復元されたメラクセス・ギガスの頭蓋骨。
Courtesy of Juan Ignacio Canales
- アルゼンチンで、全長約11メートルの新種の恐竜が発見された。
- これは、独自の進化を遂げて小さな腕を持つようになった恐竜としては、3番目のグループに属している。
- この小さな腕が何のためにあるのかまだ分かっていないが、偶然の産物ではないことは確かなようだ。
巨大肉食恐竜の新種がアルゼンチンで発見され「メラクセス・ギガス(Meraxes gigas)」と名付けられた。体の大きさに不釣り合いなほど小さな腕を持っており、このような進化をした巨大肉食恐竜として3番目のグループに属する。
この恐竜は、ティラノサウルス・レックスなどの他の小さな腕を持つことで知られる捕食動物が繁栄した時代の2000万年前に姿を消していることから、この小さな腕は独自に進化したものであることが分かる。しかし、その理由はまだ明らかになっていない。
古生物学者の間では、巨大捕食動物の小さな腕の機能に関する白熱した議論が繰り広げられていて、専門家は「Current Biology」に2022年7月7日付けで掲載された今回の発見に関する論文はそれに拍車をかけるものだとInsiderに語っている。
「腕が小さくなっていくというのは、巨大な肉食動物の間で実際に繰り返されているパターンだ」とロンドン・クイーンメアリー大学の古生物学者デイブ・ホーン(Dave Hone)は述べている。なお彼はこの研究には参加していない。
論文の共同執筆者で古生物学者のピーター・マコヴィッキー。恐竜の大腿骨とともに撮影。
Courtesy of Juan Ignacio Canales
メラクセス・ギガス
アルゼンチン、ブエノスアイレスにある国立科学技術研究評議会(CONICET)の研究者で、論文の筆頭著者であるフアン・イグナシオ・カナル(Juan Ignacio Canale)によると、化石は2012年に発見されたが、巨大な骨格の発掘と分析に10年かかったという。
カナルの研究チームは、パタゴニア北部の化石が豊富なフィンクル層の現地調査を行っていたところ、人間の頭ほどの大きさの椎骨の化石を発見した。
星印が示す場所で恐竜の化石が発見された。
Courtesy of Juan Ignacio Canales
この化石は、カルカロドントサウルス科に属する2本足の肉食恐竜の一種のものであることが判明した。白亜紀に生息していたが、8000万年から8500万年前に絶滅したという。ティラノサウルスを含む恐竜が大量絶滅した時期よりも2000万年ほど前のことだ。
発掘で見つかった骨は白で示されている。
Canale and colleagues, Current Biology (2022)
カルカロドントサウルス科の新種であるメラクセス・ギガスは、小説「ゲーム・オブ・スローンズ」に登場するドラゴンにちなんで名付けられた。発見された化石は45歳ほどで死んだ成体のもので、全長は約11メートル、体重は4トン以上だったと推測される。
メラクセス・ギガスの想像図。
Carlos Papolio
長年の謎になっている「小さな腕」
ティラノサウルス科とアベリサウルス科の恐竜は、体格に不釣り合いなほど小さな腕を持つグループとして知られている。その3番目のグループとして、カルカロドントサウルス科が加わることになった。これらの3グループは、いずれも体が大きくなるほど頭も大きくなり、腕は縮んでいったという同じ進化のパターンをたどったようだ。
ホーンとカナルは、これらの3つのグループが理由もなくこのように進化したわけではないと考えている。
「1回目は目新しさだったかもしれないが、2回目、3回目と繰り返し起きている」とホーンは言う。
大きくなった頭だけで狩りができるようになったことから、腕は必要がなくなり、小さくなった可能性もある。ホーンによると「機能しないものは、縮小されるか、失われる傾向にある」という。
しかし、その腕がまだ何かに役立っていたかも知れないという兆候もあり、それはメラクサス・ギガスにも見られる。腕の骨はまだかなりしっかりとしており、巨大な靭帯の痕跡があることから、強い筋肉に付着していたことがうかがえる。腕の全体的な形は、時を経ても変わっていないという。
メラクセス・ギガスの背骨の一部。発掘現場で撮影。
Courtesy of Juan Ignacio Canales
「この腕は、何かをつかむために使われていたようだが、それが何かは分からない。捕食用ではないだろう。1メートル半ほど大きさの頭蓋骨を持ちながら、この小さな腕では、(獲物を捕る)役に立ちそうもない」とカナルは言う。
「しかし、他の活動には使えたかもしれない」
メラクセス・ギガスの指骨の化石。
Courtesy of Juan Ignacio Canales
小さな腕の使い道は、攻撃のためか、あるいは交尾のためか
古生物学者は、ティラノサウルスなどの大型の捕食動物がその小さな腕をどのように使っていたのかを説明するために、多くの仮説を提唱してきた。
ある者は、交尾の際に相手をつかむのに使われた、あるいは攻撃の際に巨大な頭のバランスを取るために使われたなどと言っている。
また、捕食動物が倒れたところから起き上がるのに役立ったのではないか、あるいは狩りの際にトリケラトプスを倒す(これは「牛倒し(cow-tipping)」仮説と呼ばれている)のに使われたのではないか、と言う者もいる。
ホーンにとって、これらはどれも特に説得力のあるものではない。
「小さくなった腕に機械のような役割があるという可能性については賛成だ。しかし、10秒ほどじっくりと考えても耐えられるような理由が欲しい。まだそこまでには至っていない」と彼は言う。
「古生物学にはたくさんの謎がある。これはそのひとつだ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)