ハイスペ化する「駐妻」たち。外銀、商社、MBA…現地就職でキャリアの断絶防ぐ

夫の海外転勤に帯同する女性、いわゆる「駐妻」といえば、どのようなイメージをお持ちでしょうか。夫の海外転勤を機に寿退社して、海外生活を謳歌。日本帰国後も専業主婦に —— という印象が強いかもしれません。

しかし、それは昔の話です。総合商社や大手メーカーで働き、駐在先でもバリバリ仕事。帰国後のキャリアアップを目指す「ハイスペ化」する駐妻たちが増えていること、知っていますか?

商社総合職同士のパワーカップルから駐妻へ

駐妻

「駐妻」たちのキャリアを断絶させないため、現地就職や越境リモートを支援する動きがあります(写真はイメージです)。

GettyImages / MoMo Productions

こんにちは。「駐妻キャリアnet」代表の三浦梓です。駐妻たちのキャリア支援を行う私たちの団体には、世界54カ国、625名の駐妻、プレ駐妻(帯同を控えた女性)、元駐妻たちが所属しています(2022年7月時点)。

駐妻になる前の彼女たちは、86.1%がフルタイム勤務でした。

勤務先はボストンコンサルティング、ゴールドマンサックス、メリルリンチ、三菱商事、伊藤忠商事、トヨタ自動車、本田技研工業、パナソニック、楽天、リクルート、JAL、ANA、キリンビール、富士フィルム、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、JETRO、外務省、環境省。他にも弁護士や公認会計士、税理士など、錚々(そうそう)たるキャリアです。

特に大手商社や大手メーカーの場合は夫と同じ会社で総合職として働いてきた女性が多く、いわゆる「パワーカップル」の増加が駐妻のハイキャリア化の背景にあります。

気になる帰国後のキャリアは

駐妻

提供:駐妻キャリアnet

彼女たちが見据えているのは、駐妻期間を謳歌することではなく、その後のキャリアです。

駐妻キャリアnetの会員らを対象にアンケートを実施した結果(2020年7月〜2022年5月)、「本帰国後に希望する働き方」は大きく以下の3つにわかれていることが分かりました。

1. 元いた会社に復職したい

帯同休職制度や育児休業を利用している人たちが該当します。背景には近年、官民ともに休職制度やカムバック制度などの再雇用制度を導入する組織が増えてきたことがあります。中には退職後5年以内であれば復職可能、つまり駐在期間5年以内であれば復職できる保険会社も。

2. 同業他社や違う職種に転職したい

勤務先に海外で働き続ける仕組みがなかったり、配偶者の勤務先が帯同者の就業に後ろ向きだったりと、海外帯同を機に退職せざるを得なかった人たちがこのケースです。再雇用制度がない限り転職が必要になるため、同じ職種を希望する人もいますが、海外生活を経て価値観が変化し、別職種への転換が視野に入ってくる人も多いです。商社勤務をしていた人が駐妻期間中に現地のMBAに進学し、経営企画としてメーカーに転職をしたケースもありました。

3. 独立・フリーランスに挑戦したい

このケースで多いのが、「キャリアコンサルタント」や「ライター」として独立したいという人です。前者は自身のキャリアが変化したことでキャリア形成に興味を持つ方が多いこと、全国の大学のキャリアセンターや個人で顧客を獲得して働くことが可能なため、時間や場所に左右されない働き方が可能になる点などが理由です。後者は駐妻期間にブログを書いて文章を書くことが好きなことに気づき、ライターの道に進むケース。主婦向け、海外生活者向けのライター以外に、企業のPRライターとして働くケースも増えています。

再就職の壁はブランク、年齢、専門性

リモートワーク

駐妻の再就職にはさまざまな壁があります(写真はイメージです)。

GettyImages / Morsa Images

しかし、いざ日本に戻り正社員での復職を希望して転職活動を行うも苦労しているのを聞きます。理由はこれも以下の3つに分類することができます。

1. ブランク期間の長さ

一般的に企業でブランク期間と認められるのは6カ月以内、短いと3カ月以内という企業もあります。私自身、人事として書類選考を担当していたこともありますが、許容できるブランクは6カ月以内でした(もちろん育児休業は対象外です)。一方、駐妻期間の平均は3年〜5年で、長い方だと10年以上という方もいます。つまり書類選考の時点で不採用になることが多いのです。

2. 年齢のハードルの高さ

駐妻キャリアnet会員で1番多いのは30代で、全体の60%を占めます。次に多いのは40代です。35才以上はリーダーポジションでの採用が増えてくるため、それまでにマネジメント経験がない場合は、年齢基準で不採用になってしまいます。

3. 専門性のブラッシュアップ

駐妻期間の3〜5年の間に企業は変化し続けています。面接でいくら海外の活動(語学習得やボランティア)をアピールしても、今の仕事に適応できないと判断されれば当然、不採用に。どのように最先端のスキルを持ち続けるかが重要になってきます。

日本企業の越境リモートや現地就職でキャリアつなぐ

駐妻

駐妻キャリアnetのHPには多くの駐妻女性たちのインタビューが掲載されており、『駐妻キャリア図鑑〜リモートワーク編〜』も出版。

出典:駐妻キャリアnetホームページ

そこで私たち駐妻キャリアnetでは、女性たちが持続的なキャリア形成ができるよう、帯同先での就労やボランティア、プロボノの機会を提供しています。仕事に限定していないのは、ビザの関係上、働けない人もいるためです。

駐妻キャリアnetで226名にアンケートを行ったところ(2020年7月〜2022年5月)、提供してほしい就労機会として最も多い希望は「海外(帯同場所)から日本企業とのリモートワーク」で54.9%、次いで「現地企業での就労」で46.5%でした。

コロナ禍によるリモートワークの普及や副業解禁の流れもあり、海外にいながら日本企業で働く「越境テレワーク」を容認する企業が増えています。私たちはそうした日本企業と駐妻とのマッチングを行ったり、アメリカやシンガポール、タイの人材紹介会社と提携し、現地の仕事を紹介したりしています。

また企業に属するだけでなく、副業や個人事業主として自分で稼げる人材を輩出したいとも考えています。英語コーチのような専門性を活かす仕事を創っていくことを現在計画中です。駐妻×専門性を生かした仕事が軌道に乗ることで、キャリアブランクの解消だけでなく、自分で自分の人生を切り拓いたという自信に満ち溢れた女性を増やしたいと思っています。

駐妻キャリアnetにはかつて夫の駐在に帯同していた女性も含まれます。訂正し、表現を修正いたしました。2022年7月15日18:00

(文・三浦梓 / 編集・竹下郁子)


三浦梓:駐妻キャリアnet代表。1981年生まれ。大学院卒業後、株式会社リクルートに就職。営業、商品企画、人事を経験後退職し、A.T Kearney株式会社に採用責任者として就職。その後フリーの人事コンサルタントとして活動すると同時に、友人とヒューマンブランディングの会社TORCHを立ち上げCOOに就任。他に慶應義塾大学大学院SDM研究科研究員。LinkedIn認定クリエイター 。月刊人事マネジメントコラム「駐在員妻たちの能力を活かそう」執筆。自身も夫の海外赴任(ブラジル)に帯同している。

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