【2022年の参院選のポイント10】
- 自民単独で改選議席の過半数、与党で参院全体の過半数超え
- 改憲4党で改憲発議に必要な参院全体「3分の2」超え
- 立憲は公示前勢力を下回る
- 日本維新の会が議席増
- 公明、共産、国民は議席減
- れいわ新選組は議席増、山本太郎代表が当選
- 社民党は政党要件維持、福島瑞穂党首が当選
- NHK党も政党要件維持、「ガーシー」が当選
- 政治団体「参政党」が比例で1議席、比例得票2%超えで国政政党へ
- 女性当選者が過去最多の30人
第26回参院選が7月10日に投開票され、自民党が単独で63議席(選挙区45・比例18)を獲得。公示前111議席から119議席となった。
撮影:吉川慧
改選125議席を争った第26回参院選が10月31日投開票され、自民党が単独で63議席(選挙区45・比例18)を獲得し、改選議席125の過半数を占め、大勝。公示前111議席から119議席となった。一方、野党第1党の立憲民主党は現有議席を下回った。NHKなどが開票速報で伝えた。
参議院の非改選を含めた定数は248。今回は改選124議席と神奈川選挙区の補欠選挙を合わせて125議席を争った。
岸田文雄首相は勝敗ラインについて「与党で過半数」と述べていたが、それを上回った。
また今回の選挙で憲法改正に前向きな自民・公明・日本維新の会・国民民主党の「改憲4党」が参院全体の3分の2(166議席)を超える177議席となった。
喪章、黙祷も……自民は安倍氏の“遺志”を訴えた
東京・銀座で実施された自民党の街頭演説会(2022年7月9日)
撮影:吉川慧
今回の参院選で、投開票2日前の7月8日、奈良市で演説中の安倍晋三元首相が銃で撃たれ死亡した。首相経験者が殺害されたのは戦後初めてのことだ。
首相経験者の現職国会議員が凶弾に倒れた異例の事態に、与野党を問わず「民主主義に対する攻撃だ」と非難の声が挙がった。
翌日の選挙戦最終日となる9日、東京・銀座四丁目交差点で開かれた自民党の街頭演説会。演説開始前には安倍氏への黙祷が呼びかけられた。街宣車と聴衆の間には距離がとられ、SPや警察官が列を形成して目を光らせていた。
東京・銀座で実施された自民党の街頭演説会(2022年7月9日)。
撮影:吉川慧
党の選挙スタッフは喪章をつけていた。SPと見られる人が選挙スタッフに「自民党さん?喪章をつけてください」と声をかけている場面も。喪章は関係者を見分ける意味合いもあるようだった。
喪章をつけた自民党の選挙スタッフ。東京・銀座で実施された自民党の街頭演説会(2022年7月9日)
撮影:吉川慧
応援弁士は「テロに屈することなく選挙を戦い抜く」「絶対に負けられない戦い」「安倍氏の遺志を継ぐ」と話し、候補者も「安倍先生の思い描いた未来を引き継いでいかなければ」(東京選挙区・生稲晃子氏)など、安倍氏の遺志を引き継ぐ姿勢を鮮明にし、有権者に投票を訴えていた。
生稲晃子氏と萩生田光一経産相。東京・銀座で実施された自民党の街頭演説会(2022年7月9日)
立憲・泉代表「右と左に野党が分かれている」 党勢立て直しが急務
立憲民主党の泉健太代表(2022年7月10日)
撮影:吉川慧
立憲民主党は公示前45[改選23]で、今回獲得したのは17議席(選挙区10・比例7)にとどまった。新勢力は38議席。野党第1党は維持したが、現有を下回る苦戦。比例の得票は維新を下回った。党勢の衰退になかなか歯止めがかからない。
3年前と6年前の参院選では、立憲などの野党は32の1人区で原則候補者を一本化し、与野党対決に持ち込んだ。
今回は「32人の1人区が大事だと考えていた」(西村智奈美幹事長)としながらも、野党統一候補の調整ができたのは11選挙区にとどまった。
結果、野党系候補は1人区で4勝28敗。新潟の森ゆうこ氏など著名な議員が議席を失った。小沢一郎氏の地元の秋田でも現職が敗北し、自民党が30年ぶりに議席を獲得した。
泉健太代表は10日の会見で「共闘すれば勝てる、しなかったから勝てないという単純な話ではない」とは言うものの、1人区は選挙全体の勝敗をカギを握るとされる。このままでは政権交代は遠のくばかりだ。
激戦の東京選挙区(6人区)では蓮舫氏が現有議席を確保。ただ、過去の選挙ではトップ当選だったが今回は4番手。NHKで当確が出たのは午後9時前後だった。
泉代表の地元である京都選挙区(2人区)では、自民や維新の新人と激しく争った福山哲郎前幹事長が議席を守った。
蓮舫氏は党への支持が広がらなかった理由について「何をやりたい政党なのか何をしてくれる政党なのかメッセージ性が薄かったと思う」と話した。
共産党との共闘を嫌う立憲の支持団体の一つ「連合」との足並みの乱れも垣間見えた。
2月、連合は今回の参院選の基本方針で、支援政党を明記しないという異例の方針を決めた。さらに1人区で立憲と国民民主党が競合することを容認した。立憲と国民民主党の間で一人区での候補者調整が進まなかったことで、組織の分裂を防ぐ目的があった。参院選を控え、自民党も連合に接近。野党勢力の分断を図る狙いが伺えた。
連合との距離感について、泉代表は10日の会見では「現場では惜しみない支援があり、勢いをつけていただいた」「政党自身が積極的に支援してもらえるよう、政治の側こそ努力すべきことがある」と連合への感謝を述べた。
