだ。2018年まではリアルな世界ではなかった。(悲観する必要はないが)これからは逆風が起きているかもしれない」(松井氏)
千葉氏はSMBC日興証券の資料を引用し、比較的若い企業が集まる東証マザーズ(現在は廃止)の株価指数が特に落ちていると指摘する。
撮影:小林優多郎
一方、佐藤氏は金融的な部分に加え、時代の流れとして「ITが成熟産業になり、世界の中心じゃなくなった」と指摘する。
「エンタープライズ向けのDX(デジタルトランスフォーメーション)はテクノロジーとしては最後にくる潮流だ。(技術の)基本は消費者から始まる。最後が行政DXになる。1タームが終わって、新しい時代の始まりがコロナと重なったのではないか」(佐藤氏)
これに関して千葉氏は自身が共同創業者を務める「DRONE FUND」に触れつつ、「(確かに)非ITを無意識に突き詰めていた」と同意した。
生き残るためには「外にどう出ていくか」考える
佐藤航陽氏。
撮影:小林優多郎
佐藤氏は次の10年、20年を象徴する新しいテクノロジー領域として「宇宙開発」「仮想空間」「ESG(Environment、Social、Governance)」を挙げる。
そう実感したきっかけは、10代のクリエイターや技術者と接することだったという。
「宇宙産業や仮想空間について調べる過程で、(誰が)ブログやYouTubeをアップしているのか見てみた。みな異常に若く、IT業界の人ではなかった。東京にも住んでないのかもしれない」(佐藤氏)
「頭を下げながら教えを乞おうと思い、DMで連絡をとった。すると、だいたい高校生。自分の価値観を捨てないといけないタイミングだと思った」(佐藤氏)
新世代の技術として、別会場での同時開催となった「IVS Crypto 2022 NAHA」について話題が広がった。
前述の次世代のクリエイターや技術者と、これまでの世代とは明確に違うところがあるという。メタバースに関連する若手のクリエイターたちは、VCからの資金調達やその後上場するといったことに憧れを持っていない、と佐藤氏は指摘する。
その背景には、既に自身に何万ものフォロワーがおり、外部から資金を得なくても独自の経済圏を作れているからだ。
「ここ(壇上)にいてはいけないのかもしれない。生き残るにはどうやって『外』に出ていくか考えるべきだ」(佐藤氏)
強い組織には「ESG」の視点が不可欠
キャシー松井氏。
撮影:小林優多郎
一方で、「生き残る」というキーワードでは、現存する企業がより具体的な方法で生き残るための「強い組織」の作り方も議論に上がった。
松井氏が取り組むべきこととして挙げたのが、自身が2021年5月に立ち上げたベンチャーキャピタルファンド「MPower Partners」が重視するESGと多様性についてだ。
「みなさんが見ている視野はもしかしたら狭すぎる。自分も狭いと思う。
視野を広くすることが事業には必要だ。採用する人材や顧客、多様性の広さが大切になる」(松井氏)
松井氏は、当然そういったことが決してかんたんな道ではないことだと触れつつ、事業は「スプリント(短距離走)ではなく、マラソン(長距離走)」だと話す。
松井氏は、日本でも管理職の女性比率が高い企業が、長期的な収益性が高くなっていると指摘する。
撮影:小林優多郎
これに対し、日本のスタートアップの海外上場も支援している千葉氏も、ESGの視点が「日本(の企業やスタートアップ)には欠けている」と同意する。
「究極的な話、上場するときに(ESG経営の視点が)求められなくても、上場した後のIR(株主・投資家向けの情報公開)でチェックされる」(千葉氏)
佐藤氏も「今までのスタートアップ界隈での常識が通用しなくなっている。わかっている人といない人で、この10年で明確に差が出てくる」と口をそろえた。
今後投資が集められるのはどんな領域・事業家なのか
千葉功太郎氏。
撮影:小林優多郎
セッションの終盤では、今後投資が集まる領域を、それぞれ投資家や実業家としての視点で意見を交わした。
松井氏は「明るい未来に必要な技術はどういう技術か」と口火を切った。
「自分の組織に参加している人の利益だけではなく、属しているコミュニティーや社会へのインパクトもないといけない」(松井氏)
モデレーターを務めたBusiness Insider Japan編集長の伊藤有。
撮影:小林優多郎
松井氏は自身の20代になる子どもやその周りの友人が「Twitterで人種差別的な発言をした経営者が出てきたとき、その経営者のECサイトで買い物をしなくなった」経験談にも触れつつ、「この世代が世界を変えていくと思っている」と語った。
千葉氏は「長期でやるものに投資をしたい」と意気込む。
「『自分が一生やりたい』と生まれ持った背景を持つ人はどんな状況でも強い。
(プロダクトの)見た目が違くても、根っこはポリシーを貫いている。情熱も深い。そんな地に足をついているところを見るようにする」(千葉氏)
一方、現在も事業会社を運営する起業家という立場の佐藤氏は「完全に新しい価値観にお金が集まる」と予想する。
「スタートアップ(に必要な)最小コストは小さくなっている。新しい価値観を持っている会社は(自然と)ボトムライン(利益指向)の経営になっていく。
(この数年のマーケット)バブルが終わって、見直して精査していく。そのようなところが生存していく」(佐藤氏)
(文、撮影・小林優多郎)