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今回は、こちらの応募フォームからお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。
40代後半の女性が、定年年齢までのキャリアをどう描き、自分の居場所をどこに見出せばよいのか、悩んでいらっしゃいます。
Aさん
私はいま47歳ですが、自分の「キャリアの終の棲家」というか、この先の働き方のことで悩んでいます。
もともと新卒から35歳までは服飾系の仕事をしていましたが、病気療養のため退職し、37歳の時に友人の紹介でITスタートアップに再就職しました。
バックオフィスとしていろいろな仕事をさせてもらい、楽しい環境でしたし、成長していく企業を体感するのも刺激的だったのですが、44歳で転職しました。
一番大きな原因は、CEOを含め社員のほとんどが私よりかなり年下で孤独感があったこと(同僚たちは敬遠せず接してはくれていましたが)、その会社のプロダクトのターゲットユーザーでもない私には居づらい環境だなと思ったからです。
ただ、転職先も結局スタートアップを選んでしまいました。スタートアップのワイワイしたカルチャーで働いてしまうと、もう堅苦しい大企業の社風にはついていけないなと思ったためです。今の組織は私と同年代が4、5人いますが、ただ「みんな若いなぁ」ということはやはり気になっています。
自分の将来を考えた時、年長の私だけが浮いた存在のままスタートアップで定年を迎えるのはどうなんだろう……と思ってしまいます。私みたいなキャリアの場合、どんな組織を仕事における「終の棲家」にすればいいのでしょうか。
(40代後半/女性/スタートアップ)
若い組織に足りないもの
スタートアップというと、確かに20~30代の若手を中心とする、勢いがある組織が多いと思います。
40代、しかも50代が少しずつ見えてきたAさんが「自分は浮いているのでは」と感じるのも無理はないでしょう。
しかし、私が多くのスタートアップやベンチャー企業の人材採用を支援していて実感するのは、ミドル・シニア層の力こそ、若い組織で価値を発揮するということです。
実際、50代の方々が大手企業を辞めてスタートアップに飛び込む転職を多数サポートしてきましたし、その方々が組織に良い影響を与えている事例も見てきました。
近年の組織マネジメントでは、以前のように強力なリーダーシップで集団を引っ張っていくのではなく、メンバー1人ひとりにじっくりと向き合い、それぞれの個性や強みを活かすサポートをするスタイルが求められるようになっています。
「フォロワーシップ型」「サーバント型」などと呼ばれるマネジメントのあり方です。
これを「お父さん/お母さん」「お兄さん/お姉さん」的な立ち位置で実践できるのは、人生経験を積んだミドル層ならではの強みといえます。
また、若手の新しい発想力と、豊富な経験を持つミドル~シニア層の視点を融合させることで、組織に安定感が生まれます。
例えば、理系の新卒採用サービス事業を行う株式会社POLの共同創業者の2人は年齢が37歳差。20代のCEOと60代の取締役がタッグを組み、バランス感覚に優れた組織を作り上げ、順調に成長しています。
こちらは極端な例ではありますが、若手中心の組織に経験豊富なミドル・シニア人材が加わることで組織基盤が強固になる例を多く見てきました。
その重要性を認識し、ミドル・シニア層を歓迎するスタートアップ、ベンチャー企業は少なくありません。「求められている」「貢献できる」と、自信を持ってください。
ただし、「柔軟性」「スピード感」は意識していただきたいと思います。
私がベンチャー企業経営者から人材採用の相談を受ける際、こんなやりとりをすることがあります。
「20代の若手を採用したいんです」
「なぜ20代の若手がいいんですか?」
「20代だと、柔軟性やスピード感があるから」
「では、柔軟性やスピード感がある人物であれば、40~50代でもかまいませんか?」
「それはそうですね」
実際、20代でもコンサバティブな人もいれば、40~50代でも変化への適応力がある人もいます。
要は、世間の「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」に、自分までとらわれないようにすることが大切です。
「サードプレイス」が心を安定させ、新たなチャンスも呼び寄せる
会社で若い人に囲まれて居づらさを感じ、それがストレスになっているのであれば、会社と家庭のほかに「サードプレイス」を持つのもおすすめです。
副業、興味があるテーマの勉強会やコミュニティ、NPOなどでのボランティア、何でもかまいません。
共感できる人々に囲まれた環境で活動することで、心の安定を図ることができます。
特に「副業」は、本業以外の業務を経験し、スキルの幅を広げられるという点で、将来のキャリアの選択肢を増やす活動としても有効です。
サードプレイスを持っておくことは、心の安定だけでなく、「キャリアの終の棲家」への転職につながる可能性もあります。
昨今、「リファラル採用」が増えています。リファラル採用とは、従業員が自身の友人・知人を自社に紹介する人材採用の仕組みです。
私たち転職エージェントが依頼を受けて人材をサーチしている途中、「リファラル採用で決まりました」と、依頼を取り下げられるケースは多々あります。そして、採用された方のプロフィールをお聞きすると、依頼時に聞いていた経験・スキル要件を満たしていないことも多いのです。
つまり、採用された方はキャリアやスキルではなく、「人物面への信頼」を獲得していて、それが転職成功につながっているということです。
「年齢を重ねてからの転職を見据え、新しい専門スキルを身につけよう」と考える方も多いのですが、そうして磨いたスキルが5年先・10年先にニーズがあるかどうかは分かりません。それこそ、AIやロボットに代替される可能性もあります。
新しい知識・スキルをアップデートしていくのはもちろん大切ですが、それ以上に力を入れたいのは、「人との信頼関係の構築」です。
日々の仕事に誠実に取り組み、向上心を持って学び続けることで、「あの人に任せれば責任を持ってやり遂げてくれる」「あの人なら経験がないことも主体的に学んでキャッチアップしてくれる」といった信頼を積み上げておきましょう。
そんな信頼関係が、新たな転職先との出合いを呼び寄せることもあります。何歳になっても、活躍の場を見つけられると思います。
こうしたチャンスを広げるためには、多くの人とつながりを持っておくことが大切。それを可能にする場が「サードプレイス」です。
皆さんは「六次の隔たり(Six Degrees of Separation)」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。知人の知人、そのまた知人をたどっていくと、6人を介して世界中の人とつながるとする説です。
そして、2016年にFacebookユーザーのリンクを調査したところ、「隔たり」の人数は米国内で3.57人、世界では4.57人という結果が発表されました。
SNSの普及で人同士の距離が縮まり、「スモールワールド化」しています。
「終の棲家」にたどり着くためには、人脈の活用が有効といえるのではないでしょうか。
※この記事は2022年7月11日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。