月面に設置する原子炉のコンセプトデザイン。
NASA
- アメリカ航空宇宙局は、月面に原子炉を設置する計画を進めている。
- この小型原子炉は、将来人類が月に居住することになった場合のエネルギー供給源となる。
- これがうまくいけば、火星でも原子炉が使われることになるだろうと専門家はInsiderに語っている。
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、月面で発電を行うための原子炉の設計をパートナー企業に委託した。恒久的な月面基地が原子力発電によって支えられる未来が一歩近づいたようだ。
NASAは、2025年までに人類を再び月に送り込み、月面で居住するための基地を築くことを目指している。そして、その基地を火星への足がかりにしたいと考えている。
月を開拓するには、日々の生活に必要なインフラを整備しなくてはならない。それには掘削、加熱、冷却、探査車の充電といった活動のための安定したエネルギー源の確保も含まれる。そして、原子力が最良のエネルギー源だとNASAは述べている。
「(月面での原子力発電開発は)火星でも適用可能な技術を開発し、経験を得るための足掛かりになるだろう」と、NASAのグレン研究センターが主導する「Fission Surface Power(核分裂表面発電)」プロジェクトのマネージャーを務めるトッド・トーフィル(Todd Tofil)は述べている。
原子炉のプロトタイプ。コア、エンジン、ラジエーターという3つの基本要素で構成されている。
NASA
新たな原子炉「KRUSTY」
月に原子力発電を導入するための最大の課題は、いかにして原子炉をロケットに積み込むかということだとトーフィルは言う。
NASAは過去15年間、ロケットに搭載できるサイズの原子炉の開発に取り組んできた。そして「KRUSTY(Kilopower Reactor Using Stirling Technology)」と名付けた斬新な原子炉の開発に至った。
以下の動画で説明されているように、この原子炉は約1〜10キロワットの電力を少なくとも10年間継続的に発生させるという。地球上の原子力発電所よりはるかに小さいが、数世帯の一般家庭が必要な電力であれば、十分にまかなえるものだ。
この原子炉は、ペーパータオルひと巻分ほどの小さな高濃縮ウランを重金属のケースに収めたものをベースとしている。
地球上のほとんどの原子炉が蒸気で動くエンジンを用いているのに対し、この原子炉ではピストンの動きで熱をエネルギーに変換するスターリングエンジンを採用している。このサイズに対して、かなり効率的な設計だ。
原子炉「KRUSTY」のプロトタイプ。下部の円筒に核燃料のウランが収められ、上部は熱をエネルギーに変換するスターリングエンジンになっている。
NASA
冷却のために、余分な熱は大きなラジエーターで放熱される。このプロトタイプでは、エンジンの上部に設置された大きなディスクがラジエーターだ。
安全のためのプロセス
まず疑問に思うのは、地球から月まで核燃料を運ぶのは安全なのかということだろう。心配する必要はない。原子炉に入れる前の核燃料は、ごくわずかな放射線しか発していない。そのため万が一、運搬中のロケットが地球の大気圏内で爆発しても、重大な脅威とはならない。
各原子炉はごく少量の核燃料しか使わないため、それぞれが放つ放射線も比較的少ない。加えて、核燃料を包む金属のケースが放射線を吸収し、漏れないようにしている。
また、原子炉の冷却に問題がある場合、稼働を停止させるシステムも備えている。
この原子炉は、地球上の原子炉とは異なり、燃料が尽きたら廃棄する計画となっている。つまり、廃棄物の処理を考える必要がない。原子炉に廃棄物を放置しておくだけで、放射性物質は着実に減少していくからだ。
「核燃料が燃え尽きることなどで稼働が停止すると、数週間後には放射線量はかなり低いレベルまで下がるだろう」とトーフィルは語った。
火星における「KRUSTY」のコンセプトデザイン。
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月から火星へ
KRUSTYを開発するFSPプロジェクトは、最終局面を迎えている。2018年には地球上でのテストに成功し、2022年6月にはプロトタイプを完成品に仕上げるパートナー企業とNASAが契約を交わした。
次のステップは、原子炉が宇宙飛行に伴う激しい振動などの圧力に耐えられるかどうかを確認することだ。
NASAはこの原子炉のさらなる活用も検討している。もし月でうまく稼働すれば、火星でも使えるかもしれない。さらに、月で収集した情報は、原子力を動力源とする深宇宙探査のコンセプト開発にも役立つだろう。
「パートナー企業には、月で使えるユニットを設計してもらい、それを最小限の変更で火星でも使えるような装置にしていきたいと考えている」とトーフィルは述べた。
[原文:NASA has a plan for mini nuclear reactors on the moon which could one day power a lunar colony]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)