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大切なのは対話と期待値コントロール。「煩悩」と向き合い、健やかなパートナーシップを築くヒント

登壇者4名の顔写真

画像:MASHING UP

健全なパートナーシップの構築は、心身のウェルビーイングに不可欠な要素の一つだ。一方で、パートナーシップの概念自体が大きく変わりつつある。男女が一対一で独占的かつ性的な関係を結び、生涯にわたり婚姻関係を継続していくことだけが正解ではなくなってきているためだ。

2021年11月19日に開催されたMASHING UPカンファレンスvol.5では、「パートナーシップと煩悩」をテーマに、僧侶・煩悩クリエイターの稲田ズイキさん、ポリアモリー(※)を公表している文筆家 きのコさん、フェムテック企業 fermata Co-founder/CCO 中村寛子さん、NEUT Magazine 編集長の平山さんが登壇。明確な答えを見つけることが難しいパートナーシップとウェルビーイングの関係について、語り合った。

※合意の上で複数のパートナーと関係を築く恋愛スタイルのこと

「努力をするべき」も立派な煩悩? 善にも悪にも執着しないことの大切さ

称名寺副住職・煩悩クリエイターの稲田ズイキさん

悩みがあることは当然であり、悩み続けることこそが人間として生きることだと説く稲田ズイキさん。

撮影:S.KOTA

1つ目のテーマは“煩悩について”。今回のトークセッションに先立ち、MASHING UPでは読者アンケート調査を実施。「あなたの煩悩を教えてください」という質問に対して、「ネットショッピング癖が治りません」「食欲と物欲が止まりません」「今のパートナーでない人と恋したい」「結婚していながら他の人にときめいてしまいます」「努力をしたくない」「惰性でゲームをやってしまう」などの本音が寄せられた。

僧侶の稲田ズイキさんによると、仏教において煩悩は貪・瞋・痴(とん・じん・ち)の三毒で構成されている。貪は、貪るような欲望。瞋は、他者に対する怒りや嫉妬など攻撃的な感情。痴(無明)はひとりよがりの間違った思考を固持している、思い込みにとらわれた状態を意味する。

「諸説ありますが、三毒の根底にあるのが執着(しゅうじゃく)。何かにしがみつこうとすることですが、僕はよく固定化させるという表現を使います。

例えば怒りという感情も、『相手はこうだ』と決めつけた時に発生することが多い。『自分とはこうである』という思い込みも、自分を固定化させる行為。しかし実際の世界は諸行無常であり、全てが流れて変わっていくもの。物事を固定的だと追い込むことが煩悩の根底にあると仏教では考えられています」(稲田さん)

“煩悩クリエイター”の肩書きも名乗る稲田さん。過去にSNS上で自身の性に関する悩みを発信したところ、思いがけず多くの人々から共感のコメントが寄せられ、孤独感が解消されたという。その体験をきっかけに煩悩クリエイターとしての活動を開始したが、正確には「煩悩を供養する」ことこそが目標だと語った。

モデレーターの平山潤さんが注目したのは、「努力をしたくない」という意見。努力をしたくないと言うと、一般的にはネガティブな印象を持たれることが多いが、これは仏教的に煩悩と言えるのだろうか。稲田さんによると、実は煩悩とは真逆の状態に移行している可能性もあるそうだ。

「これまで『努力をするべきだ』と思い込んできた人がそう思い始めたのなら、実は煩悩から離れていっているとも言えます。仏教においては、何事も偏りすぎないということが大事」(稲田さん)

一見ポジティブなことも、度が過ぎると毒になる。善も悪も関係なく、自分の中にある一切の思い込みを一度全て洗い出してみることで、問題解決に繋がる気づきが得られるのかもしれない。

自分の中にありながら自分のものではない煩悩。うまく共存していくには?

ポリーラウンジ幹事 / 文筆家のきのコさん

1年後にはポリアモリーではなくなっているかもしれないが、そんな流動的な自分を受け入れて肯定してあげることが大事だと語るきのコさん。

撮影:S.KOTA

さらに平山さんがピックアップしたのは、婚外恋愛の願望についての赤裸々な意見。罪悪感を抱きながらも、欲望を打ち消すことができずに煩悶している人は少なくない。ポリアモリーを公表している文筆家のきのコさんは、自分の感情の“ままならなさ”を受け入れることが大切だと語った。

「私が(婚外恋愛願望がある)その人に声をかけるとしたら、まずは『そうですよねえ』と受け止める。欲望や感情というものは、自分の中にありながら、自分ではないものだと思います。

やって来るもの、湧いてくるもの、ままならないもの。だから、こう感じてはいけないとか、こうしたいと思ってはいけないと言っても無駄でしょう。まずそう思った自分がいる、と認めることからしか何も始まらない」(きのコさん)

ステージの様子

哲学的で深い難問が続く中、安易に答えを求めないという“答え”も次第に浮かび上がってきた。

撮影:S.KOTA

一方、fermata Co-founder/CCOの中村寛子さんは生理前の食欲に悩んでいることを明かした。仕方がないと自分自身に言い聞かせているが、食べた後は毎回後悔してしまうという。これについて稲田さんは、煩悩を打ち消すことが仏教における目標ではないと解説した。

「仏教においては、完全に煩悩を滅することは不可能だと考えられています。僧侶たちは、煩悩とうまく付き合っていくための修行をしている。“煩悩即菩提(ぼんのうそくぼだい)”と言いますが、煩悩自体を深く見つめ直さないと悟りは見えてこないという意味です

煩悩と悟りは、実は表裏一体。煩悩を駄目だと思い込んで必死に消そうとすると、今度は別の煩悩に陥ることになりかねない。自分の煩悩を否定せず、じっくり見つめて向き合っていくことで、良い状態になるのでは」(稲田さん)

自然に湧いてくる煩悩を否定して、自分を罰する必要はない。うまく折り合いを付けながら自分自身にとって心地よく最適なバランスを把握し、共存していくことが大切だ。

性交渉は必ずしも必要ではない?

