【安倍元首相死去】命を狙われた政治家たち、許されない“民主主義への攻撃”は過去にも

戦後の日本国憲法下でも、政治家たちが暴力で攻撃されるという、あってはならない蛮行があった。政治家への襲撃は、明治維新期の動乱期のような昔の話だけではない。

戦後の日本国憲法下でも、政治家たちが暴力で攻撃されるという、あってはならない蛮行があった。政治家への襲撃は、明治維新期の動乱期のような昔の話だけではない。

Wikimedea,Japanese book "Album: The 25 Years of the Postwar Era" published by Asahi Shimbun Company/REUTERS

自民党の安倍晋三元首相が7月8日午前11時半ごろ、奈良県奈良市の大和西大寺駅近くで街頭演説中に銃撃され、同日午後5時3分に死去した。

戦後の日本国憲法下、普通選挙制度の下で国民は自分たちの代表を選挙で選び、代議士たちに国の運営を託してきた。政治家は言論で意見を戦わせ、有権者の信を問うてきた。

歴史を振り返ると、そんな政治家たちの命を暴力で奪おうとする蛮行は度々あった。政治家へのテロと聞くと明治維新の動乱期での暗殺事件や、大正期の原敬首相暗殺、昭和初期の浜口雄幸首相襲撃、五・一五事件や二・二六事件といった戦前のクーデタ未遂事件のイメージが強いかもしれない。

だが、昔の話だけではない。戦後も平成にかけて政治家への凶行事件が起こっている。

浅沼稲次郎氏襲撃事件。

浅沼稲次郎氏襲撃事件。

Wikimedea,Japanese book "Album: The 25 Years of the Postwar Era" published by Asahi Shimbun Company

戦後史に残る政治家襲撃事件の筆頭として挙げられるのが、1960年にあった浅沼稲次郎氏襲撃事件だ。当時、日本社会党の委員長だった浅沼氏は1960年10月、近く予想されていた解散総選挙を前にして開かれた東京・千代田区の日比谷公会堂での演説会での演説の最中に刺殺された。この年には安倍首相の祖父である岸信介首相が首相官邸で男に短刀で刺され、重傷を負った。

1975年には佐藤栄作元首相の葬儀に参列した三木武夫首相が暴漢に殴打され、ケガを負った。この事件をきっかけに、警視庁の警護課に要人警護隊の「SP(セキュリティ・ポリス)」が創設された。

時代が昭和から平成にかわっても、政治家への凶行はあった。1990年1月、「昭和天皇の戦争責任」について発言していた当時の長崎市長・本島等氏が、銃で撃たれ重傷を負った。同年には元労相で衆院議員・丹羽兵助氏が陸上自衛隊の記念行事で男に刺され死亡した。

2002年には旧民主党の衆院議員・石井紘基氏が東京都内の自宅前で刺殺された。2007年に当時の長崎市長・伊藤一長氏が射殺された。

細川護熙氏(右)

細川護熙氏(右)

REUTERS

負傷はしなかったが、1992年には金丸信氏(自民党副総裁)、1994年には細川護熙氏(元首相)への発砲事件があった。

安倍元首相への銃撃は、7月10日投開票される参院選候補者を応援する演説中のことだった。国民の新たな代表を選ぶ選挙戦の中で、首相経験者である現職の国会議員が襲撃されるという、民主主義の根幹が攻撃されたに等しい事件だ。与野党問わず各党の幹部が「絶対に許されない」と今回の凶行への非難の声と安倍氏の無事を祈るコメントを寄せている。

岸田文雄首相は8日午後2時50分頃に首相官邸で記者団の取材に応じ、以下のようにコメントした。

今、懸命の救急措置が行われていると承知をしている。まずは安倍元総理がなんとか一命をとりとめていただくよう心より祈りたい。

今回の犯行の背景についてはまだ十分把握できていないが、いずれにせよ民主主義の根幹である選挙がおこなれている中で起きた卑劣な蛮行であり、決して許すことはできないと思っている。最大限の厳しい言葉で非難する。

政治学者でニューヨーク大教授のアダム・プシェヴォスキ氏は著書『それでも選挙に行く理由』の中で、こう指摘している。

「選挙の最大の価値は、社会のあらゆる対立を暴力に頼ることなく、自由と平和のうちに処理する点にある」

【UPDATE】記事を更新しました(2022/07/08 23:10)

(文・吉川慧)

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