かつて泉代表が「兄弟政党」と語ったことがある国民民主党(代表:玉木雄一郎氏)との関係については、こう語った。
「現場では生活者目線の物価対策、働き方改善、賃上げなど一緒に訴えるという環境は全国各地、地域地域の中には存在していると思う。そうした声を両党の本部は重く受け止めなければならない」
「働く人の立場を守るためにどう行動してくべきか、両党の執行部は真剣に考える時が来ている」
いずれにしろ、党勢の立て直しが急務となることは、泉代表も痛感しているようだ。
泉代表が「6年前の選挙と野党の状況は随分変わった。右の野党、左の野党にわかれ、それぞれがまとまれない状況が続いている」と述べるように、自民党に対抗できず、野党間の“つぶしあい”で存在感を発揮できない状況が続いている。
ただ、今後も自らが党の立て直しを図る意思を示し、党代表からの辞任は否定した。
維新「15」→「21」へ議席増
野党第1党の立憲が議席を減らした一方、昨年の衆院選に続いて議席を増やしたのが日本維新の会だ。
公示前は15議席[改選6]だったが、今回は12議席を獲得。比例だけで見れば得票は立憲を上回る野党第1党に。新勢力は21議席と躍進した。
ただ、選挙区は4議席にとどまり東京などでは敗北。関西圏では強いが全国政党となるには課題もありそうだ。松井一郎代表は10日の会見で「躍進という結果ではない。少し期待値が上がったのかな、という受け止めだ」と述べた。
また松井代表は「次の代表に引き継ぎたい」として党代表を辞任する意向を示した。すでに2023年4月の大阪市長の任期満了とともに政界引退の意向も表明しており、世代交代を図る方針だ。
比例区では現職の石井苗子氏、新人の松野明美氏や中条きよし氏、元都知事の猪瀬直樹氏らが当選確実となった。
れいわ議席増、社民は政党要件維持、NHK党は「ガーシー」当選
れいわ新選組の山本太郎代表(2022年7月9日)
撮影:吉川慧
その他の党の情勢をNHKの開票情報から見てみよう。
自民党と連立を組む公明党は公示前28[改選14]で、今回13議席を獲得。1議席を失い、27議席となった。
共産党は公示前13[改選6]議席で、今回は4議席を獲得。2議席減の11議席となった。激戦の東京選挙区(6人区)では現職の山添拓氏が3番手で当選。議席を守った。
国民民主党は公示前12[改選7]議席で、今回は5議席を獲得。新勢力は2議席減の10議席となった。
公選法上の政党要件を維持できるか、党の存亡を賭けた戦いと位置づけて戦った社民党は、共同通信によると比例区で2%を得票してなんとか政党要件を死守。全国比例の福島瑞穂党首が5回目の当選を果たし、公示前の1議席を守った。
れいわ新選組は山本太郎代表が東京選挙区で当選し、国政に復帰。比例では重度障害がある天畠大輔氏、コメンテーターの水道橋博士氏も議席を獲得し、公示前2議席から5議席に勢力を伸ばした。
NHK党は比例で1議席を獲得し、公示前勢力と合わせて2議席に。政党要件も維持した。YouTubeで「ガーシー」を名乗り、芸能界のスキャンダル話の“暴露”で話題を集めた東谷義和氏の当確も伝えられた。
政治団体「参政党」が比例で1議席、国政政党へ。
参政党の神谷宗幣氏。(2022年7月9日)
撮影:吉川慧
今回の参院選で新たに議席を得たのが、政治団体の参政党だ。比例で1議席を獲得。公選法上で政党要件を満たす得票率2%を超えることが確実となったと共同通信が伝えた。
参政党は自民党からの出馬経験がある元吹田市議会議員の神谷宗幣事務局長らが一昨年に設立した保守色が強い政治団体。主にTikTokやInstagramなどのSNS、YouTubeのショート動画などで演説の「切り抜き」動画が拡散され、急速に支持を広げた。
今回初の国政選挙への挑戦で選挙区に45人、比例で5人を擁立。党員・サポーター数は約8万2000人、選挙資金約5億円は党費や寄付・クラウドファンディングで集めたという。
神谷氏の演説に呼応し日の丸を振る支持者の姿もあった。
撮影:吉川慧
参政党は、「学力(テストの点数)より学習力(自ら考え自ら学ぶ力)の高い日本人の育成」「化学的な物質に依存しない食と医療の実現と、それを支える循環型の環境の追求」「日本の舵取りに外国勢力が関与できない体制づくり」を3つの重点政策とした。
具体的には、探究型フリースクールを地方自治体が作れるようにする法改正、国や地域・伝統を大切に思える自尊史観の教育、農薬や肥料・化学薬品を使わない農業と漁業の推進、外国資本の企業買収や土地買収を困難にする法律制定、外国人労働者の増加抑制、外国人参政権を認めないことなどを主張。また、政府の新型コロナ対策を批判。ワクチンを打ちたくなければ打たない自由もあると訴える。また、戦後教育や既存のマスメディアへの批判を唱えている。
女性当選者、過去最多の29人
今回の参院選では全候補者545人のうち女性候補者数は過去最多の181人に。全候補者に占める女性候補者の割合も過去最高の33.2%となった。選挙の結果、女性の当選者は30人でこれまでの最多となった。
※最新の情報に記事を更新しました(2022/07/11 12:21)
(文・吉川慧)