NEUT Magazine 編集長の平山潤さん

編集長を務めるNEUTマガジンでも、パートナーシップや性を扱う記事を制作することも多い、と平山潤さん。

撮影:S.KOTA

パートナーシップについて語る時、セックスは避けては通れないテーマだ。健全なパートナーシップを継続するために、セックスは必要不可欠なものなのだろうか。というよりも、そもそも健全なパートナーシップとは一体何なのだろうか……?

「僕自身が、パートナーとなかなか性行為できないという悩みを長年抱えていました。性行為が最後までできないと、お互いが満足できないのではないかという思い込みが強かった。しかし今のパートナーが言ってくれた言葉ですごく救われました。

それは、『セックスというのはお互いの承認の中でお互いが気持ちいいと思うこと。だから自慰をすればいいんだよ、私もするし』という言葉です」(平山さん)


「仏教で言う“自利利他”と同じ。自分にとっていいことは、他人にとってもいいこと。両方を喜ばせる、幸せにするという考え方」(稲田さん)


「性交渉がこうあるべきだ、という正解はない。耳で聞いて気持ちよくなる人もいれば、ハグしてもらうだけで気持ちよくなる人もいる。プレジャーの形は多種多様。

今、私はフェムテック事業に携わっていますが、国内外のプロダクトを見ていて感じたのは、“性交渉=子どもをつくるためだけの行為“という固定観念は少しずつ薄れてきているということ。また逆に、“子どもをもつ選択肢は性交渉しかない“という固定観念も、いい意味で崩れてきていると思います」(中村さん)

セックスレスがしばしば社会問題としてメディアに取り上げられるが、きのコさんも“セックス=愛情”ではないと指摘した。

「私には男女1名ずつのパートナーがいますが、それとは別にめちゃくちゃ好きな人(女性)がいて、その人と今群馬で暮らしています。しかし現時点では、3人全員と性的関係がある訳ではありません。男性のパートナーとは、以前は性的関係を持っていました。しかし付き合って10年ぐらいになるので、家族のような関係になってしまった。今も愛し合ってはいますが、性的関係はないです。

群馬で暮らしている彼女は『セックスそのものをしたくない、もう自分には性欲がない』と言っています。なので今の私のパートナーシップは、全然セックスが含まれない関係」(きのコさん)


「周囲にもセックスレスに悩んでいる夫婦が多い。しかし、セックスレスについて“いけないこと”だと感じて悩んでいる人は多いけれど、子どもを作るための行為である場合を除いては、今後そもそもセックスレスという課題自体がなくなってくるのかなと思いました」(平山さん)

fermata Co-founder / CCOの中村寛子さん

結婚に興味を持ったことがないと語った中村寛子さんは、ビジネスも恋愛関係もパートナーシップとしての本質は同じであると言う。

画像:MASHING UP

では真に愛情あるパートナーシップとは何なのだろうか。もちろん定義は人によって異なるが、中村さんがキーワードとして挙げたのは“対話”“期待値コントロール”だ。

恋愛でもビジネスでも、対話が本当に大事。とくに、期待値コントロールがすごく大事だと思います。自分と相手の希望がぴったり合うことって、ほぼないじゃないですか。お互い魔法使いじゃないから、頭の中も読めない。ちゃんと自分の要求や希望を伝えた上で、向こうの気持ちにもきちんと耳をかたむける。お互いの期待値をコントロールしながら対話を重ねるということが、すごく大事なんだなと。これは恋愛だけでなく、全てのパートナーシップについて言えること」(中村さん)

セックスも恋愛も結婚制度も、究極的には人間対人間のコミュニケーションの話に集約されるもの。恋愛や結婚というと、他の人間関係とは異なる“何か特別なもの”として捉えられることが多い。しかし、仕事や友人、家族とのコミュニケーションと実は本質的に同じであるとすれば、恋愛や結婚も結局のところ“諸行無常”で“ままならない”ことが当然であることが理解でき、心地よいパートナーシップのかたちにたどり着けるのではないだろうか。

セッション後の集合写真

撮影:S.KOTA

MASHING UP conference vol.5

パートナーシップと煩悩

稲田ズイキ(称名寺副住職・煩悩クリエイター・フリースタイルな僧侶たち編集長)、きのコ(ポリーラウンジ幹事 / 文筆家)、中村寛子(fermata Co-founder / CCO)、平山潤(NEUT Magazine 編集長)

MASHING UPより転載(2022年5月26日公開


(文・吉野潤子)

吉野潤子:ライター・英語翻訳者。社内資料やニュースなどの翻訳者を経て、最近はWebライターとしても活動中。歴史、読書が好きです。

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