グーグル(Google)最高経営責任者(CEO)のスンダル・ピチャイ。最近ポッドキャスト番組で働き方の柔軟性について発言した。
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週5日のオフィス出社を再開させる企業が増えるなか、グーグル(Google)のスンダル・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は、フレキシブルな勤務形態が働き方の恒久的なスタンダードになると考えている模様だ。
ピチャイは6月9日に配信されたポッドキャストコンテンツ「How I Built This」(起業家や経営者の肉声を伝える人気番組)で、ホストのガイ・ラズに対し「人々はもっと自由で柔軟な生き方をするようになるでしょう」と発言した。
「いまから10年後、少なくともグーグルを含めたテクノロジー企業について言えば、従業員がもっと柔軟な形で働いていることは間違いありません。私たちは企業として、そうした柔軟性を内部にとり込み、皆がそのように柔軟な働き方をする未来とはどんなものかに思いを巡らせる機会として活かそうと考えているのです」(ピチャイ)
ただし、すべての経営者や管理職がピチャイの言うような柔軟な働き方を良しとしているわけではない。
例えば、テスラ(Tesla)CEOのイーロン・マスクは6月3日、全従業員に対し二者択一の最後通牒を迫っている。
「1週間に最低40時間はオフィスで過ごすことが義務づけられている。しかも、そのオフィスは遠隔地の疑似オフィスではなく、実際の同僚がいる場所でなければならない。出社しない場合は退職したとみなす」
また、ピチャイの前任者であるグーグル元CEOのエリック・シュミットは、マスク以上の「オフィス勤務強硬派」だ。
米CNBCの4月5日公開の動画コンテンツ「Make It」(仕事や貯蓄、消費などお金をテーマに経営者らに話を聞く人気番組)に出演したシュミットは、オフィス勤務には数々の成功を生み出してきた数十年の実績があるとした上で、自分は「伝統主義者」だと発言している。
シュミットは「私の考えでは、従業員はオフィスに出社して働くことが重要だ」と語り、20代後半から30代前半の学びざかりの若い従業員たちにとって、マネジメント手法や会議でのエチケット、プレゼンスキルなどを効率的に習得するにはオフィスが最良の場であると強調する。
実態とのかい離が…
一方、ピチャイは柔軟な働き方が恒久的に定着することを素晴らしいと思える背景に、オフィスはどんな場所であるべきか検討と実験を続けてきたグーグル自身の歴史があると語る。
1998年、グーグルはシリコンバレーの本社オフィスのど真ん中に滑り台を設置し、「楽しい」オフィスを持つスタートアップの代表格と評判になった。
「グーグルは20年前、職場がどうあるべきか、どんな場所になれるかというテーマについて、それまでにあったさまざまの概念を覆(くつがえ)したと思っています。
楽しみと仕事を同じひとつの場所に共存させることができるという事実。あるいは、キャンパスのすぐそばに託児保育施設があれば、従業員皆が幸せになれるという事実。オフィスのど真ん中に滑り台を設置することができるという事実。
オフィスをそんなふうにしたからと言って、従業員の生産性が下がることはまったくないのです」(ピチャイ)
グーグルにはこうしたピチャイの発言を聞いて驚く同僚もいるかもしれない。
と言うのも、同社はポリシーとしては(リモートワークとオフィス出社を組み合わせた)ハイブリッドワークを採用しているものの、実際にはほとんどの従業員が最低でも週3日のオフィス出社を求められている状況があるからだ。
メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)やツイッター(Twitter)などテクノロジー業界の競合各社は、従業員に恒久的なフルリモートワークを認めている。
Insiderは以前の記事(3月16日付)で、ハイブリッドワークを認めたポリシーの適用が公平に行われていない実態、つまり従業員の一部がリモートワークを完全に禁止されている状況について、グーグルの従業員総会で不満の声が上がったことを報じている。
ピチャイは先述のポッドキャストで、柔軟な働き方が今後も維持されることは、職場における人種や性別をめぐる格差の解消につながるうえ、育児中の母親や(グーグル本社のあるマウンテンビューに近い)サンフランシスコのような物価の高い大都市に住む経済的余裕のない人々にも利益をもたらすと語った。
「私たちはいまや人々が暮らすその場所で採用できるようになりました。どこに住んでどこで働くのかを以前ほど気にする必要はないのです」(ピチャイ)
現在、企業のオフィスは週5日従業員が集まる物理的な空間であることを前提に設計されているが、柔軟性が高まる将来の世界では、ハイブリッドワークに対応した「スペースの再構成」と「テクノロジーの進化」が不可欠になるともピチャイは語っている。
(翻訳・編集:川村力)