撮影:伊藤有
楽天グループと楽天銀行が7月4日、楽天銀行の東京証券取引所への新規上場申請を発表した。
これは2021年9月30日に同社が発表した「楽天銀行株式会社の株式上場準備の開始に関するお知らせ」の中で告知されていたもので、具体的な上場時期などは現時点で不明だが、上場の承認が下りしだい詳細が速やかに公開されるものと思われる。
なぜネット銀行が再び注目を浴びているのか
いまだ上場準備中というステータスということもあるが、同社広報からは「個別のコメントはお出しできない」と、上場を通じて調達された資金の使途などについての回答は得られていない。
ただ、4月28日に「楽天銀行株式会社 中長期ビジョンについて」と題したプレスリリースが発表されており、今後5年間で同社がどういった企業体を目指すのかの大まかな方針は分かっている。
撮影:伊藤有
現在でこそ楽天銀行は楽天グループの金融戦略の中核を担う企業の1つとなっているが、そのルーツは2001年に業務を開始したイーバンク銀行にさかのぼる。
リアルな支店網などを持たない、いわゆるネット銀行の先駆けとして、ジャパンネット銀行(現:PayPay銀行)やソニー銀行などと並んで先駆け的存在として知られている。
銀行としての機能拡張が進み、その業務が現在の形で落ち着いたのは、楽天との資本提携が発表された2008年のことだ。翌2009年には第三者割当増資による楽天の資本参加で連結子会社となり、現在の「楽天銀行」へと商号を変更した。
今、固定費が少なく小回りの利くネット銀行の業態は再び注目を集めつつある。
都市銀行や地方銀行といった既存の金融機関が支店やATMの統廃合、業務効率化へとまい進する状況にあるからだ。背景には、低金利時代が長引き、収益や将来性を見通しづらいという国内事情がある。
「ネット銀行」の2つのトレンド
新しい銀行といえば、トレンドの1つはコンビニ銀行だ。
2018年にはローソン銀行が、大和ネクスト銀行以来7年ぶりとなる新銀行設立で話題となった。いわゆるコンビニ銀行として全国にATM網を持ちつつ、営業形態はネット銀行寄りという中間的な存在だ。
撮影:鈴木淳也
ローソン銀行社長の山下雅史氏は2018年のブルームバーグとのインタビューの中で、将来的な上場の可能性を示唆している。その理由として信用力の補強と自己資本調達力の強化を挙げていた。
一部にはコンビニによる銀行業進出に既存金融機関からの警戒の声もあったが、現状は地方銀行などがカバーしきれないニーズを補完する役割も大きく、両者がうまく共存しているように見える。
もう1つのトレンドはスマホを積極活用する「デジタルバンク」だ。
海外では「Challenger Bank」や「Neo Bank」などの名称で紹介されるケースが多いが、ATMや支店網の代わりにスマートフォンアプリをユーザーとの対話のインターフェイスとし、特にデジタルネイティブと呼ばれる若年層を中心にユーザーを獲得していこうという動きがある。
日本国内でもふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の「みんなの銀行」が2021年5月に、東京きらぼしフィナンシャルグループの「UI銀行」が2022年1月に、デジタルバンクサービスを開始している。「銀行」を巡る動きが非常に面白い時代になったといえる。
楽天銀行が狙う「メガバンク」規模
こうしたなか、ネット銀行の先駆者ともいえる楽天銀行はどのような動きを見せるのだろうか。
楽天銀行の2022年1月末時点での口座数は1200万で、ネット銀行のカテゴリではトップに位置する。先ほどデジタルバンクの話題に触れたが、インターネットでビジネスを進める楽天グループらしく、楽天銀行アプリの提供に加え、「支払う」という行為において「楽天ペイ」アプリとの連携も進んでいる。
同様の動きはライバルであるソフトバンクグループのPayPayが、アプリへの機能統合を進めるなかで実施している。しかしPayPay銀行の口座数は、2021年12月末時点で581万でまだ2倍近い開きがある。
楽天銀行では、このアプリやグループ内サービスとの連携を絡めたサービスのデジタル対応を「第一の成長ステージ」と表現している。資金調達を経て進むことになる「第二の成長ステージ」では、さらなる規模の拡大を目指す。
具体的な数値目標として下記のものを掲げており、2027年3月期までに口座数を「現状の約2.5倍にあたる2500万口座」、預金量を「約3.5倍にあたる20兆円」と見積もっている。経常収益では2倍、利益では2.5倍の水準であり、非常に野心的だ。
なお、2500万口座という水準は、国内トップのゆうちょ銀行の1億2000万、2位の三菱UFJ銀行の4000万に次ぐもので、みずほ銀行や三井住友銀行とほぼ同水準となる。
つまり、株式上場を経てメガバンクと同程度の規模を目指すというわけだ。調達資金は、さらなる機能拡充やサービスの充実、ユーザー獲得のマーケティングに活用していくとみられる。
楽天銀行が掲げる中長期ビジョンにおける数値目標。
出典:楽天銀行
中長期ビジョンの中では、個人向けには「テクノロジーを活用した時間と場所を選ばない利便性」や「生活口座としての活用」を掲げる。法人向けには、取引先の規模にかかわらず「経営者のパートナーになる銀行である」としている。
前述のように規模の経済を生かしつつ、楽天エコシステムとの連携を行い、デジタルを活用し低コストでの運用を可能にするのが目標となる。
いずれにせよ、他社にはない最大の強みである「楽天」という巨大な経済圏が最大の武器であることには変わりない。楽天銀行との相互連携でうまく送客し合うことで経済効果を高め、「ネット銀行」という“隙間”ニーズから誕生したサービスが、メガバンクと同じ規模で正面からぶつかっていくことになる。